矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2017.02.16

「オートモーティブワールド2017」レポート  自動運転時代に向けて自動車産業の態度軟化、さらに進むIT・IoT業界との連携

全体

■開催概要
「オートモーティブ ワールド 2017」は、2017年1月18日~20日の3日間、東京ビッグサイトにて開催された。同展示会は「第9回 国際カーエレクトロニクス技術展」「第5回 コネクティッド・カーEXPO」「第8回 EV・HEV 駆動システム技術展」「第7回 クルマの軽量化技術展」、「第3回 自動車部品加工 EXPO」の5つから構成されており、過去最多の900社が出展した(前年比200社増)。来場者数も34,542名(前年比27.5%増)となり、自動車産業への期待感・関心の高さを現していた。期間中は展示会とあわせてコネクテッド・カー、自動運転/ADAS、FCV(燃料電池車)、軽量化といった、自動車業界注目のトピックを扱う専門技術セミナーが全100講演開催され、34,532名が受講した模様。

【写真:「オートモーティブ ワールド 2017」】

【写真:「オートモーティブ ワールド 2017」】

(出所:「オートモーティブ ワールド 2017」内にて撮影)

■2017~30年の自動車産業構造の変化
ここ3~4年、世界の自動車産業のプレーヤ達は、2つの新潮流からの挑戦を受けて立っている。2つの新潮流とは「IT・IoT業界のプレーヤ達」と「全く異業種からの新規参入プレーヤ達」を指す。(【図表:2017~30年の自動車産業構造の変化】参照)
具体的には前者の代表はグーグルである。同社はAndroid AUTOという車載プラットフォームを出してHMI(インパネ周辺のインタフェース)の一大勢力を築きつつ、その一方でレベル4自動運転カー(人間の操作を全く必要としない完全自動運転カー)の開発に莫大な投資と開発力を向けている。
後者の代表はUberである。「クルマは保有しなくても、Uberのサービスを利用してタクシーや他人の乗用車を使ったり、それも複数人とシェアして使えばいいんです」というビジネスモデルを掲げて世界中に展開させ、その一方でレベル4自動運転カーの開発に莫大な投資と開発力を向けている。
こうした2つの潮流からの挑戦を受けて、世界の自動車産業のプレーヤ達は、まず「お前たちの好きにさせるものか。負けないぞ」と、表面上はともかく、心の底では反発して戦おうとした。挑戦者が標榜するレベル4の自動運転カーに対しても、「あれは2030年くらいにチョボチョボと動き出すに過ぎないよ。本当の自動運転カーとは、手動と自動を切り替えるレベル3なのだ。そして、それはADASの流れに沿って訪れるものだ」とばかりに、レベル3の自動運転カーの実証実験に注力し、それをアピールした。
しかし、ここにきて世界の自動車産業のプレーヤ達の態度は軟化し、柔軟な対応をするようになってきているのではないか。

【図表:2017~30年の自動車産業構造の変化】

矢野経済研究所作成

例えばトヨタがプリファードネットワークス社や米ナウト社(どちらもAIベンダ)と提携した事やUber(カーシェアサービス)へ出資した事。同じくホンダがソフトバンクとAI共同開発した事や、米グーグル子会社のウェイモとの完全自動運転技術の共同研究、Grabとシェアサービス事業で提携した事。これらOEM(自動車メーカ)の動向は、もはやOEMが自社及び系列企業の技術だけでは未来におけるビジネスの絵を描きにくくなり、また開発スピードをより早めるためにも、IT・IoT業界やシェアリングサービス事業者との連携が欠かせなくなった事を示している。それはトヨタ、ホンダ以外のOEMにしても同じことだ。
こうした大型提携は、自動車産業のプレーヤ達と2つの新潮流との関係が、「これまでのような敵対関係」から「提携もありうる、競争もありうる、その時の目的や分野によって柔軟に変化しうる関係」へと変化してきたことを示しているのではないか。おそらくこうした変化の多い流れは、自動車産業において自動運転が一般化する2030年まで続くものと考えられる。

