矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2008.12.08

厳しい環境下で高まるユーザ企業のERPへの期待

ERPへの投資にはリターンが求められる

ERPが日本で利用されはじめて10年以上経つ。企業にとって、ERPは“あるべきもの”という地位をすでに確立したものといえるが、ユーザ企業の課題やERPに対するニーズは、時を追って変化している。

【基幹システムへの投資計画の有無:「あり」58%】
矢野経済研究所が実施したERPに関するユーザ調査結果では、ERPの導入率は39%に達していた。ERP導入の裾野が、大企業から中小企業へ、製造業からサービス業や流通業へと広がった結果であろう。
今回のERPに関するユーザ調査は、世界経済が危機に直面した時期(2008年9月)に実施されたものだが、調査対象企業のうち58%からは「2009年~2010年に基幹システムへの投資計画がある」との回答が得られた。しかし、その後不況は深刻度合いを深めており、2009年度にかけては、当初計画を改め、予算削減や凍結を余儀なくされる企業も現れると予想される。
好景気がIT投資意欲を刺激し、オフコンからのリプレイスも進んだ2007年までとは潮目が変わったといわざるを得ない。

【ERP投資意欲がもっとも高い分野:「販売管理システム」】
では、このような厳しい経営環境下にもかかわらず、企業はなぜERPへ投資を行なうのだろうか?
実は「今後ERPに投資する予定がある」と回答した企業のうち65%が、すでにERPを導入済みで、追加投資の段階にある(図表1)。ERPは、新規導入が相次いだ段階は過ぎ、追加投資やパッケージのリプレイスを含めた第2サイクルに入っているといえる。
ERPのうち、2009年にもっとも投資意欲が高い分野は「販売管理システム」であった。まず「財務会計分野」にERPを適用した企業が、会計との連携で効果を出しやすい「販売管理システム」へ、利用範囲を拡大する動きが起きていることが推測できる。

図表1:今後2年間の基幹システム投資におけるERPの検討状況
ERP検討状況グラフ

しかし予算が絞られると、「販売管理システム」のような戦略的なERP分野に割くよりも、企業はむしろ守りに徹するのではないか、という疑念も生じる。
そこで今回のERPに関するユーザ調査では、「今後ERPを利用する狙い」についても訊ねた。

【今後ERPを利用する狙い:「業務最適化」がトップ】
「今後ERPを利用する狙い」という問いでもっとも多かった回答は「業務最適化」で、「現システムの老朽化対応」をわずかだが上回る結果となった(図表2)。
単なる旧型インフラの入れ替えだけでは、経営に対する効果は得られない。それに対しERPなら、たとえば「会計システム」と「販売管理システム」の統合による一元化といった役割により、その効果を発揮できる。どの業務分野であっても、ERP導入には、業務効率化や経営スピード向上といった価値がいっそう強く求められる。
このように、投資全体のパイが縮小している現況下でも、ERPに対する期待度は依然高く、IT投資に対して「業務最適化」というリターンを求める傾向が強まっていると考えられる。

【今後ERPを利用する狙い:3位「内部統制への対応」にも注目】
ERP利用の狙いとして「内部統制への対応」が3位に挙がっている点も、現時点でのニーズを反映していると見られる。
今後、企業は国際会計法への対応も視野に入れる必要が出てくると考えられる。法規制への対応は、J-SOX法対応がそうだったように、企業にとっては守りの範疇であるため、それ単体では投資理由にはなりにくいかもしれないが、システム導入や見直しの前提条件になってくるものと考えられる。

図表2:今後2年間のIT投資においてERPを利用する狙い
ERP利用する狙い(グラフ)

製品以上にITベンダーの役割は大きい

次に、ERPへの評価のなかでも、ITベンダーの力量に大きく関わるカスタマイズとサポートサービスにフォーカスしてみる。

【ERPカスタマイズに対するユーザの意見】
まずカスタマイズについてみてみると、ユーザが実感しているERPの導入効果のトップは「業務の標準化」で、ユーザのBPRを手助けしていることは間違いないものの、自社の独自性については譲れない部分があるようだ。
ERPパッケージを選ぶ基準としても、「カスタマイズの柔軟性」が上位に挙がる。問題は、カスタマイズがERPに対する不満に繋がっていることだ。以下のユーザコメントからも、カスタマイズにまつわるトラブルの多さが窺える。

ユーザのコメントから:カスタマイズについて
  • カスタマイズをした結果パッケージの原型がなくなった。最初にギャップの大きさを判断し、伝えて欲しかった
  • ベンダーは提案時にカスタマイズは最小限で済むと言っていたが、プロジェクトがスタートした後に膨大になった

これらは即ちITベンダーへの評価にも直結する。ユーザコメントでは、以下のように、製品よりも「人」に対する意見が目立った。

ユーザのコメントから:「人」に対する意見
  • コンサルタントやSEの能力によってプロジェクトの成否が決まる
  • パッケージ自体は能力があるが、ベンダーの能力が弱い

【「サポートへの不満」が製品乗り換えのきっかけに】
ERPのサポートサービスについても「人」が問題になる。ERPは、導入以降の問い合わせやトラブル対応、社内外の環境変更への対応によるバージョンアップや変更など、サービス面でITベンダーと長く関係を持つことになる。当然、基幹システムゆえに保守運用部分の重要度も高い。

ERPはすでに別パッケージからのリプレイスという第2サイクルの段階にある、と前述したが、他製品への移行を考えたきっかけが「サポートのサービス面で不満があったから」という企業は多い。
実際、多数の製品が競いあうなかで機能は平準化し差別化しにくくなっており、機能の過不足だけでは、別製品へ移行する労力を費やす理由にはなりにくい。
ベンダー側に聞くと、どの企業も「サポートを重視し顧客を大事にしている」と口を揃えるものの、保守継続率などで差が出てきているのが実情である。
別パッケージへのリプレイスの動きは、ベンダーにとっては他社からユーザを奪うチャンスであると同時に、顧客を失うリスクをも抱えていることになる。

不況やIT予算削減など逆風が吹くなか、ユーザ企業では、メリハリのあるムダのない投資によって最大限の効果を獲得しようとする傾向が強まるだろう。
また、ERPに対する意識はすでに成熟し、選択眼はシビアになってきている。ユーザ企業のパートナーとして、導入時や導入後も最適な提案やサービス提供ができるか、ITベンダーの力量が問われる機会が増えそうだ。

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小林 明子(コバヤシ アキコ) 主任研究員
変化の早いIT市場において、皆様や業界のお役に立ち指針となるよう、独自の情報を発信していきたいと考えています。市場調査はもとより、販売促進やマーケティングのご相談、情報交換などお声掛け下さい。

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