矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2019.10.10

MFP(複合機)の概念が変わる?新ソリューション/ITサービスの台頭

MFP(複合機)は、コピー機能やプリンタ機能、ファクシミリ機能、スキャナ機能などを併せ持つ事務機器である。20世紀末から広く普及し始め、ペーパーレス化と言われる現在でもオフィスになくてはならない存在となっている。

近年では、技術の成熟化により各製品に差がなくなってきたことで、ベンダ各社がMFPの付加価値を高めようと、ソリューションやITサービスを提供する取組みが出てきている。

ここでは、コニカミノルタと富士ゼロックス、リコーの3社の事例を紹介する。

コニカミノルタ

コニカミノルタが提供すWorkplace Hubは、シームレスにハードウェア、ソフトウェア、サービスが統合された拡張性のあるオールインワンITサービスである。2017年3月にドイツでその構想が発表され、2018年秋より欧米9か国(米国7都市・ドイツ・フランス・チェコ・英国・デンマーク・ポーランド・ハンガリー・カナダ)で順次提供が開始された。日本国内では、2019年4月より提供が始まっている。

コニカミノルタは、SMBの多くがITの効率的な活用や運用に課題を抱えており、専門人材の不足、情報セキュリティの不安、IT導入の効果検証ができていない点などを課題として挙げている。そこで、手軽に導入可能かつセキュリティを確保したIT環境をワンストップで提供することで、SMBが抱える課題を解決し、生産性及び創造性の向上を通じて事業の成長をサポートするとして、Workplace Hubの提供を開始した。

【図表:Workplace Hubの概念図】

図表:Workplace Hubの概念図

コニカミノルタ株式会社発表資料より矢野経済研究所作成

Workplace Hubの全体像は、上記の通りである。Workplace Hubのハードウェアは、国内ではタワー型サーバ「Workplace Hub Entry」(2019年4月販売開始)のみが販売されている。今後は、ラックマウント型サーバ「Workplace Hub Edge」、MFPとサーバの一体型「Workplace Hub AIO」の販売を予定している。

また、コニカミノルタ以外にも広くアプリケーションの幅を広げるべく、パートナー企業のソリューションを「Workplace Hub Platform Ready アプリケーション」として提供している。Workplace Hubの従量課金機能に対応しており、勤怠管理や設備管理、IT運用管理といったソリューションを揃えている。

ターゲットとするユーザは、企業規模は10~600名の中堅・中小企業、業種は製造業・小売・会計/法律事務所などである。ただ、同社では業種ソリューション展開としてヘルスケアや教育を計画するほか、大手企業の支店向けモデルを提供する計画も公表している。

世界市場では、2019年度に4,000顧客、2020年度に10,000顧客への提供を目標としている。そのために、リソースとしてシステムエンジニア1,700名の体制を構築した。

2019年3月期の決算説明会(2019年5月13日)では、2018年度の顧客数が100件未満、月平均単価が$1,270(約13万6,000円)と公表している。バージョンアップ等に時間がかかったことで設置が遅れ、顧客数が100件未満となったものの、月平均単価は計画時点では$1,230(約13万2,000円)程度としていたため、若干の上振れとなっている。

富士ゼロックス

富士ゼロックスは、2018年3月に新たな価値提供戦略として「Smart Work Innovation」を策定した。AIやIoT、IoH技術を活用することで、これまで同社が提供してきたソリューション/ITサービスの価値をさらに向上させるとしている。活用するAIは、オフィスに蓄積するドキュメント(文書)から「価値ある知」を抽出し、業務での利活用を実現する「Document AI」技術である。オフィス内の質の高いデータを使用するため、比較的少ないデータ量でも、高度な処理が可能だという。

同社は、繰り返し作業など業務の制約、専門性の偏在、情報流通環境のセキュリティ面での不安といった課題が企業に存在し、それらをSmart Work Innovationによって解決することで、更なる業務の整流化や生産性向上を実現できるとしている。

