矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2026.10.08

Aras Connect Tokyo 2026レポート――ArasのAdaptive PLM戦略とPLMの今後

製造業を中心に幅広い企業へPLMを展開するアラスジャパン合同会社は、2026年6月16日、東京・赤坂インターシティコンファレンスでコミュニティイベント「Aras Connect Tokyo 2026」を開催した。Aras Connectは欧州やアジア太平洋地域でも実施されるグローバルツアーであり、国内では9月16日に大阪・梅田サウスホールでも開催された。東京会場は、基調講演やユーザ企業・パートナー企業のセッションを含む全15プログラム、14のソリューション展示、協賛20社という国内最大級のPLMイベントとなった。

ArasおよびAras Innovatorの概要

製品ライフサイクルマネジメント(PLM)ソリューションを提供する米Arasは2000年に米国アンドーバーで設立した。代表的な製品であるPLMパッケージ「Aras Innovator」は、世界契約企業数600社以上、世界ユーザ数160万人以上へ提供している。日本では、2012年にアラスジャパン合同会社が設立され、現在に至るまで成長を続けている。

Aras Innovatorは、企業内に蓄積されたエンジニアリングデータや業務データを整理・統合し、それらを活かした独自のプロセスと柔軟に連携することで、効率的で進化可能なPLM環境を構築する。変化に強く、ローコードによる高いカスタマイズ性を備える点が特長である。

「Adaptive Intelligence」を掲げたAras Connect Tokyo 2026

今年のAras Connect Tokyo 2026のテーマは「Adaptive Intelligence 進化するインテリジェンスがイノベーションを加速する」であった。これまでのような「PLMは必要か」という論点ではなく、「新しいインテリジェンスとの融合」「デジタルスレッドの重要性の再認識」「製品開発や製造プロセスの改善にどう結びつけるか」といった、より実務的なテーマである。
基調講演には、アラスジャパン社長兼Aras Corporation日本リージョンオペレーション担当副社長の久次昌彦氏と、2025年9月にAras CEOへ就任したレオン・ローリセン氏が登壇した。両氏は経済産業省が2018年に提起した「2025年の崖」に触れ、レガシーシステムの刷新やデータのデジタル化だけでは、DXとして十分ではないと指摘した。その先にある「真のDX」とは、単なる業務効率化やシステム更新ではなく、ビジネスや判断のあり方そのものを見直すことだと強調した。

講演のアジェンダには、AIとPLMによる自動車製造の変革、Adaptive PLMへのロードマップ、デジタルスレッド拡張、MBOM/BOP一貫生成、AI活用基盤、AIを活用したE2Eテストなどが並んだ。ユーザ企業からは日産化学とパナソニック デジタルが登壇し、技術情報の一元管理や品目マスタ・BOMの共通基盤化といった実装の過程が、成功例だけでなく現場の試行錯誤を含めて共有された。

PLMを外に開く「Aras InnovatorEdge」

PLMは、データを管理する基盤としての役割にとどまらず、PLMをERPやCRMといった他のシステムやAIと組み合わせることで、どのように現場改革を進めていくかという、より上位の位置づけを担うようになっている。
他システムと連携させたいというユーザニーズ自体は、データドリブンなモノづくりやDXを志向する流れの中で数年来続いてきた。従来、連携の理由は業務効率や情報の一元管理であったが、2025年頃を境にその動機が変わりつつある。開発段階でコストや納期を加味した設計を行うという業務上の必要性に加え、AIを機能させるための前提として他システムとの連携が必要とされているためである。

アラスジャパンは、この連携をPLM側の基盤を外部に開くアプローチで実現する。「Aras InnovatorEdge」は、PLMの機能とデジタルスレッドデータを外部に公開する連携基盤であり、ローコードでインターフェースを構築する「Edge API」、そのAPIを用いて軽量Webアプリを構築する「Edge Builder」、PLMおよび企業内データに基づくAIエージェントを設計・実行・統制する「Edge AI」の3階層から成る。Edge AIは2026年第3四半期の提供が予定されている(2026年6月現在)。同社は、データを既存の基幹システムから移行させず、そのまま参照する設計を採る。全データを1つの基盤に集約するのではなく、それぞれのシステムに置いたまま扱うという考え方である。

デジタルスレッドと見えないリスク

Aras Innovatorの中核にあるのが、製品データと組織をつなぎ業務プロセスを確立する「デジタルスレッド」という概念である。同じ製品でも製造時期によって部品や図面のバージョンは異なり、データをそのまま管理しているだけでは前後の関係性がわからない。デジタルスレッドを用いれば、製品とそのデジタルアセットを、コンセプトの段階から設計、製造、品質保証、サービスまで一気通貫で追跡できる。

