矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2015.12.02

FinTech市場拡大に向けて注視していくべきポイント――スクリーンスクレイピングの現状と今後の銀行によるAPI公開をめぐる課題

ここ最近、FinTech(Financial Technology)に関してウォッチしている。FinTechはご存じの通り、多くの紙面でさまざまな議論が繰り広げられているホットな領域。本稿では、現状あまり触れられていないが、市場の拡大にあたって今後、大きな影響を及ぼすのではないかと思われるネタを取り上げる。具体的には、家計簿アプリや資産管理アプリなどの運営企業が使っている、口座の残高情報などの収集方法における現状を見たうえで、その先にある、銀行の公開API(Application Programming Interface)をめぐる課題について取り上げてみたい。

従来の情報収集手法―スクリーンスクレイピングとは

家計簿アプリや資産管理アプリなどに、口座の残高情報をはじめ取引情報が表示される。こうした情報は、アプリを運営するスタートアップが、通常スクリーンスクレイピングとよばれる技術を用いて、取引金融機関から日々、入手し、画面に反映している。

具体的には、①アプリ上で、ユーザーから運営企業側が金融機関にアクセスしてもよい旨の了承とあわせて、口座にアクセスするためのIDやパスワード(以下PW)を得る。②運営企業は、スクリーンスクレイピングを用いて、金融機関のデータベース(以下DB)にアクセスし、ID、PWを使ってユーザーの口座情報を入手。③入手した情報をアプリに反映する――といった手順を踏んでいる。

スクリーンスクレイピングのメリット/デメリット

スクリーンスクレイピングについて簡単に記述したが、ここでは同技術を用いるスタートアップ側のメリットとデメリットを考えてみたい。メリットは主に2つ。1つは金融機関からの了承を得やすい点がある。金融機関は、スタートアップとの連携にあたって、主に考慮すべき点は、自社のDBへのアクセス負荷を抑えるうえでのアクセス回数にある。このため、主にアクセス回数を両社で取り決めれば、連携できるというわけである。

メリットの2つ目は、連携が容易であるため、スピーディーに数多くの金融機関と連携できる点である。例えば、BearTail社で1,200弱、マネーツリー社では1,500強の金融機関と連携するなど、数多くの金融機関が実際に多くのスタートアップと連携している。

一方、スタートアップは、ユーザーからID、PWを預かる必要があるため、絶対に漏えいしないように、各社セキュリティ対策を徹底している。こうしたリスクを回避するうえで、最近、注目されているのが、銀行によるAPIの公開である。

2つの公開API

銀行によるAPIの公開によって、なぜリスクが回避できるのか。銀行による公開APIによってスタートアップ側は、登録に際して自社のサイトから銀行側にユーザーを誘導し、銀行のサイト内でID、PWを入力、認証しているため、スタートアップ側でIDやPWを保有する必要がないというわけである。

ここで公開APIには、大きく2つに分けられる。1つはオープンソースによる銀行側とスタートアップをつなぐ標準APIである。実際には、GitHub(ソフトウェア開発プロジェクトのための共有ウェブサービス) においてOpen Bank Projectが進められている。同プロジェクトによる標準APIが公開されれば、さまざまな企業がAPIを活用し、イノベーティブなサービスが生まれる可能性があるだろう。

もう1つは銀行によるAPIの公開。A銀行がスタートアップa社に対してAPIを公開するというものである。APIの公開は限定的ではあるものの、a社はAPIを活用し連携できるほか、新たなサービス開発の道が開ける可能性が出てくる。

銀行によるAPIの公開にあたっての大きな障壁

前者のOpen Bank Projectは、技術的な面とあわせて、仮に標準APIができたとしても、日本でのApache Hadoopの普及速度を見てもわかるとおり、日本でのオープンソースの普及は苦戦することが予想される。

では銀行によるAPIの公開はどうか。銀行側に取材を続けていると、2つの課題が見えてきた。1つはセキュリティ。もう一つは責任分岐点の問題である。セキュリティは、銀行側がAPIを公開するにあたっては、APIに繋ぐスタートアップ側に対して、銀行側と同等のセキュリティ対策と意識を求めている。ただし、セキュリティ対策については、NTTデータや日本IBMなどベンダー側で積極的にサポートしていくとの声も聞かれており、解は見出せそうである。

一方の責任分岐点は、未解決のまま。責任分岐点とは、仮にサービスがユーザー側に提供されなかった場合、銀行側とスタートアップ側とで、どのように責任範囲を分担していくのかである。責任分岐点の問題は、今後の市場拡大にあたって、注視していくべきポイントの1つになるのではないか。

山口 泰裕(ヤマグチ ヤスヒロ) 研究員
ITを通じてあらゆる業界が連携してきています。こうした中、有望な業界は?競合・協業しうる企業は?参入障壁は?・・・など戦略を策定、実行に移す上でさまざまな課題が出てきます。現場を回り実態を掴み、必要な情報のご提供や戦略策定のご支援をさせて頂きたいと思います。お気軽にお声掛け頂ければと思います。

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