Smart Work Innovationとして提供されるサービスは、以下の5つである。

①高精度データエントリーサービス
AIを活用して手書き帳票データを認識し、コンピュータ処理に適した形式に変換するサービス。人の視覚情報処理の仕組みを利用してAIを構築し、学習済みモデルを活用することで実現する。
ターゲットは、金融や公共、サービス業といった申込書など手書き帳票を大量に扱う業種である。
 
②図面情報抽出サービス
レイアウト解析技術と文字認識技術により、図面中の様々な場所に記載されている文字情報から、指定の文字列を抽出するサービス。情報抽出や照合作業の支援をすることで、情報確認の精度と作業納期の改善に役立てる。
 
③専門知識体系化サービス
文書中の複数語句の関連性をリンキング技術によりオントロジーとして体系化することで、情報の関連性の発見を誰でも可能にするサービス。同社独自の自然言語処理技術を活用し、語句の関連性を抽出する。
各国・地域の法律に準拠する必要があるグローバル展開の製造業などで、法改正への対応策検討業務の改善が期待できる。
 
④クラウドセキュリティーサービス
オフィス、クラウド、モバイルを統合したセキュアなネットワーク環境を、閉域網として提供するサービス。同社のセキュア・ネットワーク・アウトソーシングサービス「beat」で得た知見を活用している。
 
⑤行動分析最適化サービス
IoTやIoH技術を活用し、人と人とのコミュニケーション(対話)の状況や、ワーカーの状態を可視化・分析するサービス。働き方やコミュニケーションの「見える化」を行うことで、働き方改革の具体的な施策立案や効果測定などを可能にする。

※知識を様々な概念間の関係として体系付けて表現し、コンピュータでも処理可能としたもの。

リコー

リコーは、2019年1月にRICOH Intelligent WorkCoreを発表し、同月より提供を開始した。同時期に発売したMFP「RICOH IM Cシリーズ」をデジタル化へのゲートウェイとし、クラウドプラットフォーム「RICOH Smart Integration」やパートナー企業のアプリケーションを組み合わせることで、オフィス業務の生産性向上に貢献するサービスである。

【図表:RICOH Intelligent WorkCoreの概念図】

図表:RICOH Intelligent WorkCoreの概念図

株式会社リコー発表資料より矢野経済研究所作成

RICOH Smart Integrationは、MFPと様々なクラウド型のパートナーシステムをつなぎ、紙からデジタルデータへ変換・加工するアプリケーションを提供する。他にも、業務を効率化するアプリケーションが複数あり、MFPの操作パネルからユーザ自身でインストールできる。クラウドストレージ連携サービスやWebアドレス帳との連携サービス、AIを搭載したOCRサービスに加え、今後はQR/バーコードを活用したドキュメントサービスなども提供予定となっている。

リコーは、業種・業務に精通したパートナーとの連携を強化するために、2019年6月より「EMPOWERING DIGITAL WORKPLACESパートナープログラム」を開始した。RICOH Intelligent WorkCoreとパートナーのアプリケーションが容易に連携できるよう、APIやSDK(Software Development Kit)を公開する。これにより、業種・業務にあわせた課題解決を実現するソリューションをスピーディに開発・提供することが可能になる。

2018年度以降、MFPベンダの動きが活発化しており、今後は上記のコニカミノルタ、富士ゼロックス、リコー以外にも追随する動きが広がると考える。従来のMFPと言えば、コピーしたりプリントアウトしたりFAXを送信したりといった「モノ」を活用することが主だったが、新ソリューション/ITサービスの台頭により、その様相は変化するだろう。

オフィスのセンターマシンとして大企業・中小企業問わず機能するMFPを生かし、また、現在のMIF(累積設置台数)を有効に活用できるため、各ソリューション/ITサービスの今後の成長が期待できる。ただ、オフィスの最適化やIT環境の構築などに関わるソリューション/ITサービスを提供する企業との競合は避けられない。MFPとソリューション/ITサービスの一体化なども含め、MFPベンダならではの取組みが差別化ポイントになるだろう。2019年度以降の各社の方向性、取組みに注目する必要がある。

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