今年のイベントで繰り返し語られていたのは、デジタルスレッドが単にデータ同士をつなぐ仕組みではない、という点である。この概念自体は以前から提唱されてきたが、AIを機能させる前提として、そのつながりの質が改めて問われる局面に入っている。基調講演では「見えないものこそがリスクである」という問題意識が示された。現場には設計、BOM、品質、調達、製造、保守と多くの情報が存在するが、情報があることとリスクが見えていることはまったく別である。人が気づいていない依存関係、暗黙知のまま埋もれている判断、あとから効いてくる設計変更の影響。そうした「見えていないリスク」をAIで可視化していくことが、これからのDXの核心だと語られた。

これまでのデジタルスレッドが情報の「つながり」を確保する仕組みであったのに対し、これからの段階では、設計変更がコスト、納期、品質、サプライチェーンにどう波及するかという「依存関係」まで読み解く視点が求められる。PLMの役割が情報の「保管」から、判断を支える仕組みへと移りつつあることを意味しており、Arasが示した「Dependency Graphs(依存関係グラフ)」の発想はその具体化にあたる。

Adaptive PLMとDependency Graphs

Arasが掲げる次の方向性が「Adaptive PLM」である。同社はこれを、企業のデータやプロセス、ビジネスに寄り添って進化するPLMと位置づける。設計変更時にユーザが知りたいのは部品への影響だけでなく日程やコストへの影響であり、これらはPLMの外に存在する。こうしたニーズに応えるため、Adaptive PLMは、既存の基幹システム(SoR)のデータを用いて構築すること、変化に対して学習・適応すること、最新のデータ間の関連性から情報を取得すること、意思決定とWhat-If分析にAIを活用することの4点を備える。

その中核技術が「Dependency Graphs」である。設計変更時、担当者が可視化された範囲だけを検証していては、他システム・他部門への影響を見落としかねない。同社はこの「可視性の制約によるコスト」を、製造業における最大級の隠れたコストの1つと位置づける。Dependency Graphsでは、変更が発生すると影響が図面やアセンブリを含むグラフとして提示され、AIが意味的に近い情報を収集して新たな関連性を構築し、コストやスケジュール、利益率への影響を事前に予測する。運用は3段階で、既存データの依存関係をマッピングして検証し、変更要求を作成・承認・実行したうえで、その影響とリスクを分析する。システムが自律的に影響度を検知し、エンジニアの調査時間を削減する狙いである。

PLMの今後の展開

同社は、こうした技術を織り込んだ製品進化の道筋を3つのフェーズで描く。第1フェーズは「PLMとネイティブAIの融合」で、AIを活用したエンジニアリングの基盤づくりにあたり、同社は現在ここに立つとする。第2フェーズが「Adaptive PLM」、第3フェーズが「Trusted Autonomy(信頼できる自律化)」で、データの学習と次世代エージェントの設計を進め、人がAIに判断の一部を委ねられる状態を目指す。

重要なのは、AIはあくまで意思決定を補助する存在で、判断材料を収集するにとどめ、選択するのは人であるという設計思想である。探索の時間を削減し、人が「考える時間」を確保してWhat-If的な発想を広げ、より品質の高いモノづくりにつなげるという整理は、AI実装が一巡しつつあるPLM市場で、ユーザ企業が投資判断を行ううえでの分かりやすい軸となると考えられる。

PLM各社が自然言語による技術文書検索やAIアシスタントを実装する中で、差が生じているのは参照できるデータの範囲である。設計変更に伴うコストや納期の情報はERPやMES、SCMにあり、PLM単体では答えが出ない。データを複製せず分散したまま関連付けるアラスのアプローチが実務で機能するかは、確定した結果だけでなく判断の経緯まで蓄積する「AI-Ready化」をユーザ企業がどこまで進められるかにかかっている。日本の製造業がその一歩を踏み出せるか、ベンダーがどこまで伴走できるかが、今後のPLM活用の進み方を左右するだろう。

矢野経済研究所では、2026年10月7日に市場調査レポート「2026 PLM/CAD/EDA市場の実態と展望」を発刊した。レポートの中でも、PLMと外部システムとの連携、AI実装とその前提となるデータ整備について取り上げている。同レポートでは、今後PLMの役割が、製品データを単独で管理する基盤から、他システムと連携したデータを業務に生かす基盤へと広がっていくとみている。

(鈴木蒼)

関連リンク

■レポートサマリー
●PLM市場に関する調査を実施(2025年)
●CAD/EDA市場に関する調査を実施(2025年)

■アナリストオピニオン
●製造業におけるデータ利活用を支えるPLM Aras Innovator

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●[ソフトウェア]カテゴリ コンテンツ一覧

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鈴木 蒼(スズキ アオイ) 研究員
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