矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2024.07.01

製造業におけるデータ利活用を支えるPLM Aras Innovator

製造業を中心に多くの企業へPLMを提供しているアラスは、6/13・14に日本におけるイベント「ACE 2024 Japan」を開催した。イベントでは、米アラス社のCEOロッキー・マーチンが来日し登壇したほか、アラスジャパン合同会社の久次社長の講演やユーザ企業・パートナー企業のセッション・展示が行われた。参加登録は1,200名を超え、PLM単一でのイベントとして世界的にも類を見ない規模であったことは、日本におけるPLMの注目度の高さを表している。今回は、ロッキーCEO及び久次社長へのインタビュー内容を交えつつ、PLM市場やAras Innovatorの概要、さらに製造業の展望を紹介する。

【写真左:米 Aras Corporation CEO ロッキー・マーチン、写真右:アラスジャパン合同会社 社長 久次昌彦】

写真左:米 Aras Corporation CEO ロッキー・マーチン
写真右:アラスジャパン合同会社 社長 久次昌彦

アラスおよびAras Innovatorの概要

アラスは2000年にアメリカ ボストンで設立し、世界契約企業数600社以上、世界ユーザ数160万人以上のPLMパッケージ「Aras Innovator」を提供している。日本では、2012年にアラスジャパン合同会社が設立され、現在に至るまで成長を続けている。

製品に関連する情報を一元管理し活用するソリューションであるPLMにおいて、Aras Innovatorの大きな強みのひとつは、製品データと組織をつなげ、業務プロセスを確立する「デジタルスレッド」という概念を取り入れていることである。例えば、同じ製品においても、製造時期等によって部品や図面のバーションが異なり、データをそのまま管理しているだけでは前後の関係性がわからず製品情報を十分に把握できない場合がある。このようなシーンでもAras Innovatorを活用すれば、製品とそのデジタルアセットを、製品コンセプトの段階から設計、製造、品証、サービスまで完全に追跡できる。これにより、製品の製造過程や業務プロセスの効率化、より良い製品の実現につながる。

また、アラスでは、ユーザ・パートナーとのコミュニティ活動が盛んであることも特記したいポイントである。アラスメンバとユーザが意見交換を行うことで、ユーザの要望がAras Innovatorの新機能として反映されることも多い。今回のイベントにおいても、アップデートを発表した最高技術責任者ロブ・マカベニーが「皆さんの声を聴かせてください」と話しており、コミュニティ活動への積極姿勢が印象的であった。加えて、ユーザ企業への実装を担うパートナーとのコミュニケーションや、ユーザ同士で成功体験等ナレッジの共有を行っていることも、Aras Innovatorのさらなる導入・活用へつながっている。

PLM市場の動向とトレンド

近年、デジタル化を進める一環としてPLMを導入する企業が増加している。デジタル化の段階では、データを一元管理することのみにとどまっていることも多い。しかし今後は、データを活用することに重きが置かれるだろう。その背景のひとつにはイノベーションの起こるスピードが速くなっていることが挙げられる。新技術を取り込んだ高付加価値の製品を提供し続けるためには、PLMを用いたデータ利活用により、ケイパビリティの維持・強化を目指していく必要があると考える。このフェーズにおいても、製品ライフサイクルを一気通貫で結ぶデジタルスレッドという考え方が重要な意義を持つだろう。

このような動向に関連した昨今のPLMに関するトレンドとして、「SaaS」「サプライチェーンへの広がり」「セキュリティ対策」が挙げられる。
ロッキーCEOは、Aras InnovatorをSaaSとして実装するニーズが高いと話す。理由はいくつかあるが、SaaSで導入すると、サーバやアプリケーションのメンテナンスはアラスが行うため、ユーザ企業がより本業に注力できる環境を整えられることが挙げられる。
また、最近は、PLMで管理されたデータについて、社外も含めたサプライチェーン全体へと、利活用を広げる動きが出てきている。社内外でのコラボレーションはさらなる業務効率化や付加価値を生むことにつながるだろう。さらに、産業全体でみれば、これまでデータ化が困難であったBtoBデータをPLMへ取り込むことで、より高度なデータ利活用を行うことができる。

