矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2019.02.20

「オートモーティブワールド2019」レポート MaaSシフトする自動車産業

全体

■開催概要
オートモーティブ ワールド 2019」は、2019年1月16日~18日の3日間、東京ビッグサイトにて開催された。同展示会は「第48回 ネプコン ジャパン」「第5回 ウェアラブルEXPO」「第3回 ロボデックス」「第3回 スマート工場EXPO」の4つと同時開催されており、来場者数は単独で37,657名、5展示会合計で116,244名となった。自動車関連展示会では世界一の1,002社が出展した。

期間中は展示会とあわせてコネクテッドカー、MaaS(Mobility as a Service)、自動運転/ADAS、EV/FCV(燃料電池車)といった、自動車業界注目のトピックを扱う専門技術セミナーが全100講演(同時開催展除く)開催された。

【写真:「オートモーティブ ワールド 2019」入口付近で演奏するJAZZバンド】

【写真:「オートモーティブ ワールド 2019」入口付近で演奏するJAZZバンド】

出所:「オートモーティブ ワールド 2019」内にて撮影

■トヨタがリードする「MaaS化」
2018年から19年にかけて世界の自動車産業が大きく変わりつつある。世界をリードするトヨタ自動車は現在の自動車産業について「100年に1度の変革期」と表現した。また「自動車を作る会社からモビリティカンパニーへの変貌を目指す」と表明した。つまりMaaS化である。実際にトヨタは2018年から19年にかけて、MaaS化へ向けて新たな手を次々と繰り出し続けている。

国内企業でこれほどまでにMaaS化を打ち出しているのは何といってもトヨタであり、同社は世界でも有数の変革企業といえるのではないか。海外にも変革に前向きな企業はあるが、トヨタのように系列や販売チャネルまでを巻き込んで着手している企業は少ないからだ。

下記に2018年から19年にかけてトヨタが打ち出したMaaS化(モビリティカンパニー・シフト)の主な動向を列挙した。

①18年1月米国ラスベガスで開催された「CES2018」にて、トヨタは「eパレット」コンセプトを発表
・「eパレット」コンセプトは電動化、コネクテッド、自動運転技術を活用したMaaS専用次世代EVである。対応しているサービスとパートナーは、移動のDiDi Chuxing(滴滴出行)とウーバー、物流のアマゾン、物販のピザハットなど多彩。B2BもしくはB2B2C向けのプラットフォームである。パートナーは、サービスの企画段階から参画し、実験車両による実証事業をともに進めていくという。

②16年からトヨタはモビリティサービスに必要で多様な機能を備えた、「モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)」の構築を推進継続中
・トヨタは今後このMSPFをカーシェアやライドシェアといったモビリティサービスの他、テレマティクス保険など様々なサービス事業者との連携に活用していく。

③18年10月トヨタはソフトバンクと新会社「モネテクノロジーズ」を設立。19年3月をめどに共同事業を開始予定
・モネテクノロジーズでは、トヨタが構築したコネクテッドカーの情報基盤「MSPF」と、ソフトバンクのスマホやセンサデバイスなどからデータ収集・分析する「IoTプラットフォーム」を連携させる。クルマや人の移動に関するさまざまなデータを活用することで、未来のMaaS事業を展開する。

④18年10月トヨタは西日本鉄道(西鉄)と福岡市内でMaaSサービス実証実験を開始
・西鉄と福岡市内で「マイルート」の実証実験を開始。「マイルート」とは公共交通、自動車(タクシー、レンタカー、自家用車)、自転車、徒歩など、さまざまな移動手段を組み合わせて予約・決済まで行うマルチモーダルアプリである。

⑤18年11月トヨタは全国的に販売チャネル変革に着手
・全国トヨタ販売店代表者会議で、新モビリティサービスを提供する販売ネットワークの変革に乗り出すことを宣言。22~25年をめどに、店舗ごとに扱う車種を変えていた「チャネル軸」から「地域軸」へと見直し、新たにカーシェアリング事業を立ち上げる模様。全国に先駆けて東京のメーカー直営販売店4社は融合して19年4月から「トヨタモビリティ東京」として生まれ変わる。

