矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2025.11.06

生成AIがもたらすデータ分析の次段階 ~主要ベンダ編~

前稿(市場動向編)では、生成AIの普及を背景にデータ分析ツール市場が多様化している状況を概観した。
本稿では、その動きを象徴する主要ベンダ製品と今後の方針を紹介する。

Dataiku Japan株式会社

■Dataiku製品概要
DataikuはユニバーサルAIプラットフォームを掲げて製品を展開している。第一の特徴はオーケストレーションレイヤーとして機能する点である。データ準備からモデル構築、分析、レポート作成までをエンドツーエンドで実行できる。さらに、特定のテクノロジーにロックインされることはない点も強みである。Snowflake、Databricks、Amazon Web Services(AWS)など主要サービスと接続でき、ユーザはニーズに応じた環境を柔軟に選択できる。新しいテクノロジーが登場した場合でも既存環境を資産として保持しながら活用できるため、IT部門が懸念しがちなロックインを回避しつつ常に最新技術を取り込むことが可能である。
第二の特徴は部門横断での利用が可能な点である。従来のプロダクトはビジネス部門向けと技術部門向けに分かれることが多かったが、Dataikuは中立性を保ち、両者を同一基盤で支援できる。ビジネス部門はクリック操作によりデータ準備から機械学習までを実行でき、技術部門は同じ環境でPythonを用いたモデル作成も可能である。この柔軟性こそがユニバーサルAIプラットフォームと称される所以である。

■ターゲット
利用者はリテラシー層が多様で、事業部門が日常業務に活用する一方、製造部門では需要予測でモデル開発を行う例もある。業種は限定されず、国の産業構造に左右される傾向が強い。日本では製造業が中心だが、小売業や金融業でも利用が拡大している。大量の社内データを保有する大企業を主要対象とし、複数部門での横断利用を前提に設計された製品である。

■今後の方針
AI活用について重要となるのは基盤となるデータである。今後、AI活用は促進されていくことが見込まれるが、過去のデータやモデルの蓄積がなければ実効性は得られない。この点については市場に対して啓発していく必要があり、データリテラシーの向上は依然として課題である。
加えて、重要性を増しているのがガバナンスである。生成AIの普及に伴い、AIへの関心はかつてないほど高まっており、個人単位でAIが利用され、さまざまなデータにアクセスできる環境が広がっている。こうした状況に対し、ガバナンスを効かせてコントロール可能にすることが不可欠であり、規則として定めるだけでなく、製品として管理機能を備えることの価値は大きい。
さらに市場全体の方向性としては、マルチAIエージェントの活用によって業務全体を包括する仕組みが構築されていくことが予想される。Dataikuでは、1つのインターフェースから承認された複数のエージェントにアクセスし指示を与え、また同じインターフェースでユーザが自身の業務遂行用にエージェントを作成する時代が訪れると考えている。Dataikuでは、そのような市場に対応するための第一ステップとしてAgent Hubのリリースを発表している。
Agent Hubは、組織内で生成AIエージェントを検索、利用、構築できる共同スペースであり、IT部門による完全な監督権限も維持できる。AIエージェントを企業の中核的な企業資産として位置づけ、ビジネスデータやモデルへの安全な接続、チーム横断的なオーケストレーション、そしてエンドツーエンドのガバナンスを実現する。

