国内の社会インフラ※では、築後50年を経過したものが急速に拡大しており、老朽インフラ対応(点検・モニタリング、保全・補修対応、新規増設・更新など)は喫緊の課題である。特に、2030~2040年にかけて老朽インフラの増加傾向が加速する見通しであり、ここでの老朽インフラの保全対応は、大きな社会課題となってくる。
社会インフラの運営・管理は、従来はインフラ保全に精通した自治体の技術者が担っていた。現在でも、自治体の技術者に依存する部分は大きいが、インフラ保全に携わっていた自治体職員(現場技術者)の減少及び高齢化、さらには現場での技術力低下も課題となっている。合わせて、業務委託先である地場ゼネコンにおいても、人手不足/技術者の高齢化は不可逆的に進展している。こういった点を勘案すると、従来型の保全では、社会インフラの適切な管理が維持できなくなる蓋然性が高いのである。
※社会インフラ:道路、鉄道、港湾、空港、河川、ダム、上下水道、防災・消防、エネルギーなど
上述したような課題づくしを背景に、社会インフラを取り巻く環境は、年々厳しさを増している。
外部環境である「老朽インフラの増大」、「現場技術者の減少・高齢化(委託先でも同様な傾向)」、「予算不足」、「運用・管理コストの増加傾向」などを勘案すると、従来型の社会インフラ保全では対応に限界が迫っており、デジタル技術を使った社会インフラ保全の高度化が不可避となっている。国交省など国としても、デジタル活用を推奨する国土強靱化策を推進しており、社会インフラ保全対応をデジタルで効率化・高度化する流れが進んでいる。
さらに社会インフラ保全では、点検・モニタリングをベースにした設備の長寿命化、従来型の「事後保全 → 予防保全(CBM)」へのシフトといった次世代型保全志向も強まっている。また2010年代以降は、防災/減災対応といった点も社会インフラ保全における主要テーマとなっている。このような時代のニーズに合わせるためにも、社会インフラ保全におけるデジタル活用は必須となっている。
従来型の社会インフラIT(レガシー社会インフラIT)は、既存の社会インフラの更新・保全時を中心に、既設インフラの建て直し時、新規の社会インフラ構築時などにデジタル技術を組み込むもので、基本的に従来タイプのIT技術を使う。
一方、社会インフラ向けITソリューションは、IoTやAI(画像解析等)、クラウド、無線ネットワーク、3D、ドローン、ロボット、衛星データといったテクノロジーを活用した社会インフラ向けITソリューションである。用途は主に保全・点検/監視を対象としており、国交省/行政サイドの後押しもあって、2010年代後半から浸透が始まっている。
現在の社会インフラIT市場では、圧倒的に従来型の社会インフラITが主流である。しかし、国交省を始めとした行政サイドやNEXCOグループなどの高速道路事業者、JRグループ/私鉄大手などが設備保全や点検、設備モニタリングなどへのテクノロジー活用を進めている事もあり、社会インフラ向けITソリューションの適用領域が拡大している。
現状の社会インフラ向けITソリューションは、適用領域/マーケット規模ともに限定的である。しかし2030年度に向けた展望では、500億円規模のマーケットになる蓋然性は高いと考えており(工事費などは含まないソリューション市場)、弊社としても注目領域の一つである。
社会インフラ向けITソリューションの一例として、防災/減災に向けた事例を考察する。
防災/減災向けのITソリューションでは、危険個所監視・モニタリング(道路等のアンダーパス監視、河川・ダムの水位監視、高潮監視、道路・鉄道の法面監視、崖・斜面などでの崩落監視など)や、豪雨時などでの自然環境計測(災害シミュレーション向け)といった部分で実装が進んでいる。ここでは、監視・モニタリングといった従来業務から進んで、「予防保全/予兆検知」、「シミュレーション」といった点に主眼が置かれている。
※社会インフラ向けITソリューション:IoTやAI、データ解析/画像解析、クラウド等を活用して、ITベンダーなどが提供するソリューション。インフラ保全の高度化(次世代保全/CBMなど)や最適化(効率化/省人化、省エネの最適化など)、政策立案/戦略立案での判断支援などで効果が期待される。
国交省では、「持続可能なインフラメンテナンス」の実現に向けて、2021年6月に第2次「国土交通省インフラ長寿命化計画(計画期間:2021~2025年度まで)」を策定。ここでのポイントは、以下の5点になる。