⑥18年12月トヨタは「配車サービス車両向けのトータルケアサービス」開始
・東南アジアの配車サービス大手の「グラブ」に対して、トヨタ販売店と配車サービス事業者が情報を共有しながら、車両管理、保険、メンテナンスなどを一貫するサービスを開始。「eパレット」コンセプトを実現しようとしているようだ。

⑦19年注目のトヨタのサブスクリプションモデル「KINTO(キント)」
・19年から開始を予定しているサブスクリプション(定額の料金形態)モデル 「KINTO(キント)」に注目が高まっている。税金や保険の支払い、車両メンテナンスなどの手続きをパッケージにした個人向けの月額定額サービスである。

⑧2020年代のトヨタMaaSビジネス計画
・2020年代前半には、米国を始めとした様々な地域でのサービス実証を目指す。
・2020年にはMaaS機能を搭載した車両で東京オリンピック・パラリンピックのモビリティとして大会の成功に貢献していきたいと考えている模様。

「オートモーティブ ワールド 2019」において、多くの部品メーカやITソフトウェアメーカが、この「トヨタを始めとするOEMのモビリティカンパニー・シフト(MaaSシフト)」に対応すべく開発した製品を展示していた。その展示内容について記載していく。

各社の展示状況

■Neusoft REACH社、Neusoft社/海外提携先企業とのクラウドサービス
Neusoft REACH社は2015年にNeusoft社(ニューソフト、遼寧省瀋陽市)とアルパイン電子(中国)有限公司の共同出資により設立されたカーエレメーカである。EV、コネクテッドカー、自動運転とカーシェアリング分野に特化し、次世代の車載プラットフォームと技術(テレマティクス、HMI、IVI、メータ、V2X、セキュリティ等)を提供している。

親会社Neusoft社は、グループの持ち株会社である「東軟集団」を中心に、総合ソフト開発・ソリューションプロバイダとして大学など計7社を傘下に置く、中国大手ソフトウエア企業だ。1991年からアルパインと提携し、カーオーディオ、カーナビまでの多数の車載ソフトウェアも供給している。

そのアルパインは、Neusoft REACH社の親会社アルパイン電子のさらに親会社である。2019年1月にアルプス電気と経営統合し、新会社アルプスアルパインとなっている。

Neusoft REACH社は2017年、Hondaの中国現地法人である本田技研工業(中国)投資有限公司と、カーシェアリング子会社であるReachstar(以下、リーチスター)社への出資契約を締結した。Neusoft社グループはカーエレクトロニクスばかりでなく、MaaS時代のビジネスモデルを追って、カーシェアリング事業にまで出資しているのである。

おそらくはこうした中国におけるMaaSサービス事業に対しても、アルプスアルパインは直接・間接の関りを持っているはずだ。アルプスアルパイン、クラリオン、富士通テン、パイオニアとここ2~3年に国内カーナビメーカは大きく経営形態の変化を遂げている。今後は単独のカーナビメーカとしてではなく、海外をも含めた提携先企業との共生というスタイルでサバイバルしていくものと考えられる。次の図はNeusoft社の車載関連クラウドサービス事業内容をまとめたものである。

【写真:Neusoft社の標榜する車載関連クラウドサービス】

【写真:Neusoft社の標榜する車載関連クラウドサービス】

出所:「オートモーティブ ワールド 2019」内にて撮影

車載クラウドサービスはMaaSの車両、システム・ソリューションには必須である。国内ではハードウェアメーカであっても、海外ではソリューションベンダとして活躍する企業も出てくるかもしれない。