DataRobot Japan株式会社

■DataRobot製品概要
DataRobotは、企業におけるAIエージェントの構築、運用、管理をひとつのエージェントプラットフォームで可能にする。また、LLM Gatewayを通じて各種LLMを利用できる仕組みを提供しており、レスポンスタイムやコスト、精度といった観点から評価・比較しながら最適なモデルを選択できる点も強みとなっている。
また、NVIDIAとの共同開発も重要な位置づけにある。DataRobotはNVIDIAのリファレンスアーキテクチャに組み込まれており、NVIDIA Inference Microservices (NIM)をDataRobotのプラットフォーム内で活用・実行できるよう統合を強化している。NVIDIAと共同開発したで「エージェントワークフォースプラットフォーム」を展開し、DataRobotのプラットフォームとNVIDIAのインフラを組み合わせることで、開発者が迅速にエージェントアプリケーションを構築できる環境を提供している。ワンクリックでLLMや推論モデルを選択し、AIエージェント エージェンティックアプリケーションを構築することができる。
さらに、エージェントを活用したアプリケーションをテンプレートとして提供しており、基盤エージェント、ビジネスエージェント、特化型エージェントの3種を展開している。テンプレートはカスタイズでき、SAP 、Salesforce、Workday、Adobe、など主要業務アプリと連携可能で、蓄積データをシームレスに活用できる。
さらに、モデルやエージェントの開発・運用・統制を一貫して行える機能を備える。各種LLMや外部AIツールと連携し、全体のオーケストレーションを可能にしている点が特徴である。さらに、アプリ提供にとどまらず、業務適用後もセキュリティやガバナンスの観点から監視・管理を継続できることが、他ベンダとの差異化要因となっている。

■ターゲット
生成AIの実験からAIエージェント開発・運用に変化したことにより、利用者層は従来のデータサイエンティスト中心から、業務部門やIT部門へと拡大している。アプリ開発者やガバナンス部門も関与し、企業全体での活用が進んでいる。日本市場では中小企業も対象に含まれ、製造・運輸・金融業・官公庁など多様な業種で導入が拡大している。

■今後の方針
現在、注力しているのは、いかに迅速にAIを本番環境に適用し、ビジネス価値を創出できるかという点である。AIエージェントに関してはテンプレートを提供しており、開発スピードの向上につながっている。今後もこの仕組みについて機能強化を継続していく方針である。また、強みであるガバナンス管理や利用監視についても引き続き強化を進めていく。
一方で、自社だけでユーザのニーズすべてに応えることは難しいため、外部プラットフォームとの連携にも取り組んでいる。現在はNVIDIAやSAPとの連携強化を進めているが、それ以外にも多様なエージェントが展開されており、それらとシームレスにつながる仕組みを整えることで、ユーザの幅広いニーズに対応できる体制を構築している。

合同会社dotData Japan

■dotData製品概要
dotDataは特徴量自動設計を強みとしたAIプラットフォームである。一般的に特徴量および特徴量エンジニアリングとは、機械学習において説明変数を生成するプロセスとして理解されているが、dotDataにおける特徴量の捉え方はより広い。
例えば銀行業務の場合、金融ローン商品の販売拡大を目的としてターゲット顧客を絞り込むといった分析が行われる。dotDataでは、顧客の属性、オンラインバンキングの利用、コールセンターへの問い合わせ、投資商品の運用状況、グループ会社の保険加入履歴など多様なデータからローン商品を購入する顧客の特徴を導き出す。同社にとって特徴量とは単なる機械学習の入力変数ではなく、ビジネス課題に対する回答や施策につながるパターンであり、そこに本質的な価値があると捉えている。
製造業においては製造工程で不良品が発生する。その際に重要なのは不良品の発生そのものを予測することではなく、不良品発生の原因となる条件、つまり特徴量を明らかにすることである。不良品の要因となる特徴量を示すことができれば、設計や稼働条件といった業務の改善につながり、予測モデルの構築にとどまらず、多様な応用が可能となる。

■ターゲット
dotDataの主要ユーザはデータサイエンティストに限らず、業務部門における施策検討や戦略立案などを担う層が中心である。営業を例にすると、営業企画・戦略部がdotDataにより商談の成功要因となる特徴を分析・可視化し、営業現場はそのデータを活用する。国内では金融や製造業が多く、データ活用のリテラシーや産業構造が背景にある。
企業規模としては大量データを保有し投資余力を持つ大企業を主対象とし、データドリブン経営を支える役割を果たしている。

