矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2020.04.01

「オートモーティブワールド2020」レポート コロナウイルス感染直前のAMワールドで感じたCASE対応動向

※:CASE
       Connected=つながるクルマ
        Autonomous=自律運転
         Shared=共有するモビリティ
          Electric=電動車・EV

オートモーティブワールド2020~全体

■開催概要
オートモーティブ ワールド 2020」は、2020年1月15日~17日の3日間、東京ビッグサイトにて開催された。同展示会は「第34回 ネプコン ジャパン」等と同時開催されており、来場者数は単独で38,992名、同時開催展と合計で67,169名となった。自動車関連展示会では世界一の1,017社が出展した。
期間中は展示会とあわせてコネクテッドカー、MaaS、自動運転/ADAS、EV/FCV(燃料電池車)といった、自動車業界注目のトピックを扱う専門技術セミナーが全80講演(同時開催展除く)開催された。今回の講演も満員が相次ぎ、特に基調講演では会場内に聴衆が入りきれず、別会場にて同時ビデオ講演が実施された。

【写真:ライブビデオ講演会場で実施された基調講演】

【写真:ライブビデオ講演会場で実施された基調講演】

出所:「オートモーティブ ワールド 2020」内にて撮影

■コロナウイルス感染拡大中も続いているCASE対応
2020年4月現在、コロナウイルス「感染」拡大を防ぐため、多くの展示会やセミナー、講演会が中止・延期となっている。今回のテーマ「オートモーティブ ワールド 2020」はわずかに開催時期が早かったため、講演会は前述したように満員御礼が相次ぐ盛況で取り行われた。現在から考えると夢のような状況に思える。もちろん今後できるだけ早く回復することで、これが当たり前な状況に戻ることを願ってやまない。
自動車産業でもコロナウイルス「感染」の影響は甚大で、世界の多くの自動車工場が生産停止に追い込まれており、これでは販売台数の悪化も避けられない。しかし、注意すべきは、コロナウイルス「感染」以前の2019年から世界の自動車市場は既にダウンしていたということだ。
2019年の世界新車販売台数は9,100万台と対前年比95%程度に減少した。特に中国新車販売台数は2,570万台と対前年比93%に減少した。期待の新興国においても同様である。インドが370万台と対前年比84%。ASEAN5か国でも335万台と対前年比97%。日本・米国・西欧はほぼ横ばい推移だったものの、これからモータリゼーションの盛り上がりが期待されていた新興国が減少したのである。たしかに2019年には米中貿易戦争、中国の自動車不況、英国のEU離脱など、世界経済にマイナス影響を与える多くの出来事があった。

自動車業界関係者からは「コロナウイルスの影響で20年も世界販売台数減少となりそうだ」「目先の自動車が売れなくなってはCASEの未来に思いをはせることもできない」などの声も出てきた。

さらには「販売台数減少がCASE対応によるOEMのコスト増に重くのしかかってきた」「新車販売台数減少にはMaaSシフト(CASEのS。Shared。クルマを買わずにシェアして使用すること)による影響もある」「新車が売れない状況下でOEMがCASE関連スタートアップ企業への投資を引き上げるのではないか」という具合に現状、自動車産業にとってCASEは逆風的な存在となっているのかもしれない。
だが逆に、ここで誰も彼もがと押し寄せてきていたCASEプレーヤが選別され、強い逆風に耐えられる強い企業がわかり、本当のCASEの姿が見えてくるかもしれない。長期的視点で見ればCASEこそは間違いなく10年後、20年後の自動車産業・自動車向けIT産業の目玉となることは今も変わらないのだから。

既に世界の自動車販売が減少化しつつある中で、それがCASEに向けてどの様に影響していくのかを把握し、どうすればその影響下でも自動車産業を成長させていけるかを考える必要がある。

ここではコロナウイルス「感染」直前の「オートモーティブワールド2020」展示会・セミナーにおける各社のCASE関連動向をまとめた。1月開催の展示会を記事にするのにはやや遅れた感があるが、コロナウイルスの影響が収まった時、再びCASEに対する熱い視線が戻ってくるものと考え書いていく。

オートモーティブワールド2020~各社の展示状況

■CASE時代サバイバルのための企業再編
日本電産(Nidec。次の写真)はもともと自動車におけるモーター専門メーカーとして、Tier1に納品してきたTier2である。ただし2014年にホンダエレシス(現・日本電産エレシス)を、2019年にオムロンオートモーティブエレクトロニクスを買収。それまでの車載モーターだけの自動車関連事業から、「アクティブセーフティ」や「ボディ電装」「EPS」「電源制御」などの、より大きなユニットベースでの受注が可能となったことで一気に急成長の流れに乗った。さらにCASEにおける「E」の部分、EV車両に搭載されるトラクションモータシステム「E-Axle」を、2019年に中国の自動車メーカー・広州汽車の量産 EV「Aion S」に提供した模様。
同社のモーター専用メーカーから、ユニットベースでのカーエレメーカーへのシフトは、前述したようなM&Aにより実現したといえる。CASEに向けての新機軸は、自社保有技術力だけで実現できるとは限らない。同社のようなM&Aこそがもっとも効率よくCASE時代に適合した部品メーカーになりうる手段といえるのかもしれない。2019年には車載事業を専門とする日本電産オートモーティブを設立した。