■異業種からの出展企業を取材
今回「オートモーティブ ワールド 2017」においても、OEMやTier1と連携を図ろうとする異業種企業の出展が目に付いた。
たとえば車載HMI(Human Machine Interface)のデバイス&ソフトウェア。車載HMIとは、センターディスプレイ(カーナビやカーオーディオ)、クラスタディスプレイ(各種メータ)、ヘッドアップディスプレイ(HUD)にADAS(安全装置)表示等を統合したシステムを指す。
レベル3の自動運転カーにおいては「自動⇔手動の切り替え」が重要になる。システムが自動から手動に切り替えようとした時に、ドライバが眠っていたりしたら危険だ。そこで「ドライバが眠っていないか、健康状態は良好かをカメラ画像解析等でチェックする」ためのドライバモニタリング機能を持つ車載HMIが安全性確保のために必須となってくる。ドライバの状態を把握して走行系につなぐ役割を果たすHMIデバイス&ソフトウェアは重要なカギを握る存在だ。これまでどちらかといえばメカニカルな開発を続けてきた自動車産業のプレーヤ達にとり、HMI を作るにはIT・IoT業界のプレーヤとの連携が有効となる。そこで当稿「2.各社の展示状況」では出展企業の中から、HMIデバイス&ソフトウェアベンダを3社取材して掲載した。
またシェアリングカービジネスが普及した時代の自動車産業は、開発→製造→販売という流れのビジネスではなくなる。自動車というモノ販売ではなく、シェアリングやリースなどのサービスがビジネスモデルとなるからだ。そこで「2.各社の展示状況」では出展企業の中から、オートリース事業者向けの「与信補強サービス」企業についても1社取材して掲載した。

各社の展示状況

■(株)トーメンエレクトロニクス/虹彩認証製品「アイリシールド」
トーメンエレクトロニクスは、米Iritech(アイリテック)社製虹彩認証カメラなどの実演展示を行っていた。虹彩認証は眼球内の複雑な模様を持つ虹彩を読み取るもので、目の疾患などにも影響を受けず、短時間で高精度な本人認証を可能とする技術。コンタクトやメガネをしていても読み取ることが可能だ。
米Iritech社は虹彩認証をけん引する企業の一つで、米国防衛機関・米国政府機関をはじめとして、世界市場で製品展開を行っている。
同社の虹彩認証製品「アイリシールド」はUSBでPCやタブレットに接続できる携帯型端末。低価格のため大型導入による販売実績も多い。インドでは全国民の「10本の指、虹彩、顔、住所、性別、名前」生体認証ID登録を推進しており、「アイリシールド」は政府の生体認証プロジェクトで採用されている。今までは年金支給で使われていたが、今後は銀行口座開設、ホテルチェックイン、保険加入にも使われる計画だ。現在、既に10億人超のDBがあるという。
もっとも車載HMI用途での虹彩認証活用については、世界中のOEMが試作してはいるものの、まだ製品化の域には達していないという。ただし下記ポスターのアプリケーション例には、車室内の写真がある。

【写真:Iritech(アイリテック)社製虹彩認証カメラ】

(出所:「オートモーティブワールド2017」内にて撮影)

■メディアゼン(株)/音声認識システム
韓国メディアゼンは自動車専用の音声認識システムベンダである。今回は国内代理店である現代インデックスとの共同出展示であった。
同社の音声認識システムは、既に現代・起亜自動車、現代モービス、LG電子、HARMANをメインに1,000万台以上に搭載されている。車載音声認識と言えばニュアンスが世界的に有名であるが、同社は韓国系メーカに対しては強みを持っているといえよう。日本OEMに対しても営業活動を推進しており、トヨタ、マツダと導入を協議中だとのこと。
またOEMばかりでなく、HARMAN、LG等Tier1メーカのヘッドユニット用にも出荷している。
現代・起亜自動車はニュアンスの音声認識エンジンを使いながら、メディアゼン製品も組み合わせて使用しているという。その際、ASR、TTSはニュアンス製、VCEはメディアゼン製を使用している模様。

