矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2012.06.08

「ビッグデータ×スマートシティ」でビジネスチャンスをつかみとる

バズワード化する「ビッグデータ」のビジネスチャンスと未来を予想する

テレビや一般誌で取り上げられるほど人口に膾炙した「ビッグデータ」ではあるが、IT業界内での関心は「『ビッグデータ』は本当にビジネスになるのだろうか?」という点にあるだろう。数年前にブームとなった「クラウド」以上に観念的で、語る人により色を変えて表現されているため、バズワード的な色合いが強まっているように見受けられる。ここでは、ビッグデータ市場の成長シナリオと共にビジネスモデルを明確にしてみたい。

矢野経済研究所では、2020年までのビッグデータ市場の推移を次表のように予測している。尚、ビッグデータとは

①大容量であるため処理や分析に特別な技術を要するデータ
②データベース、文書、音声、映像などを含む多様な種類のデータ
③高頻度で発生し超高速に処理されるデータ
 

の三要素を含むデータを総称する。また、ビッグデータ市場は、ユーザがビッグデータの蓄積・処理・分析に投ずる費用の全てとする。

【図表】ビッグデータ市場規模予測
【図表】ビッグデータ市場規模予測

矢野経済研究所推計
注:ユーザ企業のIT投資金額ベース(ソフトウェアライセンス、システム構築、ハードウェア、保守を含む)
注:予は予測値

近視眼的発想からの脱却によって2020年に1兆円市場に成長

2011年度時点のビッグデータ市場は1,900億円だが、後述のシナリオのように成長を遂げると2020年には市場規模は1兆円を超えると予測する。そのシナリオを3段階に分け、それぞれのステージにおけるビッグデータ市場の特徴及びITベンダーにとってのビジネスモデルを概説する。

①短期(1年程度)
【市場の特徴】
現段階での「ビッグデータ」はほぼアナリティクスが中心であり、BI(ビジネス・インテリジェンス)市場を指す。近年ビッグデータが注目を集めるようになったトリガーには、Facebook等のSNSやスマートフォンの普及があり、個人のつぶやき等の分析からトレンドや評価を理解するというアイデアが注目を浴びた。現在では分析対象は社内外のデータとして広く捉えられ、そこから役立つ情報を得ようという発想になっている。
BIは何も新しい技術ではないが、Hadoopなど高速処理技術が登場し、高価なデータウェアハウスや専用アプライアンスが必須ではなくなった点は2012年時点での進歩といえる。
【ビジネスモデル】
現時点では、アプライアンス、ストレージ、BIツール等、ベンダーが販売しやすい、または販売したいものを「ビッグデータ対応」としてアピールする動きが起きている。
しかし「ビッグデータ=BI」であると冷静に考えればニーズは限定的である。BIは、これまでかえりみなかった、または捨てていたデータを「ビッグデータ対応製品」にかけると画期的な結果が出る、というものではない。ブームに乗って目先の利益を追いかけるようでは、かえってビッグデータへの失望を招く。データがビッグであろうとスモールであろうと、経験と業務知識に裏打ちされたソリューション提供によって地道な成功事例を積み重ねるしかない。
 
②中期(3年程度)
【市場の特徴】
ビッグデータの活用によって業界常識を打ち破るようなサービスが登場し、構造改革が起きる。大袈裟なようだが、GoogleやFacebookがビッグデータの活用によって世界を変えたということには誰もが首肯するだろう。このフェーズでは、データ分析は新たな事業やサービス創出のために行われ、成功事例が随所で確立する。ビッグデータ活用の機運が高まり、戦略的な投資が加速する。
このシナリオまで踏み込めるかどうかはデータ活用のコストに依存する可能性が高い。低コストであれば大規模で大胆なデータ活用を行いやすい。既に先進的なビッグデータ活用を進めている企業にソフトバンク、楽天、DeNAなどが挙げられるが、いずれも携帯端末やWebから実質上無料でデータを入手できる点でアドバンテージを得ている。
【ビジネスモデル】
コストダウンを実現するテクノロジーはクラウドだ。データ処理基盤を個別に構築するのはコストと時間がかかるが、安価で迅速に利用可能なクラウドサービスとして提供されれば、利用する企業は増え、ビッグデータの利用を促進するだろう。
その先にはクラウド上のデータそのものでビジネスを行うデータプロバイダーというモデルも想定される。交通、天候、エネルギーなど公共性の高い情報を共通で利用できればビッグデータクラウドの利便性は高まる。また同業の水平な関係、取引先との垂直な関係においても共用できるデータは多種存在しているだろう。
 
③長期(5年程度)
【市場の特徴】
ビッグデータクラウドはスマートシティのインフラとして活用される。中期ではビジネスの基盤となっていたが、長期ではさらにエネルギー、交通、物流、設備、医療などの社会基盤としても定着しているイメージである。機械や設備がデータをやり取りし、自動的に最適な動作を行うというM2M(Machine to Machine)の技術がスマートシティ構築に貢献する。
その効果として、社会の余剰や無駄の解消による最適化が実現する。例えばエネルギーの効率的な配分と利用、交通渋滞の解消、予防医療の普及による医療費削減などが可能となる。
【ビジネスモデル】
スマートシティにおいて、ITが果たす役割は当然大きい。ビッグデータ市場は日本国内に留まらない。新興国ではインフラ整備が活発に行われており、日本の先進的な技術を活用するニーズは大きいだろう。
但しスマートシティ全体としてはITの領域ではなく、制御や最適化を支える裏方の役割である。関連メーカーや公共機関、自治体などとの協業によりプロジェクトに参加することになる。

矢野経済研究所作成

「ビッグデータ×スマートシティ」で世界のリーダーシップを取ることに期待する

筆者の期待も込めてビッグデータ市場成長のシナリオを紹介した。地球規模でみれば、経済が発展し人口は増加しているものの、環境保護や資源の配分は大きな課題となっている。無駄や余剰を最適化し、持続可能な社会の実現を支援することこそ、未来のITが果たすべき役割ではないだろうか。
幸いなことに、ICT技術、省エネ技術、センサー技術などは日本が得意とする分野だ。率先して技術開発を推進し、製品やノウハウを海外に向けて販売するチャンスである。現在は家電、デジタルデバイス、ソフトウェアなど多くの分野で後塵を拝しているが、次世代のスマートシティ技術こそ、再度世界でリーダーシップを取るチャンスであろう。高い目標を掲げ、市場を創造していきたい。その未来にはもはや「ビッグデータ」という言葉は存在していないであろうけれど。

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