上記2つのトレンドには、セキュリティが大きく関わる。製造プロセスのデータは機密性が高い。そのため、SaaSを提供するためのインフラや、社外とのセキュアなデータ共有環境には、ユーザが安心できるセキュリティ対策が重要である。アラスでは、国際的なベストプラクティスをAras Innovatorへ取り入れるとともに、セキュリティに関するISO規格の最高レベルにも準拠している。

日本の製造業におけるPLM活用の動き

このようなPLM市場動向の中で、日本の製造業では「Aras Innovatorを自社へ取り入れることに成功している」と両氏とも話している。
この発言の背景には、Aras Innovatorの強みのひとつである「適用性」が関連している。昨今では、パッケージの仕様に自社業務を合わせていく考え方である「Fit to Standard」が認知されているが、Aras Innovatorは、自社業務に合わせてパッケージをカスタマイズするアプローチを取っている。製造業においては、自社の設計・製造における強みが製品の差異化へつながるため、業務プロセスを標準化することは難しいとされる。つまり、ベストプラクティスの標準パッケージを導入した場合でも、何かしらのカスタマイズが行われることは多い。一方で、はじめから「自社業務にシステムを合わせていく」という考え方になじみのある日本企業は、Aras Innovatorのアプローチを受け入れやすく、スムーズな導入を行える。

PLMはデジタライゼーション、すなわちデータ利活用を行うシステムであるため、その導入が進んでいれば、データを収集し活用できる環境が整っているといえる。さらには、次のステップであるデジタルトランスフォーメーション、つまり組織全体や社内外含めた付加価値の創出を本格化するスタートラインに立てているといえるだろう。

PLMとAI

さて、AIが産業全体から注目されている中、PLMにおいても例外ではない。

AIはそのモデルを構築するために、膨大な学習データを必要とする。そのため、AIモデルの構築を希望しても、データが各プロセスで電子化・収集されていない状況では、学習データを用意するために多くのリソースを投入しなければならない。対して、データがすでに収集できていれば、AI導入のステップであるデータ学習へとすぐに取り組みを進めることができる。そして、PLMを用いることはデータを収集していることにほかならず、日本企業において、PLMの導入と活用が進んでいるならば、AI活用への準備ができていると考える。

従来、可視化されていなかったデータがPLMにより収集され、そのデータを学習したAIモデルが完成することにより、これまで以上のインパクトを持った業務効率化や付加価値の創出が実現できることになるだろう。アラスもまた成長ドライバーとしてAIに注目し、成功事例を確立し、そのスキームを広げていこうとしている。

製造業とPLMの今後の展望

それでは、PLMの導入とクラウドやAIの技術の活用により、製造業にはどのような未来が描けるのだろうか。

現状として、すでに「インダストリ4.0は実現しつつある」とロッキーCEOは話す。ものづくりのデータはデジタル化され、IoTで機械と人はつながり、それらを管理する製造空間ができ始めている。

そして今後は、1つの工場、1つの企業、1つの業界にとどまらないデータ利活用と価値創出へ進んでいくはずである。SaaSを活用すればグローバル拠点でも同じアプリケーションを用いて業務に取り組め、膨大なデータを取り扱うことになってもAIのサポートを受けられる。コアな業務とビジネスコラボレーションに注力できることで、ケイパビリティの向上と関係の広がりが進み、さらに魅力的なイノベーションが生まれることにもつながる。

時代の変化が加速している中、ものづくりのスピードはこれまで以上に求められる。価値ある製品を市場に投入し続けるためのひとつの手段として、DXを本格化するPLMソリューションはこれからも注目されるだろう。そして、PLM市場の中心を担うアラスは、デジタルスレッドによりデータの関係性をも紐づけられるAras Innovatorの提供により、今後も成長を続けるはずである。

佐藤祥瑚

関連リンク

■レポートサマリー
PLM市場に関する調査を実施(2023年)

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佐藤 祥瑚(サトウ ショウコ) 研究員
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