製造業では人手不足が深刻化しており、ロボットやAIなどといったツールの利活用が期待されている。2017年末に経済産業省が行ったアンケート調査(以下、「2017調査」)の結果では、人材確保の状況について「大きな課題となっており、ビジネスに影響が出ている」の割合が32.1%と、前年と比較し9.3ポイント拡大している。
【図表:人材確保の状況】
出所:経済産業省「ものづくり白書2018」より
この点について、大企業を中心に今後の人手確保の取り組みとして「IT、IoTなどの活用による生産工程の合理化」を志向していることが伺える結果が同じ調査から示された。
【図表:人材確保において最も重視している取組(規模別)】
出所:経済産業省「ものづくり白書2018」より矢野経済研究所作成
注:「現在」「今後」のうち「今後のみ」
注:n=83(大企業)、1,321(中小企業)
しかし、これらを実現していくためには、デジタル技術を活用できる人材の確保が必要となるが、現時点ではそのような人材の確保は困難であるし、仮に確保できたとしても社内における位置づけが曖昧で、デジタル人材の力を十分に活かしきれていない。そこで、組織としてデジタル人材の育成・獲得、またその在り方について考えていく必要がある。
2017調査では、デジタル人材が必要と考える企業の割合が全体のおよそ6割を占めた。しかしその充足状況は「質・量とも充足できていない」が全体の4分の3となっており、製造業者にとって、大きな課題のひとつとなっていることが見てとれる。
このデジタル人材については、多くの企業が質・量ともに充足できていない中、その確保・育成に向けた取り組みについては、「中途採用による確保」と回答している企業がおよそ4割と最も大きな値になっており、「外部のセミナーや教育機関への社員派遣・自主的な研鑽への補助」、「社内人材の再教育等による確保」が続く。ここからは、今のところは即戦力となる中途採用に注力しているが、中長期的には社内で人材を育成していこうという姿勢がうかがえる。
もっとも、デジタル人材の確保・育成に向けた課題のトップ3は、「社員が社内外の研修を受講する時間的余裕がない」ことや、「採用が長期雇用に繋がりにくい」こと、また「社内に、指導できる知見を持った人材がいないこと」がトップ3であった。製造業の将来について考えるのであれば、特に社内で人材を育成することに関する課題をどのように解決していくかがポイントのひとつになるが、例えば、大学などとの戦略的な連携を通じて課題を解決する方法が考えられる。この点、ダイキン工業は大阪大学との情報科学分野を中心とした包括的連携に基づき、AI活用を推進する社内講座、「ダイキン情報技術大学」を開講している。同社は、2020年までに約1,000人の社員を大学情報学部修士レベルに再教育することを目標に、毎年社員の中から40~50人を選抜し、週1回のペースで約半年間、業務と直結したプロジェクト演習も交えながらAIの基礎知識の講義を受けさせるとともに、教育した人材の活用を図る観点から、その上長となる中間管理職の再教育も行うなど、デジタル人材育成に関し、積極的に取り組んでいる。
ただ、求めるスキルを学べる連携先がない、もしくは少ないことも想定できる。筆者は2018年11月に「2018年版3Dプリンタ市場の現状と展望」を発刊した。ここで浮き彫りになったことのひとつは、日本は欧米と比較し、3Dプリンタを活用してものづくりを行うことを学べる環境が圧倒的に少ないということであった。日本でも、次世代のものづくりを担う人材を育成するため、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化などが進んでいるが、製品企画から開発、加工、生産など幅広い分野を学ぶことができる職業能力開発総合大学校の認知度が未だ低いことをはじめ、課題は多い。デジタル人材活用のメリットの周知を図ることなどで、デジタルツールを活用したものづくりの場を広げていくことが必要である。
(小山博子)
■レポートサマリー
●HCM(人材管理)市場動向に関する調査を実施(2021年)
●データ分析関連人材規模に関する調査を実施(2020年)
■アナリストオピニオン
●ERP市場と「2025年」を巡る問題
●あらゆる産業において求められる「量子人材」のスキルセットとは何か
●過熱するタレントマネジメント市場 2013年は前年比15.5%増
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