矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2013.04.25

成熟したERP市場で求められる経営支援力

ERP市場は5年ぶりに2桁増 成長軌道に戻る

2012年のERP市場は5年ぶりに2桁増の1,091億円となった。ERP市場はリーマンショックの影響で2008年から減速が始まり、2009年には前年比15.8%減と大きく落ち込んだ。その後は、徐々に上向いてきていたが、2011年には東日本大震災によって一時的に経済活動自体が停滞するという事態も起きた。
2012年には本格的に市場は回復し、新たな成長軌道に乗ったと言える。アベノミクスの成果はまだ見えないものの、円安や金融緩和などによって景気は回復基調にあり、2013年も引き続きユーザ企業の投資拡大が見込まれる。ここしばらく厳しい事業環境にあったERP市場関係者も、ここにきて明るい兆しが見えていることだろう。

【図表】ERPパッケージライセンス市場規模推移と予測
【図表】ERPパッケージライセンス市場規模推移と予測

矢野経済研究所推計
注:エンドユーザ渡し価格ベース
注:予は予測値
注:CAGRは2008年から当該年までの年平均成長率

ただしERP市場は成熟市場である。既知の通り、ERPの導入ブームが起きたのは1990年代後半から2000年頃、既に10年以上前だ。弊社の調査では、会計・人事分野のパッケージ導入率は約7割に達している。また、ERPパッケージ、基幹業務パッケージと称する製品は数えきれないほど存在している。「ビッグデータ」のようにまったく新しいニーズを生み出すキーワードとは、市場の構造が異なっている。
取材を行っていくなかでは、ベンダーからは「ユーザの価格への要求は年々厳しくなっている。」「コンペで比較される競合ベンダーの数が増えた。」「ベンダー間での価格競争は激しくなっている。」といった声が聞かれた。ERPビジネスはパイの奪い合いとなっており、市場の回復に伴って好調に売り上げを伸ばしているベンダーもあれば、停滞を余儀なくされているベンダーも見られる。市場のトレンドを味方につけるためのポイントを考察する。

競争力向上、利益創出に資する経営基盤としてのERPが求められている

いま、ユーザ企業はERPに何を期待しているだろうか。ERPを導入しさえすればベストプラクティスを取り入れられる、というのは10年以上前に散見された誤った発想である。バブル後のリーマンショックなどの浮き沈みを経験したユーザは、ERPをツールの一つとして、変化する環境下で俊敏な経営を行うためのIT基盤を求めていると考える。

この観点から見たERP市場のポイントを二つ挙げよう。
一つ目は「グローバル」である。ユーザ調査を行うと、海外進出企業では、グローバルITガバナンス、グローバルSCMの最適化といった課題に取り組む意欲は非常に高い。海外拠点へのERP導入は、案件数、金額ともにおそらく過去最高となっていると推測され、今後更に増加するだろう。新興国市場を獲得し国際市場での競争力向上を狙う企業では、戦略的なIT基盤が必要とされている。先進的な大手企業のみではなく、中堅中小企業においても海外の情報システムを整備するニーズは高い。
国産パッケージも海外事業に乗り出しているものは増えているが、成功している製品はまだない。海外導入への対応は、ERPパッケージにとって切り札の一つとなる。しかし、言語対応、通貨対応だけではなく、導入支援やサポートなどのサービスを含めてのERPである。地域や言語、時差への対応も必要となり、新興国での価格水準は日本より大幅に安価である。かといって、顧客サービスとして赤字覚悟で臨んでいては、継続的な事業の柱にすることはできない。
ユーザ企業の海外シフトは、ベンダーにとってはビジネスチャンスであり、チャレンジでもある。海外ベンダーに顧客を奪われるという脅威にもなるかもしれない。近年インドベンダーなどの活躍も目立っており、ユーザ企業のITパートナーとしての価値向上も課題といえる。

二つ目は「利益創出への貢献」だ。このたび製造業向けにERPを提供しているITベンダー数社に、「製造業に訴求しているERPの導入効果は?」と尋ねると、一様に「原価管理のレベル向上がポイントだ。」と答えた。製造業でコストが『どんぶり勘定』となっている企業は多い。会計、販売、製造の情報がシームレスに結びついているERPを有効に活用すれば、原価管理によるコスト削減と利益創出、更にコストを抑えるための原価企画を行っていくことが可能になる、という価値訴求である。製造業の原価管理は一例であるが、利益と費用の情報を企業経営に役立てる役割がERPに求められるようになっている。システムを導入すると業務効率化によって人件費が削減できる、といったコスト削減ツールとしての役割は薄れているようだ。

どちらのポイントにおいても、部分的なシステム化による業務管理から、ERPを軸とした全体最適化の推進により、経営基盤を強化するという動きが進んでいることがうかがえる。アベノミクス効果として増加するIT投資を座して待つのではなく、ユーザ企業がグローバル競争を勝ち抜くためのITパートナーとしてERPビジネスに臨む者――「誰が市場のトレンドに乗ることができるのか」という問いに対しては、このように考えている。

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