【写真:日本電産(Nidec)のアピールするカーエレクトロニクス部品】

【写真:日本電産(Nidec)のアピールするカーエレクトロニクス部品】

出所:「オートモーティブ ワールド 2020」内にて撮影

企業再編で一気に次世代に向けて動き出したのは日本電産ばかりではない。ケーヒンはもともと本田技研工業のTier1としてパワートレイン、シャシー、エアコンなどの部品を手掛けていたホンダ系列の部品メーカーであった。しかし、2019年に日立製作所と本田技研工業は、ケーヒンを他のホンダ系部品メーカ2社(ショーワ、日信工業)と共に、日立オートモーティブシステムズ(日立AS)と統合化すべく踏み切った。4社の統合により売上高1兆7000億円規模の巨大サプライヤが誕生。また日立グループと本田技研工業との間には強いパイプができた模様。具体的にはCASEにおける「A」の部分、自動運転向け開発のために、IT、ソフトウェア、パワトレ、シャシー、ボディ、ADASという要の部分を一体化できることになったのだ。

【写真:ケーヒンのアピールするパワートレイン部品】

【写真:ケーヒンのアピールするパワートレイン部品】

出所:「オートモーティブ ワールド 2020」内にて撮影

CASE時代を前に動いた部品メーカー再編はこればかりではない。
ここ2年の間に国内のTier1らが大きく動き出している。アイシン精機とアイシン・エィ・ダブリュとの経営統合。アルパインとアルプス電気との経営統合。富士通テンのデンソーグループ入り。デンソーとアイシン精機が設立した電動駆動モジュール開発会社「BluE Nexus(ブルーイー ネクサス)」。目立つところだけでもこのように数多い。
さらに再編は国境を越えてカルソニックカンセイと仏マレリの合併、クラリオンの仏フォルシアグループ入り、もある。
CASE対応のためには大きな投資が必要であり、より大きなユニット、より大きなソリューションでのビジネスが求められるようになる。そのための部品メーカー再編が今回の展示の中でも目についた。

■車載ソフトウェアでも進む企業提携・企業再編
CASEを前にした企業再編はハードウェアだけではない。ソフトウェアメーカーにも及んでいる。
CASEでは「C(コネクテッドカー)」はもちろんのこと、「A」「S」「E」の全てがコネクテッドとなり車両側とクラウド側とがつながる事で成立する。そして、クラウド側でのAI解析や、車載側での決済、車載センサの高速AI処理など、ソフトウェア技術が自動車の重要な部分を担うようになっていく。そして、ソフトウェアにおける激烈な競争に打ち勝つためには単独の技術だけでは不足するため、技術提携や企業買収が巻き起こることになる。
今回の展示会場にも、ソフトウェア企業における多くの企業再編の跡が見え隠れしていた。ただしソフトウェアの場合は工場ラインが存在しないため、もう少し自由にゆるやかに企業提携というスタイルが多い印象だ。
次の写真は、検証サービスベンダであるVERISERVE がCASEの「S」であるモビリティーサービスの検証ビジネスに参入したことを表したものである。同社は元々SCSKの子会社として設立され、その後自動車のテスト事業で大きく成長したが、2019年に再びSCSKによるTOBが成立した。

【写真:VERISERVEのアピールするモビリティーサービス検証ビジネス】

【写真:VERISERVEのアピールするモビリティーサービス検証ビジネス】

出所:「オートモーティブ ワールド 2020」内にて撮影

海外からも、思いもかけないITベンダが自動車市場に向けて参入してきた事例がある。下記の写真はマイクロソフトが自社ブースにおいて映していた「MaaS発展に向けた支援策」の一部である。CASEのS(シェアカー。MaaSサービス)を重要視していることは明らかでありながらも、「自らはサービス事業者にも、プラットフォーマーにもならない。」としている。
取り組み内容としては、MaaS版リファレンスアーキテクチャーをパートナー企業と開発して、それを無償提供し、次世代MaaSプラットフォーマーを人材面、技術面で支援していく試みとなる模様。その上で、MaaS分野におけるパートナーとのエコシステムを強化し、自社ビジネスはそこから生み出すということだ。

