2024年7月、株式会社リコー(以下、リコー)と東芝テック株式会社(以下、東芝テック)は、オフィス向け複合機・プリンタ事業を統合し、合弁会社「エトリア株式会社(以下、エトリア)」を設立した。エトリアは、両社の開発・生産機能を統合し、製品の基幹部分の共通化や部品・材料の共同購買、生産拠点の相互活用を進めることで、競争力の高い製品の安定供給体制を構築することを目指している。また、顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する新たなデバイスの共同企画・開発にも取り組む。2025年2月には、新たに沖電気工業株式会社(以下、OKI)の参画も発表され、OKIも含めたエトリアの出資比率は、リコーが80.74%、東芝テックが14.25%、OKIが5.01%となっている。OKIの参画により、同社が持つLEDプリントヘッド技術を用いた、より高性能な共通エンジンの開発が期待される。
一方、2025年1月には、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、FFBI)とコニカミノルタ株式会社(以下、コニカミノルタ)が、原材料および部材調達の連携を図る合弁会社「グローバルプロキュアメントパートナーズ株式会社(以下、GPP)」を設立した。GPPの出資比率は、FFBIが75%、コニカミノルタが25%となっており、GPPは調達戦略の立案やサプライヤーとの折衝、調達管理などの業務を担い、外部購入品の品質・コスト・納期・環境対応を担保する調達サービスを提供するとしている。
これらの動きは、オフィス向けプリンタ市場における競争力強化と効率化を目的とした業界再編の一環であり、各社が持つ技術やノウハウを結集し、持続可能な社会の実現に貢献することを目指している。
2社の設立はどちらも、オフィスプリンタ市場における競争環境の変化や、顧客ニーズの多様化に対応すべく、開発・生産体制の最適化を行い、参画する各社の強みを活かすための取組みといえる。しかし、両社の設立の目的や事業内容などをみると、その方針にニュアンスの違いがみえる。
エトリアでは、製品の基幹部分の共通化や生産拠点の相互活用を通じて、安定的な供給体制の構築と高付加価値な製品の提供を実現するとしている。また同社は、新たなデバイスの共同企画・開発を行うことで、顧客のDX支援に向けた取組みにも努める方針である。同社は、参画企業が長年培ってきたケイパビリティを結集することにより、生産効率の改善だけではなく、まったく新しい価値創出を目指している。DX支援の取組みとしては、複合機やプリンタを「業務に関わるアナログデータとデジタルデータを相互に変換する入出力を担うデバイス」と定義し、顧客の抱える業務課題を解決し、高度化するためのソリューションを提供するための重要なプラットフォームとしている。
一方GPPは、原材料と部材調達の連携を図ることで、強固な供給体制の構築とコスト競争力の向上などを目的としている。これにより、同社はサプライチェーン全体の最適化を実現し、製品の競争力強化につなげることを重視している。
GPPは、FFBIとコニカミノルタが直面する原材料コスト上昇やサプライチェーン逼迫という現実的課題に対するソリューションであり、あくまで「現状の事業基盤をいかに強化・持続させるか」に主眼が置かれている。
このように、同じ「業界再編」の枠内にありながらも、エトリアは未来志向型の新事業創出を、GPPは既存事業の最適化と収益改善を目指しており、それぞれが異なる目線で業界変革に取組んでいることが窺える。
オフィスプリンタ市場は、エトリア、GPPの2社の設立により、業界をリードする企業が連携するという形で再編を一歩進めた形となった。オフィスプリンタ市場は、国内外でのペーパーレス化の加速、働き方改革によるプリント需要の減少、さらには原材料費や物流費の高騰といった経済的圧力により、従来の製品性能やブランド力に依存した競争が難しくなっている。こうした中で、今回取り上げた2社の合弁会社設立は、業界全体が「各社単体での最適化」から「横断的な再編」へと戦略を移す基軸にもとれる。
今回設立された2つの合弁会社は、そうした再編の契機であり、今後同様の枠組みが他社間でも拡大・多様化していくことで、さらなる高付加価値を創出・維持する業界構造の構築が可能となるだろう。企業間の枠を超えた連携によって、成熟市場であるオフィスプリンタ市場の更なる活発化を期待したい。
(山内翔平)
■レポートサマリー
●業務・産業向けプリンタ世界市場に関する調査を実施(2024年)
■アナリストオピニオン
●プリンタの新たな可能性をどこに見出すか?
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