矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2012.06.22

ビッグデータ時代を生き抜く「データプロバイダ」という道

ビッグデータとクラウドの密接な関係

矢野経済研究所では、2012年4月24日を皮切りにビッグデータ市場についてリリース等を配信している。

ご覧いただければわかるが、矢野経済研究所では、中期(3年程度先)においては、ビッグデータの活用によって業界常識を打ち破るようなサービスが登場し、構造改革が起きると予想している。そして長期的には、ビッグデータクラウドはスマートシティのインフラとして活用され、エネルギー、交通、物流、設備、医療などの社会基盤としても定着していくシナリオを想定している。

こうした社会が実現するには、ビッグデータの低コスト化、すなわち単位当たりのデータ活用コストをいかに低下させていくかが重要になる。そうなると、やはりクラウドに対する期待が大きい。ビッグデータ処理基盤がクラウドサービスとして提供され、多くの企業が活用するようになれば、1社当たりのデータコストが低下するためである。特に交通、天候、エネルギーなど公共性の高い情報は企業が個別に抱え込む必要性はなく、ある程度集約され、多数の企業が利用できる環境が望ましいだろう。さらに重要なのは、クラウドがマーケットプレイスになることへの期待だ。クラウドを中心に、A社とB社とでデータ売買や相互流通が成立するようになれば、ユニークなデータの掛け合わせが実現し、新たな価値を生み出すことができる可能性がある。同業同士による水平な関係、取引先との垂直な関係など、さまざまな関係性をクラウドを中心に紡ぎだし、データの共有化による低コスト化と付加価値の創出を生み出す、これが望まれる姿である。

裏を返せば、こうしたクラウドを活用したデータ流通が起きない限り、弊社が予想した2020年に1兆円というシナリオは、実現しないことになる。それだけに、クラウドの位置付けはビッグデータ市場にとっても非常に重要だと考えている。

ITベンダーが進むべき道のひとつは、「データプロバイダ」

多くのITベンダーでは、クラウド基盤やビッグデータアナリシスサービスの提供に向けて動き出しているが、厳しくいえば、それ以上には踏み込めないでいる。従来のシステムインテグレーションが、指示通りにシステムを作るというやり方が中心であったように、ビッグデータにおいても、データが持ち込まれることを口をあけて待っている印象がある。ユーザーに、1)ビッグデータクラウド基盤を使ってもらい、2)データをクラウドにためてもらい、3)ビッグデータ分析ソフトなどを提供し、4)分析のコンサルテーションをする、といったアプローチがITベンダーの取組として精一杯のところだろう。

しかし、クラウド×ビッグデータの時代を見据えた場合、果たしてそうしたアプローチで良いのだろうか。私はITベンダーに対しては、自らリスクをとってデータを集め、販売するアプローチが重要ではないかと感じている。

クラウド基盤にユーザーがデータを集約するようになっても、なかなか相互流通のようなことはおきないだろう。自社が集めたデータを外に出すことに対しては、きっと多くの企業がためらうはずだ。
しかし、それではビッグデータ市場は伸びていくことができない。データの売買を通じて相互な流通が活発化することで、あるデータとあるデータの掛け算による新たな発見やビジネスチャンスが生まれてくるのだと思う。
そうしたチャンスを創造できるのは、クラウド基盤を所有するITベンダーだと思うのである。ユーザーからデータが持ち込まれるのを待つのではなく、収集及び販売可能なデータは何かを自ら探索し、コストを投じてそのデータを集め、販売する、そうした動きがクラウド×ビッグデータ市場を創造していくのだと思う。ITベンダーが先行してデータ売買を行っていく中で実績や信頼が蓄積され、ユーザー企業も背中を押されるのではないだろうか。もちろん売買に当たっては個人情報の観点など課題もあろうが解決できないものではないだろう。

上述したようなビッグデータクラウド基盤では、ネットワーク外部性が働くことから、ある程度の数に集約されることになる。そのとき、どのクラウド基盤が選択されるかは、クラウドに搭載された分析ツールの有無や、そのクラウドで入手できるデータの種類や量などが、顧客の意思決定を左右するはずだ。となれば、なおさらITベンダーはデータプロバイダとして戦略的に動き出す必要性があるのではないだろうか。ユーザーはビッグデータという言葉にバズワードのにおいも感じているはずだ。ただの瞬間風速で終わらせないためにも、ITベンダーの能動的な動きでビッグデータ市場を成長・活性化させることをぜひ期待したい。

忌部佳史

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忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
市場環境は大胆に変化しています。その変化にどう対応していくか、何をマーケティングの課題とすべきか、企業により選択は様々です。技術動向、経済情勢など俯瞰した視野と現場の生の声に耳を傾け、未来を示していけるよう挑んでいきます。

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