矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2018.08.06

金融機関にとってAPIを公開するメリットはどこにある?――APIの公開方針の策定状況と方針の先にある課題

銀行法の規定に基づき全ての金融機関が2018年3月1日までに電子決済等代行業者(いわゆるFinTech事業者)とのAPI接続に関する方針を公開した。そこで、本レポートでは、金融庁が2018年4月にとりまとめた「金融機関における電子決済等代行業者との連携及び協働に係る方針の策定状況について」をもとに集計、傾向をみてみたい。

概要

銀行APIに関する動きが活発化している。銀行法(附則第十条第一項)の規定に基づき、全ての金融機関が2018年3月1日までに電子決済等代行業者との連携及び協働に係る方針を策定、公表。今後、方針に基づき2020年度にかけて各行がAPIの接続にあたって体制整備や接続基準など具体的な取組みを進めていくこととなる。 そうした中、同年4月には同公表内容について金融庁が「金融機関における電子決済等代行業者との連携及び協働に係る方針の策定状況について」として全金融機関の公表内容を発表した。
本レポートでは公表内容のうち、都市銀行や地方銀行、インターネット専業銀行、信託銀行、外資系銀行における方針について集計・分析を行った。なお、集計方法は各行の集計時期を年度に置換した上で集計を行ったものである(例:「2018年8月公開」→「2019年度」)。

全体的な傾向

(1)参照系API
まず全体的な傾向についてみてみたい。「参照系API」は個人向け、法人向けともに概ね2018年度までに整え、一部は2019年度までに整える見込みとしている。なお、対応しないとの回答は一部の信託銀行および外資系銀行が占めている。参照系APIは預金残高や口座取引明細などシステム内の該当データを参照するに留まるため、大きなシステムの改修を伴わず、比較的早急な対応が可能となっていることが背景として挙げられる。

【図表:参照系APIにおける連携・協働方針(N=195)】

図表:参照系APIにおける連携・協働方針(N=195

矢野経済研究所作成

(2)更新系API
一方の「更新系API」は、参照系APIと比較した場合、2018年度~2020年度と用意までに時間がかかることが分かる。特に検討中と回答する割合が多い傾向にある。更新系APIは別名、資金移動系APIと呼称されるように、実際に現金の移動が伴うAPIとなっているため、銀行の基幹系システムに手を加える必要があるなど、セキュリティ対策を含めたシステム投資などが伴う点において、参照系API と異なり時間がかかる主たる要因と考えられる。

【図表:更新系APIにおける連携・協働方針(N=195)】

図表:更新系APIにおける連携・協働方針(N=195)

矢野経済研究所作成

種類別(都市銀行/地方銀行/ネット専業銀行)での傾向

(1)都市銀行
まず都市銀行5行については、個人向けのうち、参照系は整備済が3行、2018年度中に整備する銀行が2行となっている。一方、更新系は整備済1 行以外は、3行が2018年度までに整備するとしており、1行は検討中としている。
また、法人向けについては、参照系は全ての銀行が整備済。更新系については3行が整備済となっており、2行が2018 年度中に整備するとしている。

(2)地方銀行
次に地方銀行105行については、第一地方銀行(64行)と第二地方銀行(41行)に分けてみたい。個人向けでは「参照系API」は、第一地方銀行は45%強が2017年度~2018年度内に整備予定と答えている一方、第二地方銀行は31%が2018年度~2019年度に整備予定としており、若干、整備期間について第二地方銀行が1 年程度ズレる傾向にある。
次に「更新系API」も、第一地方銀行が2017年度~2019年度内に37%が整備予定、第二地方銀行は30%弱が2018年度~2020年度内に整備するとして、参照系と同じく1年程度のズレが生じている。なお、その他は「基幹システムの更改が終了後」としている。

また、法人向けについて、「参照系API」は、第一地方銀行の36%が2018年度内での整備を予定している一方、第二地方銀行は「検討中」が13%と多く、個人向けと比較して慎重な構えを見せていることが分かる。
「更新系API」についても大まかな傾向としては参照系と同様といえよう。参照系と異なっている点としては、第一地方銀行も更新系については20%が「検討中」と回答、慎重な姿勢の金融機関も存在している。

【図表:個人向け/法人向け 地方銀行におけるAPIの公開状(参照系/更新系)】

図表:個人向け/法人向け 地方銀行におけるAPIの公開状(参照系/更新系)

矢野経済研究所作成

(3)ネット専業銀行
更にネット専業銀行8行の傾向はどうか。まず個人向けのAPIについて、参照系は整備済が2行に留まっており、多くは2018年度中に整備予定としている。なお、検討中が1行存在する。一方、更新系は、2行が整備済、1行が2018年度中に整備予定としている外は、多くが検討中(3行)としている。
次に法人向けのAPIについて、参照系は2017年度~2019年度までばらけている傾向にある。一方、更新系は2行が整備済、2行が2018年度となっている。また、検討中が2行、のほか、未詳や該当なしが各々1行ずつ存在する。

【図表:参照系/更新系API(個人/法人)】

図表:参照系/更新系API(個人/法人)

矢野経済研究所作成

APIの公開以上に投資に見合うだけのリターンが得られるかが重要

上記のようにAPIの公開方針に関心が向きがちであるが、最も重要なのは、金融機関にとってシステム投資をするだけのリターンが得られるかどうかであろう。言い換えればAPIの公開によって何かしらの利益を生み出すかどうか。現時点では明確なリターンを実感している金融機関は少ないと考えられるが、今後、方針に留まらず接続基準など具体的な施策を各行が打ち出していく必要があるため、そこで金融機関のAPIに対する本気度が明らかになっていくとみられる。

なお、本レポートでは金融庁が発表した「a href=https://www.fsa.go.jp/status/renkeihoushin/index.html>金融機関における電子決済等代行業者との連携及び協働に係る方針の策定状況について」を元に集計したものであるが、2018年6月に発刊した『FinTech市場の実態と展望2018』では、実際のどのようなAPIを公開する予定なのかについても各行の方針をもとに、簡単な電話調査を交えながら具体的な公開予定としている、APIの内容やAPIの構築にあたり外注するベンダー名などについても可能な範囲で掲載している。ご興味のある方はそちらをチェック頂きたい。

山口泰裕

関連リンク

■レポートサマリー
レンディングサービス市場に関する調査を実施(2021年)
国内FinTech(フィンテック)市場に関する調査を実施(2019年)

■アナリストオピニオン
金融サービスの拡大 窓口はバンクから“ネオ”バンクへ
FinTechの更なる急拡大を後押しする注目動向

■同カテゴリー
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