矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2018.06.21

【アナリストオピニオン】CPS時代を迎え、注目されるPHM(Prognostics and Health Management)②

CPS時代に必要な物理メカニズム把握の取り組み

PHMが期待されるのは、AIの失敗が背景にあるといえる。データを集めただけでは故障予知するのは容易ではなく、その現状については、昨年、『2017 製造業のIoT活用の実態と展望 -保全・故障予知の現状とAI(人工知能)の可能性-』において詳細をレポートした。

しかし、“AIは使えない”といって、故障予知をはじめとする製造現場への適用を取りやめるわけにはいかない。CPS(サイバー・フィジカル・システム)やインダストリー4.0などのコンセプトが、製造業のありようを変えようとしているからだ。この変革からは逃げるわけにはいかない。
特に重要なのはCPSだ。ゴールは故障予知ではなく、CPSを見据えなければならない。

CPSは、物理的なものと瓜二つのものをサイバー空間上で再現しようという試みである。CSPとほぼ同義語でデジタルツインという言葉があるが、まさに“デジタルの双子”を作ろうとするものだ。

しかしながら、製造現場におけるフィジカルの世界は、まだまだ理解できてないことがほとんどである。3D CADで見た目上は双子を作れたとしても、製造システムとしての再現度はまだまだ低い。

そしてCPSを完成させるためには、メカニズムの解明が不可欠だ。今後、たくさんのセンサーデータを取ることで、これまで想定していなかったような挙動などが可視化されていくだろう。工学系の知見に加え、データ分析やAIなどを活用することで、工場システムのメカニズムの解明が試みられるだろう。故障予知は、その第一歩として格好の研究対象といえる。

これからは物理とサイバーは密接不可分なものとして存在することになる。故障予知の研究を通じて、工場や製品のシステム全体に対するメカニズムを理解していくことができれば、故障を予知するのみならず、サイバー空間上でシミュレーションを展開する際にも役に立つ。そしてシミュレーションが高度化すれば、工場設計、製品設計というプロセスが、更に強いものとなるはずだ。
いま、こうしたメカニズムの解析・理解について一番近い取り組みがなされているのはPHMだろう。航空・宇宙という予算規模の大きな業界が主導しており、一般産業がすぐに取り入れられるのかは分からないが、これまでも航空・宇宙産業での先端技術は、こなれてくると他の産業へと展開されている。CPSの取り組みが本格化すれば、注目度はあがってくるだろう。

日本の強みは、IT側ではなく、機器や部品といった物理側にあるといえる。加えて、TPMといった全員参加活動を効果的に行える優秀な人材が現場にも多数いる。現場を知る者が統計解析やホワイトボックス型の機械学習などを使いこなすことができれば、メカニズムの解明に高いアドバンテージを持って挑むことができるのではないだろうか。
データアプローチは、今後、さらに重要性を増していくことだろう。しかし、データの解釈のみに目を奪われるのではなく、そこにある物理的な現象そのもののメカニズム解明に挑むことが、将来のCPSという世界において、大きな役割を果たしていくのではないだろうか。

○本シリーズの①は下記URLよりご覧いただけます

(https://www.yanoict.com/daily/show/id/135)

○全文は下記URLよりご覧いただけます

(https://www.yanoict.com/opinion/show/id/235)

忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
市場環境は大胆に変化しています。その変化にどう対応していくか、何をマーケティングの課題とすべきか、企業により選択は様々です。技術動向、経済情勢など俯瞰した視野と現場の生の声に耳を傾け、未来を示していけるよう挑んでいきます。

YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。

YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。

東京カスタマーセンター

03-5371-6901
03-5371-6970

大阪カスタマーセンター

06-6266-1382
06-6266-1422