矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2017.07.20

クラウド化で変容するプラットフォームの経済的効果

プラットフォームとは

現在、プラットフォーマーというポジションを巡る争いが激しくなっているのは周知の通りである。プラットフォーマーはその業界の支配者ともいえ、GoogleやFacebook、LINEなど、地位争いに躍起になっている。

本稿ではこの「プラットフォーム」について、基礎的なところから整理しつつ、クラウド化したことによる影響を考察してみたいと思う。

さて、そもそもプラットフォームとはなんであろうか。
少し考えると、まずは鉄道のプラットフォーム(駅)が頭に思い浮かぶ。そのほか、石油プラットフォームといえば海底から石油を掘削するための海上に設置される大きな構造物のことをいう。また、官公庁の施策には「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム」「特許情報プラットフォーム」といったものがでてくる。ソフトウェアでプラットフォームといえば、WindowsOSを思い出す人も多いだろう。

このように、プラットフォームにはさまざまなものがあるが、その機能は大別すると、
①産業などの基盤となるプラットフォーム(基盤型プラットフォーム)
②あるものと違うものを媒介するプラットフォーム(媒介型プラットフォーム)
の二つがある。

先の例でいえば、鉄道プラットフォームは鉄道網の基盤であり、石油プラットフォームは採掘の基盤となるものだ。産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラムは、産業界と大学等が協力し人材育成するといったものなため、媒介型プラットフォームといえる。OSはソフトウェアの基盤となるため基盤型プラットフォームであり、かつ、サードパーティ製のソフトウェアの仲立ちとなったという意味では媒介型でもある。

プラットフォームの効果

プラットフォームを考える際、無視できないのが、その経済的な効果である。プラットフォーム争いをする際、根底にある原理が、競争環境を支配しているともいえる。それをみてみよう。

1)規模の経済
鉄道や電気、ガス、水道といったインフラビジネスは古典的なプラットフォームビジネスということができる。これらの産業の特徴は、送電線やガス管、水道管といった大型資本投資を行えば行うほど(=プラットフォームの規模を大きくすればするほど)、規模の経済効果が働き、競争を優位に進めることができるということだ。
プラットフォームの規模を大きくし、そこに参加する顧客数が多くなれば、独占的な状態を構築することができ、長期的に安定した競争優位を築くことができる。
 
2)直接的ネットワーク外部性による効果
携帯電話やソフトウェア、SNSといった世界では、プラットフォームに所属する顧客数が増加すると、顧客一人一人のベネフィットも増加し、ある閾値を超えると爆発的に普及、独占状態を構築しやすいとされている。これを直接的ネットワーク外部性、直接的ネットワーク効果などと呼ぶ。
例えば、チャットツールであれば、友人のほとんどが使っているツールと、ごく一部しか使ってないツールでは、当然、多数が使うツールの方が便利に感じるだろう。参加する友人が多い方が連絡を取りやすいためだ。よって、こうした業界では先んじて使ってもらうことが重要視されている。
 
3)間接的ネットワーク外部性による効果
属性の異なる顧客層間で、一方の要素が充実することで、他方のベネフィットが増加する場合、そのプラットフォームは独占的な有意性を獲得することができる。これを間接的ネットワーク外部性と呼ぶ。
例えば、クレジットカード業界がそうだ。消費者はより多くの小売店で利用できるクレジットカードを使いたいと思うし、店舗側もより多くの消費者が利用しているクレジットカードを取り扱いたいと考えるのが普通だ。このループにより、支配力の強いクレジットカードがますます強化されるという構図になる。

 

激変を引き起こしたプラットフォームのクラウド化

このように、プラットフォームには3つの経済的効果が知られているが、昨今では、プラットフォームがクラウド化してきている。そして、それによって、従来にはない特性が生まれている。

まず、規模の経済性について考えてみよう。
前述したように、プラットフォームは大規模資本投資により規模の経済性を発揮することができるものだった。
ところが、いまやAWS等のIaaSを活用すれば、小資本でも業界を支配できるようなソフトウェアを立ち上げることができるようになった。しかもグローバル展開が容易であることから、総勝ち(いわゆるwinner-takes-all)が一気に・大規模にできる環境となっている。
例として、ファイル共有サービスを展開したDropboxをあげよう。同社は当初はAWS上にシステムを構築し、グローバル展開することで急成長を果たした。IaaSは大規模資本を必要とするため、スタートアップ時はAWSをレンタルしてシステム構築した。そして成長を成し遂げた現在は、自社で規模の経済を追求する方が有利として、自社データセンターへの切り替えを宣言している。これは従来はなかったダイナミズムといえるだろう。

直接的ネットワーク外部性による効果にも、クラウド化した影響が起きるだろう。それは、プラットフォームにビッグデータが蓄積されるようになったことだ。さまざまな業界のユーザー企業が自社のデータをプラットフォーム上に保存するようになれば、いずれ、他業種のデータと掛け合わせてデータマイニングすることで、これまで知られていなかった知見が発見されていくことだろう。これは、直接的ネットワーク外部性を強化することになる。
従来のSNSサービスでは、加入者増がプラットフォーム全体の魅力度を高め、さらに加入者増を招くという動きだったが、そこに“ビッグデータ”という要素が加わるのである。これはGoogleやFacebookが既に実践していると言ってよいのかもしれない。Facebookに参加する人数が多くなれば魅力度は上がるが、それに加えて書き込まれたデータを分析することで、更に適切な友人の発言を表示したりなどすることができるためだ。

そして、クラウド化の影響を最も受けているのが間接的ネットワーク外部性である。
間接的ネットワーク外部性は、売り手と買い手とを仲介する場合の効果である。これまでは売り手と買い手を媒介するのは、かなりのコストを必要とするものだった。それがクラウドを上手に活用することで、劇的な低価格化が生まれている。Uberなどが好例であるが、まさに革命と呼ばれるほどのインパクトとなっている。
間接的ネットワーク外部性は、媒介型プラットフォームの典型的なメリットであるが、元来、仲介ビジネスは、「集客が難しい側を競合よりも多く確保すること」「仲介手数料をできる限り安くすること」この2点がポイントだ。ITによるデリバリーの良さと低コストはまさにうってつけだったということである。

さらに、上記以外の重要な点として、プラットフォームがIT化することで、プラットフォームが重層化・複雑化・流動化することを挙げることができる。例えば、既にMicrosoftとGEはIoTプラットフォームで提携しており、Microsoft Azure上でGE Predixの分析機能が使えるようになると発表している。また、AWSのIaaS上にIoTプラットフォームを構築することもできるし、データ連携の自由度が更に高まるはずだ。これらは物理的なプラットフォームではありえなかったものとなる。
しかもITプラットフォームはネットワーク、データベース、OSなどと技術的に重層構造を避けられない以上、あるレイヤでゲームチェンジャーが登場すれば、全てをひっくり返す可能性もある。

プラットフォームのクラウド化による影響は、おそらく我々にはまだ見えてないものがでてくるだろう。この新たなプラットフォームの進展が、革新のきっかけになるか、もしくは不安定の契機になるのか、あらゆる産業でプラットフォーマーのポジションを狙う企業が登場している今、引き続き注視していくテーマといえる。

忌部佳史

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忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
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