矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2013.08.02

過熱するタレントマネジメント市場 2013年は前年比15.5%増

企業のグローバル化や雇用形態の多様化などに伴い、2011年秋頃からタレントマネジメントシステムへの注目が集まっている。外資系ベンダが買収を繰り返しながら勢力を拡大し日本市場に参入を始めたことから当該市場は一気に過熱した。

タレントマネジメントについては、未だ業界で定まった定義がない。そこで弊社では、システムが社員の採用、育成、評価などを経営者視点で支援し、タレント(個人の能力)を開花させ、企業全体の競争力向上に繋げるものをレントマネジメントとし、『HRM市場の実態と展望2013~未来を創るタレントマネジメント市場~』という資料を2013年6月に発刊した。サブタイトルには、個々の企業の未来を創るという意味と、HRM市場の未来を創るという2つの意味を込めた。

求められる効果の実感

まず、後者のHRM市場の未来を創るという点について見るとタレントマネジメントシステムは、HRM市場の未来を創るという点では現時点において力不足であると考える。何故なら、現時点におけるタレントマネジメントシステムに対するニーズは、タレントマネジメントについて知りたいという興味のニーズが多くを占めているからである。興味で導入した企業は課題を明確にして導入した企業と比較した場合、システムを導入したけれども何もできなかったという考えに至るケースが多い。これは、システム活用方法がわからず人材情報の一元化をするに留まるためである。そのため、結果として複数モジュールの導入に至らない、情報のアップデートを止めてしまうなどといったことを生んでいる。タレントマネジメントシステム市場関係者もシステムの継続的な活用については模索しているのではないだろうか。

【図表:タレントマネジメントパッケージライセンス市場規模推移と予測】
【図表:タレントマネジメントパッケージライセンス市場規模推移と予測】

矢野経済研究所推計
注:CRGRは2011年からの年平均成長率
注:エンドユーザ渡し価格ベース
注:予は予測値
注:タレントマネジメントライセンス市場規模は、ERPパッケージやHRMパッケージの1つのモジュールとしてタレントマネジメント機能を持つもの、及びタレントマネジメント機能に特化したパッケージの双方を対象として算出

他方、ユーザ企業がベンダに求めていることとして、国内におけるタレントマネジメントシステム導入の成功事例公開が挙げられる。システムの継続的な活用や新規顧客開拓のためには成功事例の公開が有用であるとはベンダも考えている。しかし、タレントマネジメントは企業の経営戦略に関わる部分であるためシステム導入企業が事例の公開を躊躇するケースも多い。そのため、成功事例を公開したくともできないといった事情がある。また、タレントマネジメントが盛り上がりを見せたのは2011年秋頃からであるため、ユーザ企業にとっても導入効果を実感するには十分な年月が経過したとは言い難い状況にある。導入の成功事例の公開はベンダにとっての課題といえる。

グローバル競争力を養うタレントマネジメントシステム

次に、個々の企業の未来を創るという点について見る。この点についてはタレントマネジメントシステムへの期待は大きい。何故なら、タレントマネジメントは従来のHRM(HCM)における人件費管理などが中心の人材情報データベースではなく、人を育てることに注力したシステムだからである。ただ、タレントマネジメントにおける人材育成については大きく2つの視点がある。1つは限られた人材のみを対象とした人材育成、もう1つは全社員を対象にした人材育成である。当該視点の違いは、タレントマネジメントの発想に関係すると考える。
そもそもタレントマネジメントは欧米の発想に由来する。欧米における人事制度は、上位レイヤーのみを対象とし、評価も客観的であるのに対し、日本の人事制度は評価が主観的な傾向にある他、何をもって成果とするかの要件が定義されていないことが多いなど目には見えない人事要素が存在している。また、部門ごとに評価基準が異なるため、異なる部署の社員間の比較が困難であることなども日本におけるタレントマネジメントシステムの普及を鈍らせていると考える。

そこで登場したのが和製タレントマネジメントシステムである。和製タレントマネジメントシステムは、上記のような目には見えない人事要素などにも配慮されたタレントマネジメントシステムである。しかし、日本企業のグローバル化が進み、従来のように国内と海外で異なる人事システムを利用していたのでは本社で十分な人材把握をすることができないなどの問題が発生するようになった。外資系ベンダは、だからこそグローバルで実績を持つ外資系タレントマネジメントシステムを導入すべきだと主張する。だが、タレントマネジメントシステム導入において、日系か外資系かを基準にすべきではないと考える。何故なら、和製タレントマネジメントシステムがグローバル環境下で利用できないということはなく、外資系タレントマネジメントが目には見えない人事要素に対応していないわけでもないからである。事実、日本オラクルやワークスアプリケーションズなど各ベンダは欧米流と日本流を融合させたタレントマネジメントシステムを考えつつある。このような流れは、各社固有の人事制度への対応が求められるタレントマネジメントシステムにとって当然ともいえ、日本企業のグローバル化を後押しするものとなろう。何故なら、融合型システムは国内外の人材について、適材適所な配置を実現するとともに、グローバル環境下で活躍できる人材を育成することに寄与するものだからである。

もはや競争相手が国内だけではなくなった今、企業の課題もグローバルなものとなることが予想される。今後は、それに対応できる人材を獲得し、育成することが企業成長の要になると言える。タレントマネジメントシステムはそのために有用なツールの1つであると考える。

小山博子

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小山 博子(コヤマ ヒロコ) 主任研究員
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