【写真:メディアゼンの音声技術】

【写真:メディアゼンの音声技術】

(出所:「オートモーティブワールド2016」内にて撮影)

■Sdtech(エスディーテック株式会社)/ドライバ適応型HMI
前述の虹彩認証、音声認識はいずれもドライバから発せられる画像や音声を検知するシステムにおけるソフトウェアである。sdtechの製品はこうした車載HMIにおいて、デザインとソフトウェア技術との融合を目指している。
同社の車載HMI用ソフトウェア製品群は下記の様なもの。機械学習を活用したシステムを構築するためのツールキット「TRITO Comperio」、ユーザーの興奮状態を認識する「TRITO Tango 」、上流工程から効率よく HMI 開発をするためのツール群「TRITO Linkage」、マルチプラットフオームでのHMIのWindow枠を制御「TRITO Frames 」、HMI演出用ビデオコーデックライブラリ「TRITO Video Effect 」。
今回の展示でメインに打ち出していたのは、「ドライバ適応型HMI」だ。CANから取得した運転に関する情報や、車室内から取ったドライバの生体認証データから、ドライバの運転状況を認識し傾向解析する。解析した結果を用い、運転しているドライバの状況に応じて表示内容を適切に変えるHMIを実現するという。

【写真:sdtech「ドライバ適応型HMI」】

【写真:sdtech「ドライバ適応型HMI」】

(出所:「オートモーティブワールド2016」内にて)

例えば下記の様な実用例が考えられる。

<実用例1: ドライバの苦手箇所をお知らせ>
ドライバ適応型HMIは、CANなどの運転に関する情報やセンシング技術による人体に関する情報から ドライバの運転状況を認識し傾向解析。解析した結 果を用い、運転しているドライバの状況に応じて振る舞いを適切に変えるHMIを実現。
 
<実用例2: ACC等の運転支援機能の使い所をお知らせ>
苦手箇所や過信しがちな道路事情に合わせて、ACC等の運転支援技術を使うタイミングや使い方の補助をします。

一言で言えば「ドライバ適応型HMI」とは、「ドライバのタイプによって、HMIを変える」というもの。車載HMIの将来は「1台ごとに表示形態が変わる」というものに変わっていくと考えられている。

■GMS/アジアにも展開するテレマティクス「与信補強サービス」
自動車IoTのベンチャー企業、グローバルモビリティサービス(以下「GMS」)は、SBIホールディングス(株)の子会社である。アジアではまだ所得が低く、これまで与信が通らずクルマを購入できない人も少なくなかった。またそうした人に売った場合、販売店・リース会社は料金を取りはぐれることもあった。
そこで遠隔起動制御技術を強みとするGMSは、自動車の起動を制御することで、先ず与信審査が通らない利用者に対しても車両提供を可能にする画期的なサービスをスタートした。リース会社などの金融機関等と連携し、自動車リースの与信審査を省略することによる「与信補強サービス」により新たなファイナンス機会を創出する。
つまりGMSの「与信補強サービス」の最大の特徴は下記ポイントだ。
(1)これまでは絶対に貸せなかった人に貸せる。
(2)これまでは絶対に儲からなかった貸し手に利益が入るようになる。
同社によれば、世界には20億人が「審査」を通らないままでいるという。逆に言えば、この20億人に金を貸せることができれば、20兆円規模の市場が生まれるというわけだ。もっともGMSはベンチャー企業に過ぎないから、「資本業務提携」のみしかできない。単なる「業務提携」では駄目である。それでも現状、多くの企業から声がかかっている模様。

【写真:GMS「与信補強サービス」】

【写真:GMS「与信補強サービス」】

(出所:「オートモーティブワールド2016」内にて撮影)

