矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2022.03.01

コミュニティマーケティングについて考える

共創型のマーケティング

顧客との接点をどのように持ち、また深めるか、について考えている企業等は少なくない。マーケティングツールもメール配信ツールやチャットボット、MA(マーケティングオートメーション)など様々で、製品や販売対象などから、いくつかのツールを組み合わせて顧客接点を作るケースが多い。組み合わせた結果、行われる手法のひとつが、個々の属性にあったマーケティングを行うOne to Oneマーケティングである。この点について、最近では、AIを活用したパーソナライズ化を行う事例も増加基調にある。ただ、今回本稿で取り上げるのはコミュニティマーケティングである。One to Oneマーケティングが企業と消費者のコミュニケーションとするならば、コミュニティマーケティングは、企業もまた消費者のひとりとして消費者間のコミュニケーションに入っていく、いわば共創型のマーケティング手法のひとつと言えるだろう。企業が売上の増加を狙うときに考えることとして、新規顧客の獲得と既存顧客からの売上拡大があるだろうが、筆者は、このコミュニティマーケティングについて、既存顧客のクロスセルやアップセルにつながりやすい手法のひとつと考える。ひとつ、例を挙げてみたい。

ツール・デュ・ショコラ

個人的に、毎年楽しみにしているチョコレートのイベントがある。今年20回目を迎えたそのイベント、「サロン・デュ・ショコラ」(三越伊勢丹)は、2022年、新しい取り組みをした。それが「ツール・デュ・ショコラ」である。「ツール・デュ・ショコラ」とは、チョコレート好きな人と繋がり、チョコレートの奥深さをもっと知ることで、チョコレートの世界をより魅力的にするためのコミュニティだ。このコミュニティには、チョコレートについての情報交換や悩みを解決できる場がある他、コミュニティだけに届けられる限定情報、などがある。

サロン・デュ・ショコラには国内、海外の多数のブランドが出展し、人気店のチョコレートであれば階段下まで並ぶことは当たり前、会期序盤で完売するケースも多々ある。既に何度か参加したことがある消費者であれば、毎年、限られた予算でどのチョコレートを買うか、に頭を悩ませているケースが多いと推測する。一回食べて美味しかったお店のものを買う、新しいお店に挑戦する、有名人がオススメしていたものを買う、など様々であろう。その時、自分の舌以外に参考にしたいのが口コミである。ひと箱数千円のチョコレート、できれば失敗はしたくない。だとすれば、気になっているチョコレートを過去に買ったことがある人の意見を参考にする、というのは自然の流れである。また、買って終わりではない。美味しいチョコレートと出会えれば、それを誰かに伝えたくなる。さらに、来年はどこのお店のものを買おうか調べる。一年先のイベントは、終わったときから始まっており、消費者間でWin-Winの関係が構築できている。

カカオの値段や輸送料が上昇を続け、チョコレートの値段は上がっている。既存顧客の単価上昇を狙うためには、これまでとは違う試みが必要であろう。口コミであればTwitterなどSNSでも良いのではないか。一理あるが、チョコレートが好きな人が集まるという、ある程度閉鎖的な空間だからこそ、同志、という一体感とコミュニティにまで参加するのであるから書いてある内容は宣伝ではないだろう、という安心感がある。

筆者も足を運ぶ前日にコメントを目にし、当日は予定にプラスαの購入。1,728円ほど予算をオーバーした。また、今年初出店で気になりはしたものの、高価すぎて手を出せなかったチョコレートについてのコメントを読み、来年も出店しているようなら買おうと思った。このチョコレート、ひと箱10,000円を超えている。クロスセル、アップセルの一例といえるのではないだろうか。

commmune

今回、三越伊勢丹ホールディングスが導入したこのコミュニティは、コミューン株式会社が提供するcommmuneで、「ツール・デュ・ショコラ」は、2021年12月のオープンからおよそ1カ月で1,500人の登録があったという。commmuneには、カスタマーサクセスに必要な機能がすべて備わっており、分析・コミュニケーション・最適なサポートがひとつのプラットフォームで実現できる、とコミューンはいう。精度が高い分析と個別最適なアクションが可能になる点は、企業に大きなメリットがあるはずだ。

2019年に弊社でも『法人向けファンコミュニティクラウド構築市場の実態と展望』というレポートを発刊しており、コミューン株式会社(当時はDayone株式会社)に取材をしている。commmuneは当時から柔軟な運用やサポート、十分な機能などが強みであった。2019年当時、法人向けファンコミュニティクラウド構築市場について2022年の市場規模を63億円と予測した。

三越伊勢丹は、このコミュニティについて、「誰もが文化の探索と深化ができる豊かな社会を創る」をビジョンに掲げる三越伊勢丹社内起業制度にて採択された新規事業「GUIDE by ISETAN MITSUKOSHI」の取り組みの一環で、主な目的は次の2点であるという。

  • 三越伊勢丹と繋がりのある様々な業界のプロフェッショナルの知識(ナレッジ)やハウツーをキュレーションし伝えることで、信頼できる情報を誰もが取得でき、文化の「探索」と「深化」ができること
  • 作り手が興味関心のある顧客に向けて情報発信できる環境を作ることで物づくりをしやすい世の中を作ること

さらには、これまであまり表に出てこなかったイベントやプロモーションの制作過程や、バイヤー自身にもフューチャーをし、「プロセスエコノミー」という側面や一緒にイベントや場づくりを盛り上げる「共創」という側面からも顧客に豊かな体験を届けることを目指しているという。

共創はDX(デジタルトランスフォーメーション)においても重要なキーのひとつである。コミュニティマーケティングも万能ではなく、製品やサービスにファンがいない場合(例えば新商品など)は使うことが難しい手法だが、少なくとも私にとっては今年のサロン・デュ・ショコラを豊かにし、また来年へとつなぐものになった。

顧客の生の声を聞けることで、既存顧客との関係構築や、新商品の開発などにも活用できるファンコミュニティマーケティング。市場も順調に成長しており、今後、デジタルマーケティング市場に大きなインパクトを与えていきそうである。

小山博子

関連リンク

■レポートサマリー
DMP(データマネジメントプラットフォーム)/MA(マーケティングオートメーション)市場に関する調査を実施(2021年)

■アナリストオピニオン
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小山 博子(コヤマ ヒロコ) 主任研究員
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