矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2024.06.25

3Dプリンタによるものづくり 成功のポイントは装置だけで考えないこと

矢野経済研究所では、2024年4月に『2024年版 3Dプリンタ市場の現状と展望』を発刊した。前回版(21年)から3年が空いている。この間、国内における利用/導入が加速度的に進んだ、という印象こそないが、造られるものはより最終製品・量産に向けたものになっている。また、加速度的に利用/導入が増えていない要因として、「何に利用できるか」「何を造れるか」の検討が以前と比較し、より現実的(実践的/実務的)になっていることが挙げられる。3Dプリンタに対する認知が一定程度進み、最終製品の造形等を意識して利用/導入するケースが増加しているため、検討期間が長期化しているのである。この温度感は3Dプリンタ関連事業者も感じているようで、導入/利用について検討中の企業からの相談内容も近年は以前より具体的だと言う。また、世界では3Dプリンタに関し、トライ&エラーが進んでいる。この状況をみて、後れをとってはならないと考える国内企業も多い。

導入/利用を検討するにあたり注意すべき点があるとすれば、装置だけで考えないことだろう。もちろん、装置(3Dプリンタ)は重要だが、モノを造る上では、ソフトウェアや材料のことも考える必要がある。また、3Dプリンタは“プリンタ”と呼ばれているとはいっても、2Dプリンタのように誰もが導入後すぐ、直感的に使って造りたいものを造形できるわけではない。装置・ソフトウェア・材料・造形サービスなど関連事業者のノウハウは不可欠である。ものづくりの情報はできるだけ開示したくないというところもあろうが、造りたいものについて関連事業者に対し、できる限り丁寧に説明することがエラーの少ない3Dプリンタによるものづくりにつながる。周囲を巻き込んだものづくりが広がることを期待したい。

以下では、3Dプリンタによるものづくりを支えるある企業(ジェービーエムエンジニアリング)の取り組みについてみる。ジェービーエムエンジニアリングは3Dプリンタによるものづくりについて、さまざまな角度のノウハウを学び、ユーザおよび市場に貢献している。

変革に挑戦するジェービーエムエンジニアリング

ジェービーエムエンジニアリング(本社:大阪府)は、精密部品製作、金型製作、試作モデル製作、量産品製作、木工品製作など、製造現場に必要な、あらゆるソフトウェアの輸入、開発、販売、サポートを日本全国で行っている。同社が販売するCNCソフトウェア社のCAD/CAMソフトウェア「Mastercam」は国内でおよそ18,000シート、You-CAM6,500シートと、国内で最も多い納入実績を持ち、世界有数のリセラーとして複数回の表彰経験がある。

同社は企業理念のひとつに「私たちは、常に革新的な「もの造り開発支援」を提供し、社会の発展に貢献します。」を掲げる。その革新のひとつがAM(Additive Manufacturing)事業(3Dプリンティング事業)への参入である。同社は、2018年にレーザ積層アプリケーション「ADDITIVE MASTER LUNA」をJIMTOF2018にてリリースし、2020年にはWebサイト上に3Dプリンティングセンターを開設するなど、AM事業(金属)を注力領域のひとつに位置付ける。

AM事業は大別するだけでもソフトウェア、装置、後加工、材料と、関係する領域が多岐にわたる。同社はこれらのうち、材料以外、すべての工程でビジネスを行う。AMに点ではなく、線で関わり、ノウハウ等を蓄積していることは、同社の大きな強みのひとつになっていると推測する。

近年、AM市場では最終製品の造形が緩やかに拡大基調にあることにみるように、「造る」だけでなく造ったものが「使える」ことが求められている。ただ、AM市場では、課題のひとつに造形物の品質(強度などを含む)が挙げられることが多い。そのため、設計や解析を強みとする同社がものづくりに必要なものをワンストップで提供することは、AM市場の課題克服にもつながると言える。以下では、同社の具体的な取り組みについてみる。

