アナリストオピニオンでは、全体的な傾向として「これから」「近未来」の技術やトレンドについて語る場面が多いが、私はあえてレガシーな存在といえる「アナログカメラ」に焦点を当ててみたい。
アナログカメラは、決して今のトレンドというわけではなく、未来が明るい急成長市場というわけでもない。出荷台数は減少傾向にあり、時代は確実にIPカメラへと移り変わっている。では、なぜあえて今この話題を取り上げるのか。その背景には、テクノロジーの進化だけでは捉えきれない監視カメラ市場のリアルな現場ニーズと、アナログカメラが秘める確かな実用価値が存在するからである。本稿では最新の市場動向を踏まえながら、その理由について解説していく。
近年の国内監視カメラ市場を俯瞰すると、IPカメラを中心とした拡大基調が続いている。矢野経済研究所が2025年に調査したレポート「2025年度 監視カメラ/画像解析システム市場の実態と展望」では、2025年度における出荷台数はIPカメラが136万5,000台、アナログカメラが26万5,000台と見込み、IPカメラが市場の中心となっている。背景として、通信インフラの整備、PoE(Power over Ethernet)スイッチの普及、AI機能搭載モデルの低価格化やクラウドサービスの浸透などがあり、ベンダ各社はIPカメラの導入を積極的に推進している。導入領域も公共施設や店舗、工場にとどまらず、医療・介護施設や学校などへ広がり、2025年度以降も前年度比107〜108%程度の力強い成長が見込まれる。
【図表:日本監視カメラ(IP/アナログ)市場推移予測(2022年~2030年)】
矢野経済研究所作成
こうした数字だけを見ると、アナログカメラ市場はいずれ淘汰されるかのように思える。しかし、現状の現場での様子を見ると、異なる様相が浮かび上がる。確かにアナログカメラ市場は減少傾向にあるものの、急速な落ち込みとはなっていない。2025年度以降の出荷台数は前年度比97〜98%程度と緩やかな縮小にとどまる見通しであり、注目すべきは、その減少スピードが2024年度までと比較してもむしろ緩やかになっている点である。
市場の8割以上をIPカメラが占める中で、なぜアナログカメラの減少ペースは鈍化し、底堅さを保っているのか。そこには、IPカメラの拡大とは裏腹に、アナログカメラが担う用途と現場での価値が存在している。
アナログカメラが粘り強い需要を維持している最大の要因は、IPカメラとの技術的・運用の棲み分けが進んだことにある。そして、その棲み分けが進んだ要因として挙げられるのがアナログHDカメラの性能向上である。
かつてのアナログカメラは画質の粗さが弱点とされ、鮮明な映像を録画できるIPカメラはアナログに取って代わるものとして捉えられていた。しかし現在のアナログHDカメラは、解像度や夜間撮影性能、WDR(ワイドダイナミックレンジ)などの向上により、日常的な監視におけるIPカメラとの差はほとんどないといってよい。ユーザ体感上の画質差が埋まったことで、アナログカメラ本来の実用的な優位性が改めて評価されている。
第一に挙げられるのが、「既設インフラの活用による圧倒的なコストメリット」である。アナログカメラの需要の中心は依然としてリプレイス案件である。特にマンションや小規模集合住宅などの定点監視用途では、既設の同軸ケーブルや配管をそのまま再利用できることが大きな強みとなる。LANケーブルへの引き直しに伴う多大な配線工事費や工期を抑制できるため、IPカメラへ全面移行する合理性が薄い現場は多い。
第二に、「映像伝送の安定性と無遅延性」である。ネットワークを介してパケット伝送を行うIPカメラでは、エンコードや通信環境に応じたタイムラグが生じる。これに対し、同軸ケーブルで直接伝送するアナログカメラは、極めて高いリアルタイム性を誇る。エレベータホール、駐車場、共用部などの監視において、遅延のない安定した映像確認ができる点は現場にとって大きな安心材料となる。
第三に、「ネットワーク管理が不要な手離れの良さ」である。IPカメラシステムではIPアドレスの割り振りや管理、サイバーセキュリティ対策など専門的なIT知識が求められる。一方、アナログ方式は複雑なネットワーク設定を必要とせず、トラブル時の切り分けも容易である。専門のIT管理者が不在の現場でも、DVR(デジタルビデオレコーダー)と組み合わせることで、メンテナンス負担の軽いシンプルな監視体制を構築できる。また、現場対応力を持つ施工業者が多数存在し、設置・保守のノウハウが定着していることも安定した需要を後押ししている。
こうした実用価値は、エンドユーザの受動的なニーズにとどまらず、供給側の戦略的アプローチによっても支えられている。
象徴的な例が、ディストリビュータであるドッドウエルビー・エム・エスの動向である。同社では、マンション向けのリプレイス案件だけでなく新規案件に対しても、アナログカメラを積極的に提案している。トータルコストの優位性や屋外環境での施工・運用の容易さに加え、IPアドレスの管理工数を削減できるという現場起点のメリットを訴求することで、同社のアナログ系製品の出荷台数はむしろ微増となっている。市場全体が縮小するなかで、現場の運用負荷に寄り添った提案が需要を掘り起こしている好例といえる。
また、周辺機器のエコシステムもアナログカメラの継続的な活用を支えている。DVRは、AIやクラウドを介さないシンプルな構成を望む中小規模施設を中心に根強く稼働している。さらに、アナログ環境を活かしつつ映像をデジタル化する「エンコーダ」は、システムネットワーク化を進める際の「橋渡し」として、既存資産の延命策に寄与している。これら録画・変換機器は、IPやクラウドといった新技術を補完しながら、システム全体を現実的に下支えする重要なポジションを維持している。
近年の市場では「IPカメラの導入=進化」と捉えられがちである。実際、AI画像解析やクラウド連携を軸とした高付加価値ソリューションが市場成長を牽引しており、小売や物流、自治体などでは、省人化やデータ利活用を目的としたIPプラットフォームの導入が不可欠となっている。
それらは決して間違いではなく、IPカメラの持つポテンシャルは高い。しかし、監視カメラ市場の進化の本質は、新技術が旧技術を一掃することではない。高付加価値領域を切り拓くIPカメラと、安定性・リアルタイム性・コストパフォーマンスを重視するアナログカメラが、それぞれの特性を活かして適材適所で共存することにある。
近年はアナログHD製品でも4K対応や長距離伝送など機能面の強化が進み、ユーザは「既設環境を捨てずに性能を高める」という合理的な選択も可能となった。アナログカメラは、成長市場としての勢いこそないものの、成熟市場として確固たる存在感を放ち続けている。技術の新旧という単線的な見方から離れ、現場課題に即した実用的な選択肢としてアナログカメラのポテンシャルを捉え直すことが、持続可能なシステム構築につながるのではないだろうか。
なお、弊社では2026年10月に最新版となる「2026年度 監視カメラ/画像解析システム市場の実態と展望」の発刊を予定している。本稿で取り上げたアナログカメラの最新動向や現場における実態、さらにはIPカメラとの棲み分けの行方について引き続き注視していきたい。
(山内翔平)
■レポートサマリー
●監視カメラ/システム国内市場に関する調査を実施(2025年)
●監視カメラ/システム国内市場に関する調査を実施(2024年)
■アナリストオピニオン
●映像が組織を動かす──能動的な映像データ活用への移行
●国内IPカメラ市場:カメラの「コト売り」は流通チャネルを変化させるか?
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