また国交省では、「国土強靭化(防災・減災等を目的にインフラ監視のデジタル化、災害予兆AIなど)」や「i-Construction / i-Construction 2.0(ドローン測量・3Dデータ・CIM/BIM・ICT建機などの活用で生産性/安全性向上を推進)」、「インフラDX(i-Construction 2.0含む:デジタルツイン、点検の自動化・AI化、ロボット/フィジカルAI、データプラットフォームなど)」、「NETIS(新技術情報提供システム:新技術採用の普及促進)」、「国土交通データプラットフォーム(MLIT Data Platform:道路・河川・点検記録・災害情報などのインフラ関連データの提供)」といった施策を主導し、インフラ保全を始めとしたインフラ領域でのテクノロジー活用を推奨している。
こうした国の動きは、社会インフラ保全現場におけるITソリューション活用に向けて追い風になっており、民間の大手インフラ事業者と合わせた推進力の両輪となっている。
社会インフラ向けITソリューションでは、様々な導入効果が期待される。
具体的には、暗黙知を始めとした現場状況の見える化の実現、現場における更なる生産性の向上、安全管理/健康管理の向上に起因した就労環境の改善、さらには行政や企業サイドでの意思決定のサポートなどが期待されている。
現状では、レガシータイプの社会インフラITが圧倒的に普及している。しかし前述したような社会インフラ保全業務に対する課題を考えると、中期的には社会インフラ向けITソリューションを発展的に深化させる必要がある。そしてその時期はそれほど先ではなく、2030年代の前半には一定の目途を立てる必要があると考える。
【図表:社会インフラ向けITソリューションの導入効果/ポテンシャル】
矢野経済研究所作成
※弊社資料「2026社会インフラ向けICT市場の実態と展望」より抜粋。尚、数値は各社の落札金額ベース
2023~2024年度の2ケ年平均での社会インフラITメーカーシェアを見る。
当該期間では、鉄道ITを始め、道路IT、空港IT、水関連ITなどでトップクラスの実績を残した三菱電機グループ(三菱電機、三菱電機システムサービス、三菱電機プラントエンジニアリング)がトップ。尚、同社は2024年に、本調査では最大の168.3億円の案件を獲得している。
2位グループには、三菱電機グループと同様に、道路ITや鉄道IT、空港IT、水関連ITなどで幅広い実績を持つ東芝グループ(東芝、旧東芝インフラシステムズ(現東芝)、旧東芝通信インフラシステムズ(現東芝テリー)、東芝デジタルソリューションズ)及び、防災IT(特に消防IT:2023年度には115.5億円の超大型案件を獲得)を始め、空港IT、道路ITなどに強みを持つNECグループ(日本電気、NECネッツエスアイ、NECネクサソリューションズ、NECプラットフォームズ)が続く。
この上位3社とは僅差で、鉄道ITや水関連IT、防災ITにおける有力企業である日立グループ(日立製作所、旧日立国際電気(現国際電気)、日立パワーソリューションズ、日立システムズ)が4位で続く。そしてこの上位4社で、ITベンダーベースで見た社会インフラIT市場の過半数を占める。
この他には、道路IT(特に高速道路のETC設備/料金収受系設備等)で強みを持つ三菱重工グループ(三菱重工、三菱重工機械システム)、道路ITや防災ITに強みがある富士通グループ(富士通、富士通ネットワークソリューションズ、旧富士通ゼネラル(現ゼネラル)、旧富士通エフサス(現エフサステクノロジーズ))、2023年度に道路ITで100億円超の超大型案件を獲得したパナソニックグループ(パナソニックコネクト、パナソニック環境エンジニアリング)が続く。
(早川泰弘)
■レポートサマリー
●社会インフラIT市場に関する調査を実施(2026年)
●社会インフラIT市場に関する調査を実施(2023年)
■アナリストオピニオン
●インフラ保全で進むITテクノロジー活用!
●IoT社会はセンサーネットワークによって実現する
●センサーネットワークは社会インフラ化する
●ITインフラモニタリングの期待と可能性
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