■ネクスティ エレクトロニクス/小型EV「リバーストライク」用GPS TUNER
豊通エレクトロニクスとトーメンエレクトロニクスが合併した「ネクスティ エレクトロニクス」ブースでは、欧州のスタートアップ企業と共同開発中のEV向け新規ソリューション「GPS TUNER」を公開していた。GPS TUNERは、充電残量でどこまで走れるかをマップ上にリアルタイム表示させる、世界初のソリューションである。

GPS TUNERは、3輪2人乗り小型EV「リバーストライク」(市販車をベースにしたEV)に導入予定だ。というよりも、GPS TUNERは元々、小型EV「リバーストライク」への導入を前提に開発が行われている。

リバーストライクは、「オートモーティブワールド2018」にも出展された、ネクスティエレクトロニクスによる3輪2人乗り小型EVだ。同社は、欧州でスポーツ仕様電動アシスト自転車「e-bike(Eバイク)」が人気であることに着目。軽くて小型のEVであればさらに普及が進むのではと考え、開発に着手した模様。前輪2輪・後輪1輪のため、二輪免許があれば公道走行可能だという。

リバーストライクの車内インパネに設置されたタブレット端末(次の写真上)に表示されるマップ上には、GPS TUNERによって走行可能エリアが表示される。運転のしかたや、風向き・気温等の気象状況をリアルタイムで反映してくれるため、ドライバーは「どこまで走れるのか」を常に確認しながら、余裕を持ってドライブできるという。

またマップ上には全国の充電スポットが表示されており、目的地を設定すると、目的地到着までに経由すべき充電スポットを最適化して教えてくれる。

次の写真下左の車両の周りに表示されているのが、現在の充電残量で走行できるエリア。電池残量のほか、アクセルの踏み方などのドライバーの運転や、向かい風・追い風などの天候、上り坂・下り坂などの傾斜などを反映させることができる。マニュアルモードにすれば風向きや気温などの条件を変更することが可能となる。

また次の写真下中央の点で示されているのが充電スポットだ。航続可能距離と電池残量もひと目でわかる。

【写真:ネクスティのEV用走行可能範囲計算ソリューション】

【写真:ネクスティのEV用走行可能範囲計算ソリューション】

出所:「オートモーティブ ワールド 2019」内にて撮影

自動車産業大変革の要因とされる「CASE」では、コネクテッドカー・自動運転・EV化・シェアリング化が同時に動き出す可能性がある。同製品などは、やがて必須機能として取り込まれていくのかもしれない。

■ARGUS/イスラエルの自動車用サイバーセキュリティ

【写真:ARGUS「自動車用サイバーセキュリティサービス」】

【写真:ARGUS「自動車用サイバーセキュリティサービス」】

出所:「オートモーティブ ワールド 2019」内にて

今回もイスラエル大使館ブース内には15社もの企業の展示があった。中でも人だかりが目立ったのはNVIDIA(米)と並び称されるADAS画像処理もう一方の雄「モービルアイ」だ。そしてモービルアイに次ぐ有名なイスラエル企業、ここARGUSも注目されていた。ARGUSはコンチネンタル傘下の自動車用サイバーセキュリティサービス企業だ。コネクテッドカー化が進み、L4,5の自動運転カーが増えれば外部との通信は必須になりハッキングの危険も増えるため、自動車用サイバーセキュリティが有望市場になることは間違いない。

イスラエルが強い技術の多くは防衛産業技術の転用であり、特に①サイバーセキュリティ、②車外センサ、③車内センサは3本柱といわれている。その企業風土はイスラエル人特有のスピード感にあふれている。イスラエル人は兵役を経て、自分の生命を感じながら、18~20歳でリーダシップやシミュレーション能力が鍛えられるという。企業人としても有能なはずだ。(だから兵役がいいなどとはいっていない。)

