矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2026.05.21

ラベルプリンタはデジタル印刷領域の新たな事業の柱となるか

食品、化学製品、医薬品、日用品、物流などの分野では、表示内容の頻繁な更新、多品種小ロット化、トレーサビリティ強化への対応が常態化している。こうした変化を背景に、商業・産業向けの中大型デジタルラベルプリンタへの関心が高まっている。ここでいう対象は、小型のラベルライターではなく、一定の生産性、耐久性、色再現性、基幹システム連携性を備えた本格的な業務用機である。では、この分野は各メーカーにとって新たな事業の柱となり得るのだろうか。

需要の起点は「印刷」ではなく「現場運用」の変化

足元の需要を押し上げているのは、単なるラベル枚数の増加ではない。EC拡大に伴う物流ラベル需要、食品・化学分野での法規制対応、製造現場における在庫・工程管理の高度化など、現場運用そのものが変化していることが背景にある。従来のアナログ印刷ラベルは、大量生産時には効率的である一方、表示変更時の在庫ロスや短納期対応の難しさを抱えやすい。これに対し、デジタル方式は必要な時に必要な内容を必要量だけ印字でき、可変情報への対応にも適している。加えて、通常の商業印刷と同様、版を必要としないため、立ち上げロスや試し刷りを抑えやすく、小~中ロット対応でも経済合理性を持ちやすい。環境負荷低減や廃棄削減の観点からも訴求余地がある。したがって、この市場の本質は「ラベルを印刷する機械」の販売ではなく、「ラベリング工程をどう再設計するか」という業務改善需要にある。

各社のラベルプリンタに関する動き

メーカー各社の動向を見ると、競争軸は印字速度や解像度だけではなくなっている。エプソンはColorWorksを軸に、食品、飲料、化粧品、医薬向けのオンデマンド・フルカラー印刷を展開し、自動貼付機との連携や遠隔管理まで含めた提案を進めている。キヤノンも、高画質8インチ機と高速4インチ機を投入し、ラベル内製化支援、GHS対応、RFID連携などを通じて、製造・物流現場の運用改善需要を取り込もうとしている。
一方、印刷会社やラベルコンバーター向けでは、SCREENの動向が注目される。SCREENグラフィックソリューションズは「Truepress LABEL」シリーズを展開し、バリアブル印字や小~中ロット案件への短納期対応を訴求している。色再現性や品質安定性の強化に加え、基材適性の拡張にも取り組んでおり、アナログ中心だったラベル印刷工程のデジタル化を支える立場を鮮明にしている。コニカミノルタも「AccurioLabel」シリーズで、小ロット・短納期化に対応する高生産性デジタルラベル印刷機を展開しており、ラベル印刷事業者の生産方式転換を取り込む戦略を強めている。

なお大きいアナログ市場、デジタル化の余地

ラベル印刷市場全体を見れば、依然としてアナログ機の比重は高い。大量印刷ではアナログ方式の優位性が強く、普通紙に印刷する一般的な商業印刷と比較しても、デジタル化の潮流は控えめである。ただし、表示内容の多様化、SKU増加、短納期化、可変情報対応、在庫削減ニーズを踏まえると、アナログでは非効率な領域は着実に広がっている。すなわち、デジタルラベルプリンタ市場の成長余地は、同内容のものの大量印刷や、納期の短縮化など、アナログ印刷のデメリットとともいえる点を払拭できる点にある。
しかし、上記の点で利用者にメリットを感じてもらうには、印刷の前後工程、ないしは業務全般に関わるコストや効率性を把握した上で、最適な提案が求められる。つまり、商業・産業向けの中・大型デジタルラベルプリンタは、単純なハード販売では「事業の柱」になりにくい。ハードの他、消耗品・保守・ソフトウエア・RFID・自動化設備・業務支援までを含めた継続収益モデルを構築することが重要といえるだろう。
ラベル機市場では、デジタル化への転換機会は今後も相応に残る。各社にとって本分野は、成熟市場の延長ではなく、業務変革需要を取り込む新たな成長機会として位置付けるべき段階に入っているとみる。

山内翔平

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山内 翔平(ヤマウチ ショウヘイ) 研究員
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