矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2016.01.26

「オートモーティブワールド2016」レポート  自動車はソフトウェア/コネクテッドカー時代に。次世代切り開くのはAIとサイバーセキュリティか?!

全体

オートモーティブワールド 2016」は、2016年1月13日~15日の3日間、東京ビッグサイトにて開催された。同展示会は「第8回 国際カーエレクトロニクス技術展(カーエレJAPAN)」「第4回 コネクティッド・カーEXPO」「第7回 EV・HEV 駆動システム技術展」「第6回 クルマの軽量化技術展」「第2回 自動車部品加工 EXPO」の5つから構成されており、過去最多の781社が出展した(前年比145社増)。来場者数も27,088名(前年比8.4%増)となり、自動車産業への期待感・関心の高さを現していた。期間中は展示会とあわせてコネクティッド・カー、自動運転/ADAS、FCV、軽量化といった、自動車業界注目のトピックを扱う専門技術セミナーが全100講演開催された。

【写真:「オートモーティブ ワールド 2016」】

【写真:「オートモーティブ ワールド 2016」】

出所:「オートモーティブ ワールド 2016」内にて撮影

ここ数年、世界のエレクトロニクス関連展示会では自動車が中心的存在になることが増えてきた。2016年1月に米国ラスベガスで開催されたCESや、2015年10月東京開催のCEATECなどでも、IoTという旗頭の元先端技術が集まり、その中で自動車が主役的なポジションを占めており、特にコネクテッドカーや自動運転が大きく扱われた。自動車のセンサデータを収集し、他のデータと合わせて解析するIoTサービスが全世界的に次世代期待のビジネスとされているためだ。

当レポートでも、自動車におけるIoTと関連する「カーナビ・車載HMI」「コネクテッドカー/テレマティクス」「車載用通信モジュール」を展示していた主要企業の取材結果を掲載していく。各社の共通点はハードウェアユニットメーカではなく、ソフトウェアメーカもしくはソフトウェアを取り込んだチップベンダであること。つまり時代は「ソフトウェアこそが自動車ビジネスとなってきた」といえるのではないか。

各社の展示状況

■QNX ソフトウエア システムズ(株)
自動車ではある時期を境にシステムが急激に標準搭載され始める事がある。たとえばエアバッグは1990年代中盤から急速に普及した。ここ数年では自動ブレーキの標準搭載が進み始めている。さらに16年以降世界的にADASユニット、ナビユニットの標準搭載が進もうとしている。
QNXはカナダのスマホベンダ「BlackBerry」傘下のソフトウェア開発会社であるが、ここ数年自動車分野での活躍が目立つ。当展示会でもQNXが、ADAS、ナビの標準搭載において大きな役割を果たすことが明示されていた。
15年、QNXはフォードの統合インパネ「SYNC」のOSに採用された。今回16年の展示では、NvidiaのADASユニット(カメラやレーダを活用した先進運転支援システム)、ナビユニットにおいてQNXのOSが採用される旨が発表されていた。既にマツダの車載インパネ「マツダコネクト」向けナビ用OSにはQNXが使われている。
QNXはV2X(車車間通信および路車間通信)モジュールにおけるOSにも進出する意向だという。たとえグーグルのAndroid AUTOやアップルCarplayといった強力なITベンダの車載OSが普及しても、QNXのOSは「ハイパーバイザ」技術(ハイパーバイザはOSよりも上位のレベルで動作し、特定のOSを必要とせずに動作する。この組込み型が自動車に搭載される)を使って共存が可能だという。