ARGUSはイスラエルの中でも「商業とリゾートの街テルアビブ」にある。たしかにイスラエルにはパレスチナ自治区のような危険地帯はある。だが、テルアビブは山から海までがある温暖なビーチで、「ここハワイのワイキキなんじゃないの?」と間違える人もいるとか。また日本人ビジネスマンが多く、寿司屋が200軒あり、渋滞も多い模様。

今後日本企業がMaaS事業を推進するにあたっては、イスラエル企業との提携も十分に考えられる。テルアビブもシリコンバレー、広州・深圳のような次世代技術発掘の地、次世代ビジネス生誕の地になっていくものと思われる。アリババの馬氏が19年に会長を辞任するというが、もしも今後中国の共産党によるIT事業者締め付けが強まった場合、さらにテルアビブの重要性が増す可能性もある。

■NTTドコモ/音声認識利用声からの感情認識サービス
NTTドコモはこれまで多くの車載情報サービス事業を手掛けてきた。パイオニアと組んでのドライブネット事業(スマートフォンベースでのナビアプリ)、AIバス…。

今回展示された「AIインフォテインメントサービス」は、AIと音声認識機能を使い、声から感情認識を行うというもの。用途は下記などが考えられるという。

1)ドライバの気持ちに添った話しかけ方を工夫できる。それによってドライバの気分が和らぎ、安全運転につながる。
2)ドライバの気持ちに添った音楽の選曲を行える。
3)「感情」と「元気度」を解析する。元気度が普段より低いと「寝不足」の傾向あり。インカメラとの併用で効果をより高める。

【写真:NTTドコモ「音声認識利用声からの感情認識サービス」】

【写真:NTTドコモ「音声認識利用声からの感情認識サービス」】

出所:「オートモーティブ ワールド 2019」内にて

現在はオーナーカーやバスなどを対象としているシステムだが、将来的にはシェアカーなどMaaS領域についての開発も重要視していく模様。

専門技術セミナー

本展示会では専門技術セミナー(有料)も充実しており、専門の講師の講演を聴講する事が可能で、最新の技術やマーケット動向を知る事が出来る。コネクテッドカー、MaaS(Mobility as a Service)、自動運転/ADAS、EV/FCV(燃料電池車)といった、自動車業界注目のトピックを扱う専門技術セミナーが全100講演(同時開催展除く)開催された。

今回の取材は、「デジタルコクピット」「車載ソフトウェア標準化」「変わるモビリティ社会」等のセミナーについて実施した。

■モビリティ社会
トヨタ自動車の講演では「現在の自動車産業が直面しているCASE(Connected:コネクティッド化、Autonomous:自動運転化、Shared/Service:シェア/サービス化、Electric:電動化)の大変革は、100年前のT型フォード登場によりモビリティが馬から自動車にシフトしたのと同じくらいの大変化である」という視点から語った。VWはCASE時代の自動運転カーにおける技術の進展について語った。

■デジタルコクピット
デンソーは「コクピットのコネクテッドカー、ADASとの連携」について語った。産業技術総合研究所は「自動運転のヒューマンファクターの課題」について考えを述べた。

■車載ソフトウェア標準化
APTJは、欧州発AUTOSARによる車載ソフトウェア標準化の流れに対して、日本企業からの対応プラットフォーム発信の重要性と、そのことによる日本企業サバイバルの必要性について、同社代表取締役会長の名古屋大学教授・高田広章氏が講演を行った。

■MaaSイノベーション
MaaSイノベーションのテーマについてはトヨタ自動車の開発子会社TRI-AD、デンソー各社から専門家が講演を行った。

最後に

今回の展示会、専門技術セミナー講演を通して感じたことは、モビリティの大変革時代において自動車メーカーはビジネスモデルを「自動車を作る会社からモビリティカンパニーへの変貌を目指す(MaaSシフトする)」と表明しており、それに対応すべく部品メーカ、ソフトウェアベンダ、サービス事業者も大きく自らを変化させようとしているということであった。

関連リンク

■アナリストオピニオン
「オートモーティブワールド2020」レポート
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