2021年5月、「新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律」が成立し、同月26日に公布された。この改正により、銀行および信用金庫における業務範囲規制や出資規制等が緩和されることとなった。
銀行が営む事が可能な業務については、銀行法第十条および銀行法施行規則大十三条等よって定められている。その内容は、「預金又は定期積金等の受入れ」「資金の貸付け又は手形の割引」「為替取引」等の基本的な銀行業務に加えて、付随業務が記載されている。
その付随業務に今回の改正によって「地域活性化等業務」が追加されることとなった。「地域活性化等業務」は下記の5つとなる
これらはあくまで付随業務であり、通常の銀行業務で得た経営資源を効果的に活用するための法改正だと考えられる。「地域活性化等業務」を行うために新たに経営資源を取得する際には「当該銀行の業務の健全かつ適正な遂行に支障を及ぼさないこと」が条件とされており、銀行経営に悪影響を及ぼすほどの業務は想定していないとも考えられる。
金融機関における出資規制は、議決権取得等制限といった規制があり、他の会社の議決権を、上限を超えて取得・保有することが制限されている。上限は形態によって異なり、銀行は5%、銀行持ち株は15%、信用金庫は10%と定められている。例外的に、投資専門会社を通じることで、ベンチャービジネス会社、事業再生会社、事業承継会社、地域活性化事業会社に対しては、上限を超えて出資することが可能であるが、今回の改正によりこれが緩和されることとなった。特に「地域活性化事業会社」においては、従来50%上限だったものが非上場であれば最大100%まで議決権の取得が可能となり、地元産品の販売などを行い、地域経済に寄与する企業への更なる支援が可能となった。
また、投資専門会社の取扱い可能な業務は「出融資とそれに付帯する業務」のみであったが、「投資対象会社に対するコンサルティング業務」が追加されことで、従来より密着した形で事業運営に関わることが可能となる。一方で、コンサルティング業務においては「事業再生の局面などにおいて優越的地位の濫用や利益相反取引のおそれが高まる懸念に留意し、投資専門会社において顧客利益を保護するための体制を適切に整備することが求められる。」との記載もあり、出資先とは適性な関係性を保つことが求められる。
銀行の広告業への取組みについては、既に住信ネット銀行が、ユーザーに対して広告での個人情報の利用同意に基づくIDベースでの広告配信を行い、広告主から得られた事業収益の一部を生活者に「データ配当金」として還元する「広告エコシステム事業」の提供を発表するなど、実際に取り組む銀行が出てきている。超低金利下において、銀行は収益悪化に苦しんでいる。近年でも地方銀行は合併が多く行われており、生き残りのための方針を模索している状況と言える。そのような中で今回の銀行法改正において、従来の銀行業務と異なった取組みを比較的自由に行える環境となった。「当該銀行の業務の健全かつ適正な遂行に支障を及ぼさないこと」が条件とされているため、本業の経営悪化を補うレベルでの取組みには疑問が残るが、他行との差別化という点において、銀行に新たな選択肢が生まれたと考えられる。
(石神明広)
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