矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2019.02.05

空飛ぶタクシーの実現性

自動運転カーによる「自動運転タクシー」への期待が高まると同時に、自律飛行で移動する空のモビリティ「空飛ぶタクシー」もまた、次世代の移動手段として期待されている。
空飛ぶタクシーは、VTOL機(Vertical Take-Off and Landing:垂直離着陸の略)を前提としており、滑走路を必要としない。そのため、広場やビルの屋上を離着陸場所にできることから、都心から遠く離れた空港までわざわざ出向く必要がなくなる。交通渋滞にも巻き込まれない、新たなモビリティとして期待されている分野でもある。

自律航行(Autonomy)の容易さもその一つである。自動車の場合、予め敷設された車道を走る必要があり、その路上には他の車両やバイクに加え行動の予測が困難な歩行者や自転車、さらには迷い込む動物や落下物などと言った障害物も少なくない。それに対して上空を飛行する航空機は、道路のような制限はなく、地上300m以上になると建造物も殆どなくなる。飛行機で自動操縦が早くから実現できたのはそのためである。また、民間航空機であれば、仮に巡航高度の33,000フィート(約1万メートル)上空から自由落下したとしても回復するまでには約3分間以上の猶予がある。

■Bell社「Nexus」(ベル ネクサス)
今年1月のCES 2019では、Bell(旧Bell Helicopter)のVTOL乗客輸送機Nexusが話題になった。大型のチルト型ダクトファン6基を搭載し、動力はハイブリッドで、ガスタービンで発電した電力でモーターを回す方式をとっている。ダクテッドファンは全部で6基あり、離陸後にはチルトして水平方向への推力とすることができる。
展示されたのは飛ばない完全なモックアップであるとはいえ、VTOL機の代表的存在となったV-22オスプレイを製造するBell(ボーイングとともに)だけに、現実味があるように見えたためであろう。
このBellのNexusは、UberのエアータクシープログラムUber Elevateに向けて設計された機体である。パイロットによる操縦を前提としてはいるが、将来的には全自動で自律航行する。なお、Bellは昨年のCES 2018では、エアータクシーキャビンとして、飛行時にはプロペラのついた機体に、路上走行時には車輪のついた機体に客席ごと乗せ換える方式をデモンストレーションしていた。


Bell NEXUSは、CES 2019で披露されたエアータクシー(Uber Elevate)用の機体

なお、昨年のCES 2018ではドイツのVolocopter(インテルやダイムラーが出資)、さらに前年のCES 2017には中国のEhangが注目されたところである。

■「Volocopter」(ボロコプター)
Volocopterは、シンガポールで今年2019年後半にもテスト飛行を行う予定で、シンガポールの交通省、航空局、経済開発庁と連携している。2017年9月にはドバイで無人の試験飛行に成功している。エマージェンシーパラシュートを装備。


Volocopterのシンガポールでの飛行イメージ

■Ehang社「Ehang184」(イーハン184)
Ehangの184が最初に披露されたのは2016年のCESで、人々の驚きを集めた。100㎏に満たない機体に乗員1人だけを乗せて全自動飛行する。184は乗員×1、プロペラ×8、アーム×4からきている。安全装置は、不具合を検知した時には直ちに着陸する機構と複数のバックアップのみで、初期デザインのプロトタイプでもあるため、プロペラガード等も装備されていない。


Ehang 184は、1人乗りの自律航行機(Autonomous Arial Vehicle: AAV)

■Uber「Uber Air」(ウーバー エアー)
Uberでも、eVTOLのコンセプトを発表しており、NASAとの提携したのに加え、機体設計では大手航空機メーカーであるエンブラエル(Embraer:ブラジル)、電動小型飛行機のピピストレル(Pipistrel:スロベニア)、有名な無人航空機MQ-1プレデターの前身機を設計したカレム(Karem:アメリカ)、そしてボーイング(Boeing:アメリカ)、Bell(旧Bell Helicopter:アメリカ)とも協力を結んでいる。米ロサンゼルス、日本、オーストラリアなどを実施ターゲット地域に選んでいる。


Uber Technologies uberAir

■Aurora社「PAV(Passenger Air Vehicle)」(オーロラ PAV)
Auroraは、米ボーイングの子会社で、乗客をオンデマンドで運ぶためのeVTOL機体PAV(Passenger Air Vehicle)を開発中である。なお、Auroraは、太陽光発電で成層圏を飛び続けるOdysseus、長距離偵察UAV(Unmanned Arial Vehicle: 無人航空機)のOrionなども手掛ける企業である。


