矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2019.07.26

ERP市場と「2025年」を巡る問題

「2025年」は企業の基幹システムにとって二重に悩ましい年である。
経済産業省は、2018年9月に発表した「DXレポート」で「2025年の崖」について警告を発した。複雑化・老朽化・ブラックボックス化したレガシーシステムがDX(デジタルトランスフォーメーション)の足枷となっており、日本経済は2025年以降、最大年12兆円の損失を被る可能性があるという。

ERP市場においては、SAPにまつわる別の「2025年問題」が取り沙汰される。SAP ERPのサポートが2025年に終了する予定で、既存ユーザは新バージョンS/4 HANAへと移行しなくてはならない。2000社もあるユーザのバージョンアップが集中することにより、エンジニアが逼迫することも懸念されている。ユーザにとっては大きな負担となることにはなるが、企業の経営環境が大きく変化している一方で、1992年に登場したSAP R/3を長年使い続けているユーザは多い。古い基幹システムから時代に即した新しいシステムへのリニューアルが迫られているという点で、経産省の「2025年の崖」と共通した問題ということができる。

【図表:2025年の崖】

出所:「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」(2018年9月)

エンジニア不足はSAPだけの問題ではない。ERP市場調査レポートのために取材を行っていると、どのベンダーも二言目には「エンジニアの人手不足」に言及する。事業は好調でも対応するエンジニアの数が足りないので案件の数に追いつかないというのだ。SAPとその他のERPパッケージが共に限られたパイの中で人員の確保に躍起になっている。ERPエンジニアは業務知見が求められるため一朝一夕には育たない。また、就職してこれから技術を身につけようという若手はクラウド、AI、IoTなどの新分野を選びたがるため、若手の流入が少なくERPエンジニアの高齢化が進んでいるという話も聞いた。
この状況は2019年以降いっそう深刻化する見通しである。ITベンダーにとっては人手不足がERP事業の成長の阻害要因となり、ユーザ企業には「2025年の崖」が迫る。

ITベンダーは、エンジニア不足に手をこまねいているわけにはいかない。IT業界全体で人手不足が深刻化しており単純に人員を増やすことには限界があり、プロジェクト自体の短期化、クラウド化の推進、エンジニア育成方法の変革などにより効率的にERPを導入できる体制を整える必要があるだろう。アドオンを前提とした手間とコストのかかるシステムではなく、短期間でシンプルに導入でき利便性に優れたシステムのほうが時代の要請にもあっている。また、ユーザ企業は、SAPユーザのみならず、アドオン開発を重ね老朽化した基幹システムを抱えている場合は早々に見直すべきタイミングを迎えている。しかも、その際にベンダー側の人材枯渇によりSIer任せにするわけにはいかない可能性も出てくる。

最新のERPはSAPのみならず高機能化、高速化が進み、20年前のシステムからはアーキテクチャが刷新されている。SAP S/4 HANA、Microsoft Dynamics 365、Oralce ERP Cloud、Infor など外資系パッケージの新製品は、いずれも「DXを実現するための基幹システム」と銘打って登場した。国産パッケージもクラウド対応や製品のリニューアルが相次いでいる。
ERP市場の「2025年」を乗り越えるためには、ITベンダー・ユーザ企業双方に、従来型の単なるバージョンアップではなく、ビジネスの変化に対応して競争力を発揮する基幹システムを選択する気概が求められる。

関連リンク

■レポートサマリー
ERP市場動向に関する調査を実施(2023年)
ERP及びCRM・SFAにおけるクラウド基盤利用状況の法人アンケート調査を実施(2022年)
ERP及びCRM・SFAにおけるSaaS利用状況の法人アンケート調査を実施(2020年)
ERP及びCRM・SFAにおけるSaaS利用状況の法人アンケート調査を実施(2018年)

■アナリストオピニオン
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