【写真:QNX CAR Platform for Infotainmentと統合済みのクラスタ】

【写真:QNX CAR Platform for Infotainmentと統合済みのクラスタ】

出所:「オートモーティブワールド2016」内にて撮影

■(株)エイチアイ
(株)エイチアイ(以下HI)もナビ・車載機向けのソフトウェア事業において、ここ数年大きく成長してきた。同社は1989年設立の自動車におけるミドルウェアやコンテンツ・サービスの企画・開発を中心とする企業である。最近ではHTMLとJavaを活用して、テレマティクスのプラットフォームとアプリを作っている。
ホンダの北米向けSUV「PILOT」に搭載された車載機のテレマティクス「ホンダリンク」プラットフォームがHI製である。ホンダの「PILOT」車載機では、カーナビはガーミン製、音楽配信はAha、ホンダリンクはHI製となっている。
またメータークラスタとナビ等の車載HMI(ヒューマンマシン・インタフェース)を統合化させるための開発ツールについても、今後のビジネスでは注力していく方針だという。

【写真:HIの車載HMI統合化ツール「exbeans UI Conductor」】

【写真:HIの車載HMI統合化ツール「exbeans UI Conductor」】

出所:「オートモーティブワールド2016」内にて撮影

■The DiSTI Corporetion(兼松エアロスペース(株))
QNX、HIのようにナビ・車載機用ソフトウェア事業が注目される中、異業種からの参入も目につくようになってきた。
今回出展したDiSTIはHMI構築ソフトウェアツールや電子ディスプレイなどを得意とするメーカーであるが、航空機用システム専業メーカーであった。しかし航空機市場が飽和する中、自動車用システムの大きな可能性に着目し、車載モニタGPU構築用ソフトウェア「GL Studio」事業に着手。4年前、同社の米国向け日産SUV「キャシュカイ(QASHQAI)」でGL Studioが初めて採用された模様。国内では兼松エアロスペースが販売を担当している。
OPEN GLを使っているため、3D表示に強い点が同社のHMIの特長だという。

【写真:車載モニタGPU構築用ソフトウェア「GL Studio」】

【写真:車載モニタGPU構築用ソフトウェア「GL Studio」】

出所:「オートモーティブワールド2016」内にて

■ルネサスエレクトロニクス(株)、STマイクロエレクトロニクス(株)、インフィニオン
ところで16年以降世界的に標準搭載が進もうとしているのはADASやカーナビだけではない。通信モジュールも標準搭載化が進みそうだ。特に欧州では、自動運転カー支援機能の開発に加え、自動車とインフラの路車間通信(V2I:Vehicle to Infrastructure)、自動車と自動車の車車間通信(V2V:Vehicle to Vehicle)などを利用した「協調型 ITS(Cooperative Intelligent Transport Service)」技術の実用化に向けた動きが加速している。協調型 ITS は自動運転インフラとして必須のものである。
15年には、欧州議会が「すべての新車にeCall機能の搭載を義務付ける規則」を可決した。eCallとは、自動車が衝突事故を起こした時に、自動で緊急通報センターに連絡する仕組みで協調型 ITSの一種。18年4月以降、EU域内で発売されるすべての新車にeCall、すなわち通信機能が搭載されることになる。
こうした世界的な自動車への通信モジュール搭載の潮流に対応すべく、今回はルネサス エレクトロニクスやSTマイクロ、インフィニオン等の半導体メーカーが車車間(V2V)/路車間(V2I)といった自動車通信用高集積型製品を展示していた。ハードウェア・コンポーネントだけでなく、これらに対応するソフトウェア・パッケージについても各社とも注力している模様。
自動車の通信モジュール搭載が進めば、外部から自動車にアクセスできるようになるため、ハッカーによる攻撃のリスクが飛躍的に高まる。そこでインフィニオンでは、セキュリティマイクロコントローラー、SIMカード、セキュリティ対応デバイス等ハードウェア・コンポーネントだけでなく、これらに対応するソフトウェア・パッケージも用意している。