また「与信補強サービス」以外にも、運転挙動連動型のテレマティクス自動車保険、盗難防止など、遠隔制御により実現する様々なサービスを、日本国内及びアジア地域(フィリピン、インドネシア、ベトナム、タイ、インド)において提供中だ。同社は独自開発のIoTプラットフォームシステムをベースとして、車載機から収集した各種車両情報を解析したアプリケーションサービスを提供している。

専門技術セミナー

本展示会では専門技術セミナー(有料)も充実しており、専門の講師の講演を聴講する事が可能で、最新の技術やマーケット動向を知る事が出来る。専門技術セミナーは、展示会ごとに注目テーマが設定されており、1月18~20日の3日間におけるセミナーが全100講演開催され、受講者数は34,532名となった。ただし、これは同時開催の「ネプコンジャパン」「ライトテックEXPO」「ウェアラブルEXPO」「ロボテックス」「スマート工場EXPO」のセミナーも含めての数字である(別途、報道関係者は902名)。
今回の取材は、「コネクテッドカー」「車載HMI」「AI(人工知能)との融合で革新するクルマ」等のセミナーについて実施した。
どのセミナーもほぼ満席状態で、立ち見する人もいるほど。関心の高さがうかがえる。

■コネクテッドカー
日立グループ(日立製作所、日立オートモーティブ)が今回の講演で「OTA(Over The Air)」、すなわち自動車用ソフトウェアの遠隔アップデート時代の到来について語った。現在は米国テスラモーターズによるサービスが有名だが、自動車がソフトウェアにより制御される比率が大きくなり、ソフトウェアは機能・品質向上からOTAの必要性が高まることが予想されるため、OTAは一般的なものになるという。
またセコムは「OTA実現の際にサイバーセキュリティは不可欠なものになる」と事例を交えながら注目技術について語った。

■車載HMI
デンソーは「コクピットの統合化」という先端技術について言及。ヴァレオは「自動運転に対応したコクピット表示」についての考え方を発表。産業総合研究所は「人間中心から見て車載HMIはどのように進化していくべきか」について考えを述べた。
他にもトヨタ自動車、日産自動車等OEMからは、自動運転について語りながらも、その際に必要となるHMIについても講演を行なった。

■AI(人工知能)との融合で革新するクルマ
AIとの融合で革新するクルマというテーマではデンソー、NVIDIA、本田技研工業、インテル各社から専門家が講演を行った。
人の代わりにコンピュータがクルマを運転するのが自動運転だとすれば、コンピュータの中核を占めるAIは、「人の運転と同じくらい安全」であることを検証しなくてはならないということである。そのためには技術向上ばかりでなく、AIの倫理的、法的、社会的な責任の在り方について考えていかなくてはならないという事であった。

最後に

今回の展示会、専門技術セミナー講演を通して感じたことは「自動車はコネクテッドカーと自動運転の時代に入ったのではないか」という事。そして、これを実行するためには、たとえ大手のOEMであろうとも単独の技術では困難であるという事。なぜなら自動運転時代のクルマはソフトウェアを書き換えたり、遠隔制御したり、ドライバモニタリングしたり、とIT・IoT技術が必須であり、より大きなクラウドが必要になるからだ。
しかし忘れてはいけない事は、自動車はたとえ軽自動車であっても1トン以上の重さを持つという事だ。その重量を動かすためのパワトレをはじめとする“走りの技術”は未来永劫に重要である。したがって例え自動運転の時代になっても、IT・IoT業界やサービス業界のプレーヤに全てとってかわられるという事はありえない。とりわけ重さのある世界において、また重さのある世界とIT・IoTとの融合世界において、日本企業の強味が発揮されるのではないか。

追記事項
今回の記事内容にご興味ある方は、下記の関連記事についてもご一読下さい。
2016.12.26 自動運転システムの世界市場に関する調査を実施(2016年)
2016 自動運転システムの可能性と将来展望 ~Tier1/自動車メーカーの開発動向~

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