まず、ソフトウェアである。同社が提供する「ADDITIVE MASTER LUNA」はAM専用CAMで、切削処理だけでは生み出せない形状を自由に創り出すことができる。ADDITIVE MASTER LUNAの主な特長は、以下の4点である。ソフトウェアの利用者は、本製品を活用することで、自身の顧客の要望にスピーディーに応え、受注の拡大・新規顧客の獲得につなげることができる。また、コストを抑制し、その分を人件費、設備費に回すことも可能となっている。

◆ADDITIVE MASTER LUNAの主な特長

①補修や造形、異種材結合などに対応可能
CAIとの連携で欠損部分を補修、既存物に対し一部形状を足す付加造形や、一からの形状創生はもちろん、補強のための表面コーティング、さらには溶融凝固の特性を活かした異種材の接合にも対応。従来不可能だった形状を実体化し、デライト設計やトポロジー最適化に寄与する。
②独自の5軸処理エンジンを搭載し、積層処理に特化したパラメータで最適なパスを生成
積層プロセスに必須の多様なパラメータ設定が可能。積層専用エンジンによって各シーンに最適な積層パスを生成できる。
③メタルデポジション、ワイヤーアークなど、豊富なハードウェア方式に対応
LMD、SLM、ワイヤーアークを始め各種方式にも対応可能。各種制御装置に対応する柔軟なポストプロセッサを有し、目指す加工に最適なハードウェアとのコンビネーションで最高のパフォーマンスを提供する。
④Mastercamとの統合で積層から精密仕上げまでカバー
二次加工が必須のAMにシームレスな連携で、高精度化、リードタイム短縮を実現する。積層後のワークを機上計測し、理論値と実際値の差分を出す事で無駄の無い切削/旋削パスを生成、工具の負荷を軽減するだけでなく、サイクルタイムの劇的な短縮もできる。

本ソフトウェアはパッケージだが、サブスクリプション型もある。またソフトウェアのバージョンアップはメジャーアップデートが年に1回程度、マイナーアップデートは不定期となっている。

次に、装置についてみる。同社は、金属AM装置の活用を考えるユーザに広く応えるべく、様々な金属AM装置を取り扱う。今後、製品や市場の動向によって、扱う製品が増えていく可能性は大きい。

そうした同社が扱う装置のひとつが、Meltio社の「Meltio M600」である。本装置は、DED方式のAM装置で、溶接ビードを正確に積み重ねることで積層していく。全世界で300台以上の稼働実績があり、造形スピードも速い。また、オープンマテリアルで自由に材料を選択できるため、材料費も安価となっている。さらに、複数のレーザを装備し、複数のワイヤー材を組み合わせて処理できることから、異種金属造形による高機能化も容易である。加えて、装置の外形寸法もW1050×D1150×H1950mmと、コンパクトな点も人気の理由のひとつと考えられる。

同社は他にも、FFF方式のCUBICONの装置や、ペレット方式のWASPの装置などを取り扱う。同社は、複数の装置の中から、ユーザが造りたいものにあった装置を提案していると見られるが、装置を導入し、自社のみで想定通りのものを造れるユーザは極めて僅かであろう。そのため同社はユーザに対し、装置を販売するだけではなく、蓄積したノウハウを活かし、メーカ、ユーザらとともにパラメータの調整を行うなどのサポートをしている。同社が提供するサポートの品質には定評があり、その声が新たな顧客獲得にもつながっていると推測する。

こうしたサポート提供の背景には、多様な装置および周辺装置に関する知見を有する人材の育成がある。同社では社内での勉強会はもちろん、メーカも交えた勉強会なども行っている。一方で、自社のみですべてのユーザのすべての要望に応えることは難しく、エコシステムを広げ、顧客を支援する。

同社は、今後も顧客の声を聞き、ユーザおよびAM市場の発展に貢献していくだろう。

小山博子

関連リンク

■レポートサマリー
産業用3Dプリンタ世界市場に関する調査を実施(2024年)

■アナリストオピニオン
世界レベルの活用へ HPの3Dプリンティング
一般消費者層への3Dプリンタ普及

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小山 博子(コヤマ ヒロコ) 主任研究員
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