【写真:infineon自動車セキュリティ製品】

【写真:infineon自動車セキュリティ製品】

出所:「オートモーティブワールド2016」内にて撮影

■アイサンテクノロジー(株)
協調型 ITSを普及させる目的は、交通事故死者数の減少、交通渋滞の大幅な削減など、従来的な個別システムでは実現できていないサービスの実現である。だが、その先には間違いなく自動運転カー支援という目的が存在する。
コネクテッドカーばかりでなく、今回の展示内容全般において、各社とも多少の差はあれども自動運転を念頭に置いての製品を出してきていたといえる。その中でアイサンテクノロジーは自動運転の心臓ともいえるADAS地図、及びADAS地図作成車両を展示してきた。
アイサンテクノロジーは三菱電機の自動地図作成車両「MMS」の代理店である。またMMSを使用しての計測受託や自動運転用ADAS地図作成もやっている。今のところ同社のADAS地図ユーザは、国内のOEM、Tier1におけるテストコースでの実証実験用に限られる。だが、将来的には普及車両用、海外向けについても視野に入れている模様。

【写真左:ADAS地図作成車両    写真右:ADAS地図】

【写真左:ADAS地図作成車両    写真右:ADAS地図】

出所:「オートモーティブワールド2016」内にて撮影

専門技術セミナー

本展示会では専門技術セミナー(有料)も充実しており、専門の講師の講演を聴講する事が可能で、最新の技術やマーケット動向を知る事が出来る。専門技術セミナーは、展示会ごとに注目テーマが設定されており、1月13~15日の3日間におけるセミナー受講者数は19,137名となった。ただし、これは同時開催の「ネプコンジャパン」「ライティングジャパン」「ウェアラブルEXPO」のセミナーも含めての数字である(別途、報道関係者は841名)。
今回の取材は、「コネクテッドカー」「AI(人工知能)の自動車への影響」「自動車サイバーセキュリティ」等のセミナーについて実施した。
どのセミナーもほぼ満席状態で、立ち見する人もいるほど。関心の高さがうかがえる。

■コネクテッドカー
トヨタ自動車が今回の講演で「つながるクルマの方向性」、すなわちコネクテッドカーの目的として掲げていたのは、「通信機能により高まる安全・安心」「通信機能により高まるクルマの魅力」「通信機能により近づくスマートシティ」という3点であった。
さらに今後は自動車のセンサデータを活用したビッグデータ解析により、自動運転や各種テレマティクスサービスが可能になるという主張がなされていた。
ホンダアメリカの講演では、こうしたコネクテッドカーや自動運転の技術が米国シリコンバレーに集積するプレーヤ達により急速に発展しつつあるという話であり、現地の革新的な空気を感じさせるものであった。
他にもIBM、VOLVO、デロイトトーマツ、Automatic Labs Inc.等によりコネクテッドカーの可能性や未来についての講演が行われた。

■AI(人工知能)の自動車への影響
「AI(人工知能)は自動運転を革新させるか」というタイトルの講演では、東京大学・松尾研究室、NVIDIA、デンソーアイティーラボラトリが主にディープラーニングの可能性について解説。さらに自動運転における影響について言及した。
自動運転ではクルマ、歩行者、自転車、動物などの環境認識が決め手になるが、そこではディープラーニングが重要である旨が強調されていた。
他にもトヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、Horizon Robotics Inc.等により自動運転やAIの可能性や未来についての講演が行われた。

■自動車サイバーセキュリティ
自動車サイバーセキュリティについてはJasPar、Argus Cyber Security、インテル、infineonら各社から専門家が講演を行った。
2020年の自動車製造コストにおいてはソフトウェアとコンテンツが60%以上を占めるようになるといわれている。こうした環境下において、サイバーセキュリティは自動車の価値を決定する大きな要因になるという。既にIT市場においてセキュリティ技術は進んでいるが、それを自動車にうまく取り込んでいきたいという考え方のようだ。

最後に

今回の展示会、専門技術セミナー講演を通して感じたことは「自動車はソフトウェアとコネクテッドカーの時代に入ったのではないか」という事。そして、「次世代を切り開くための主要な要素としてはAIとサイバーセキュリティがあげられる」という事。この2点であった。

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