【写真:マイクロソフトのアピールするMaaS発展に向けた支援策】

【写真:マイクロソフトのアピールするMaaS発展に向けた支援策】

出所:「オートモーティブ ワールド 2020」内にて撮影

マイクロソフトは誰もが知るPCのOS「Windows」で1980年代から大きく成長した企業である。OSを中核として、様々なアプリケーションが生まれ、発展し、インターネット関連ビジネスの普及へとつながっていった。
現在、自動車のECUの世界においても、PCの「Windows」や、スマートフォンの「iOS」「Android OS」のように標準化・プラットフォーム化を推進しようという動きが出てきている。そのひとつが欧州から始まったプラットフォーム「Autosar」である。
国内でもAutosar仕様に準拠したソフトウェアプラットフォームを開発・販売している企業がある。前述のSCSKもその1社だ。
また名古屋大学の高田広章教授が中心となって設立したAPTJも同じく、オールジャパンで日本独自のソフトウェアプラットフォームを立ち上げようと、「Julinar SPF」を開発した。2018年から6社のパートナーソフトウェア企業(ヴィッツ、キヤノンITソリューションズ、サニー技研、東海ソフト、富士ソフト、菱電商事)を通して販売している(下記写真)。

【写真:APTJのアピールするJulinar SPFサービス】

【写真:APTJのアピールするJulinar SPFサービス】

出所:「オートモーティブ ワールド 2020」内にて撮影

デンソーが立ち上げたオーバスでも、AutosarのAP(Adaptive Platform)で用いるサービス指向通信(SOME/IP)をCP(Classic Platform)でも対応できるようにする「AUBIST SOME/IP」のデモンストレーションを披露していた。2020年度内にプロトタイプを提供し、2021年度の正式提供を目指している模様。
オーバスは2016年に設立されたデンソー、イーソル、日本電気通信システムとの合弁会社である。2019年にはデンソーから、パートナーであるイーソルに向けて、出資が行われている。

【写真:オーバスのアピールするJulinar SPFサービス】

【写真:オーバスのアピールするJulinar SPFサービス】

出所:「オートモーティブ ワールド 2020」内にて撮影

自社だけの技術力では覚束ない。国内の、海外の、ハードウェアの、そして今後自動車の中核となるITソフトウェアの互いを補えあえる相手を見つけての企業提携・企業再編こそが、CASE時代の自動車産業でのサバイバルに備えるために必要なのだ。

オートモーティブワールド2020~専門技術セミナー

本展示会では専門技術セミナー(有料)も充実しており、専門の講師の講演を聴講する事が可能で、最新の技術やマーケット動向を知る事が出来る。コネクテッドカー、MaaS(Mobility as a Service)、自動運転/ADAS、EV/FCV(燃料電池車)といった、自動車業界注目のトピックを扱う専門技術セミナーが全80講演(同時開催展除く)開催された。
今回の取材は、「スマートシティ」「車載HMI」「自動運転カーによるシェアリングサービス」等のセミナーについて実施した。

■スマートシティ
トヨタ自動車が「CES2020」にて、東富士工場の跡地で新たにスマートシティを建設することを発表したため、それを受けて今回の講演でもスマートシティにふれる企業が複数あった。
だがどの企業もトヨタ「ウーブン・シティ」や、グーグル「IDEA」のような具体性はなく、「スマートシティ内を走行するモビリティーとはどのようなものになるか」「MaaSの先に見えるスマートシティ」というレベルにとどまっていたのではないか。

■車載HMI
ボッシュでは「スマートシティでのモビリティーとは、個人データ収集とその解析・活用」として、液晶ディスプレイとカメラ、AIからなる革新的なサンバイザー「バーチャルバイザー」をアピールしていた。

■自動運転カーによるシェアリングサービス
RIDECELL社は、当初「2020年までには無人走行車(レベル4以上の自動運転カー)が動いている」といわれていた予測に比べて、現実はかなり遅れてしまっている」というところから話し始めた。
だが「無人走行車が、EVになり、シェアリングサービスで活用されるようになった場合、そこから普及の可能性は広がっていく」という趣旨で述べていた。

オートモーティブワールド2020~最後に

今回の展示会、専門技術セミナー講演を通して感じたことは、間違いなく訪れるCASE時代を生き伸びるために、各社が単独でがんばるのではなく、相互に補完関係を築きあげられる相手との企業提携・企業再編に乗り出す具体的な動きであった。
ただし、この世界的な自動車市場減少と、コロナウイルス被害による影響が、大きな重荷となって自動車及び周辺産業にのしかかり、それがCASE時代到来の時期をかなり遅くしてしまうのではないか・・・・・・という危惧がある。
だが、ビジネスは形が整ってから参入したのでは成功しない。「限られる投資をどこに向けるべきなのか」を見すえたうえで、CASEの未来をうまく掴んでほしいと願っている。

関連リンク

■レポートサマリー
車載ソフトウェア市場に関する調査を実施(2020年)

■アナリストオピニオン
「オートモーティブワールド2019」レポート
「オートモーティブワールド2018」レポート
「オートモーティブワールド2017」レポート
「オートモーティブワールド2016」レポート

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