AuroraのPAV、エアータクシーでの利用に向けてテスト飛行を行っている

■Lilium社「Lilium Jet」(リリウム ジェット)
Lilium(ドイツ)はeVTOLのスタートアップで、機体を販売するのではなく、エアータクシーとしての展開を狙っている。機体には、垂直から水平までチルトする12のフラップを備え、フラップそれぞれに電動ジェットエンジン(ダクトファン)3基が備わっている。


Liliumの5人乗りLilium Jetはエアータクシー用に開発された機体

■Airbus社「Vahana Alpha One」(エアバス ヴァーハナ アルファ・ワン)
Airbusのシリコンバレー拠点であるA3(“エーキューブ”と発音)は、完全自動運転の電動VTOL機Vahanaの試験飛行に成功している。Vahanaは8つのプロペラを持つチルトウィング機。1人を乗せて60㎞を飛行できる。


Airbus VahanaのAlpha Oneテスト飛行

■Workhorse社「SureFly」(ワークホース シュアフライ)
Workhorseは、EVやデリバリードローンも展開する企業だが、CES 2018では乗用ドローンを発表した。ガスエンジンで発電し8基のモーターでプロペラを駆動する。バックアップバッテリーも搭載し、長時間の充電を待つことなく飛行できるのが特徴。ヘリコプターよりも安価な20万ドル(2,200万円)以下での販売を目指している。


WorkhorseのSureFly、エンジンで発電してプロペラを駆動

【図表:各社VTOL機(Vertical Take-Off and Landing)の仕様】

図表:各社VTOL機(Vertical Take-Off and Landing)の仕様

矢野経済研究所作成
*uberAIRは機体の提供を受ける側であるため複数のプロトタイプが存在。表中はUberの設計モデル

■AeroMobile社「AeroMobile 4.0」(エアロモービル 4.0)
変わり種としては、空飛ぶ自動車を以前から開発しているAeroMobile(スロバキア)がある。この機体は、VTOLではなくSTOL(Short Take-Off and Landing:短距離離着陸)機となり、動力は飛行には内燃式エンジン、地上走行時は電動としている。また、8.8mの飛行翼は、地上走行時には折りたたむことができる。航続可能距離は地上走行で100㎞、飛行で750㎞。現行の4.0は2人乗りだが、5.0ではVTOLのコンセプトも発表している。
ただし、AeroMobileの期待は、個人所有用を前提として2017年には予約販売を開始しており、2020年に納車を予定。価格は1.2百万~1.5百万ユーロ(約1.5~1.9億円)。


AeroMobile 4.0

■空飛ぶ自動車の未来と課題
以上のように、エアータクシーはまだ始まってもいないのにもかかわらず、既に激しい開発競争が繰り広げられている。

そして、最も心配されるのは安全性である。米国のアラスカでは、既にエアータクシーの名称で小型機のチャーターサービスが運用されている。年間、10-20人の死亡事故が発生している。
Uberのホワイトペーパーによると、エアータクシーの死亡事故発生率は、自動車の1.8倍になっている。しかし、この半数がパイロットのミスであるとし、自動化によって防げるとしている。さらに、残りの18%はエンジントラブルによるもので、複数のモーターと電子制御、バックアップバッテリーなどの措置で防げるとも述べている。
VTOL機は通常垂直方方向のローターを持つため、オートローテーション(回転翼の抵抗を利用した着陸)による安全機構も検討されているが、都市部での運用を前提とすると、十分な高度が取れず、滑空距離も短いなど飛行経路の自由度も低いことから、非現実的ではないという見方もある。そのほかにも機体をエアバッグで埋め尽くす案も出ている。
LiliumやAeroMobile 4.0では緊急用のパラシュートを備えている。機体全体を「それなりに」ゆっくりと降下させることで、乗客の安全を守ることができるという。

しかしながら、自動車の運転免許よりも航空機の操縦免許取得が難しいのと同様、航空機の飛行許可をしかも、自動操縦でとなるとかなりの課題を乗り越える必要がありそうだ。

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古舘 渉(フルダテ ワタル) 主任研究員
新規事業コンサルティング部門、上海現地法人、海外部門を歴任し、新規市場開拓のお手伝いには自信があります。

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