矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2022.10.31

注目度高まる「非財務情報の開示」

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とESGで加速

企業の変革として、DXのみではなくSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)が求められるようになっている。SXとは、経営環境が急速に変化し不確実性が高まる中、持続可能(サステナブル)な企業となるための変革を指す。サステナビリティ経営においてESG(環境、社会、ガバナンス)の観点が重視されるようになるとともに、世界的に「非財務情報の開示」の動きが加速している。

【図表:サステナビリティ・トランスフォーメーションとは】

出所:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて~

人的資本の開示 政府は開示義務付けの方針を示す

岸田首相は2022年7月に大企業の非財務情報開示を義務付けると発表した。上場企業に対しては2023年度から開示をスタートする方針である。
企業や経営者に何が求められるのかを概観すると、内閣官房による非財務情報可視化研究会が2022年8月に発表した「人的資本可視化指針」では以下の点が挙げられている。

  • 経営層・中核人材に関する方針、人材育成方針、人的資本に関する社内環境整備方針などについて、
  • 自社が直面する重要なリスクと機会、長期的な業績や競争力と関連付けながら、
  • 目指すべき姿(目標)やモニタリングすべき指標を検討し、
  • 取締役・経営層レベルで密な議論を行った上で、自ら明瞭かつロジカルに説明すること

ガバナンス、戦略、リスク管理、指標や目的という要素で情報を開示するためには、やはりデータの管理が必須となり、HRM、HCMといったシステムを活用した情報の可視化が有効となる。

GHG排出量の開示 サプライチェーン全体に影響が及ぶ

CGC改定によって、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、TCFDと同等の枠組みに基づく開示が求められることとなった。
TCFD(Task force on Climate-related Financial Disclosures気候関連財務情報開示タスクフォース)とは、2015年12月に金融安定理事会(FSB)によって設立された機関である。2017年6月に企業等に気候変動への取り組みを開示することを推奨する最終報告書を公表し、「ガバナンス(Governance)」「戦略(Strategy)」「リスク管理(Risk Management)」「指標と目標(Metrics and Targets)」を開示推奨項目とした。
サプライチェーン全体でのGHG排出量の管理となるため、影響は取引先にも及ぶ。既に、外資大手企業などは日本の取引先企業にGHG排出の管理・削減を要請している。また、金融業界ではSDGs/ESG融資を行う動きも鮮明になっている。中堅中小企業では自社での重要性は低いと考える企業が多いことは予想されるが、金融機関の融資判断や大手企業による取引先・調達先の選定において、脱炭素の取組が含まれる機会は増えるだろう。
システムとしては、外資系を中心とした大手ベンダーがGHG管理・削減支援ソリューションを提供するほか、ゼロボード、アスゼロ、ウェイトボックスなど専業のスタートアップも登場している。

ERPによる財務情報と非財務情報の統合管理

ここで筆者の専門領域の一つであるERPとの関連を考察する。
人的資本は、ERPには人事管理機能があるため親和性が高い。給与など財務に関連する情報を管理するシステムと、人材情報を管理するシステム(タレントマネジメント、従業員エンゲージメント、EX管理、ピープルアナリティクスなど)が連携して活用されていることは多い。ERPベンダーからは統合ソリューションも提供されている。

GHG排出量のほうはERPにとっては一見無関係のようで、異色のテーマに見えるが、こちらも一部のERPベンダーが重要なテーマとして掲げている。SAPは、CO2排出量の管理や削減支援を行う「SAP Product Footprint Management(PFM)」及び、経営層へのサステナビリティ関連指標の可視化を支援する「SAP Sustainability Control Tower(SCT)」を提供する。日本マイクロソフトは2022年6月にCO2排出量管理ソリューション「Microsoft Cloud for Sustainability」の一般提供を開始した。インフォアジャパンはソリューションの提供はまだ行っていないが、今後の注目テーマに脱炭素を挙げており、日本オラクルは、2022年4月にサステナビリティに対する取り組みに関して説明会を行った。
言うまでもなく、ERPは財務情報を管理するシステムであるが、企業経営の中核にあるERPで、財務情報と非財務情報をともに管理するというコンセプトは自然な流れとなると予想する。

関連リンク

■レポートサマリー
ERP市場動向に関する調査を実施(2022年)
ピープルアナリティクス関連ソリューション市場の調査を実施(2022年)

■同カテゴリー
[エンタープライズ]カテゴリ コンテンツ一覧

YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。

YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。

東京カスタマーセンター

03-5371-6901
03-5371-6970

大阪カスタマーセンター

06-6266-1382
06-6266-1422