■今後の方針
今後、市場では生成AIやエージェントの拡大に伴い、予算配分もそれらにシフトしていくと見込まれる。現在、AIベンダ各社のデモでは「データを投入するだけでエージェントが高度に機能する」様子が示されているが、実際にはその裏側で精緻なデータ整備が不可欠となっている。dotDataは、こうした課題に対して特徴量の活用を軸にデータインプットを支援できる可能性を持っている。
また、特徴量自動化をはじめとする多様な自動化技術を備えており、今後はこれらを組み合わせることで分析プロセスそのものをエージェント化していく方向性も検討している。2026年以降は、こうした取り組みを通じて市場の変化に応じた価値を提供していくことを目指している。

サイバネットシステム株式会社

■BIGDAT@Analysis製品概要
BIGDAT@Analysisは、IoTなどで蓄積されたデータを誰でも分析できることを目指したツールである。近年、企業ではセンサーデータをはじめとした大量データの取得が可能になっているが、取得データの増加に伴い高度な分析が求められるようになった。こうした課題に対し、本ツールを用いることで二次元マップによる可視化などを実現し、ブラックボックス化せず説明可能なデータ分析を行うことができる。
用途として最も多いのは製造業における不良要因の特定である。加えて、BIGDAT@Analysisでは、一度の分析で不良要因だけでなく、良品が製造される条件も明らかにできるため、将来的な不良発生を未然に防ぐ予知保全にも活用可能である。
市場には統計分析ツールが存在する。例えばSPSSやSASは高度な統計処理を容易に実行できるが、ユーザには一定の統計知識が求められる。PythonやRを用いた分析も可能であるが、プログラミングスキルが前提となる。また、AIによる全自動予兆検知ツールも増加しているが、異常状態の検知には有効な一方、要因究明には不向きである。これらのツールと比較してBIGDAT@Analysisは、サイバネットがこれまで蓄積してきたデータ分析手法をマウス操作で再現できるように設計されており、ユーザの学習コストが低い点に特徴がある。

■ターゲット
従来、データ分析はデータサイエンティストの役割であった。しかし、専門人材でも分析は可能だが、その結果を基に新たな発見を見いだすのは容易ではない。BIGDAT@Analysisはマウス操作だけで分析が可能であり、統計解析や多変量解析といった高度な知識を必要としないため、実際の利用者は各部門の担当者が中心となっている。
導入が最も多いのは自動車メーカーであり、鋳造部品やレーザー溶接における不良要因分析を通じて良品条件を特定する利用が全体の約9割を占める。そのほか、科学分野やポリマー繊維、塩ビパイプの製造監視といった分野でも活用されている。

■今後の方針
データ分析においては、ソフトウェアを用いて分析を行うだけでなく、膨大なグラフを作成して比較するといった基礎的な作業も必要となる。また、ユーザが保有するデータは前処理を施さなければ活用できない場合が大半である。こうした幅広いニーズを踏まえ、利便性を高める機能を順次追加している。あわせて、「PTC社製産業用IoTプラットフォーム「ThingWorx」」との連携強化にも取り組んでいる。

日本アイ・ビー・エム株式会社

■IBM SPSS Statistics製品概要
IBM SPSS Statisticsは1968年に開発された統計ソフトであり、現在では全世界で28万人以上が利用している。データ分析やBIツールとも関連する領域を持つが、位置づけとしては主に統計解析に特化し、必要な機能を幅広く備えている点に特徴がある。
統計検定や学術研究での分析に多く用いられており、論文の検証や図表作成にも活用されている。特に、学術論文において分析ツールとして明記される例が多く、研究分野における実績と信頼性の高さを示している。
機能追加はおおよそ1年から1年半の周期で行われており、その多くは新たな分析手法の導入である。追加される手法の中には高度かつ専門性の高いものも多く、一般ユーザには馴染みの薄いケースもあるが、こうした機能拡充を期待するユーザ層も一定数存在する。

■ターゲット
導入先の約7割は教育機関および医療機関である。必ずしも論文執筆専用のツールではないものの、大学での利用は特に文系の学生に多く、直感的に操作でき、プログラミング知識を必要としない使いやすさが要因と考えられる。医療機関では医学や薬学の分野を中心に、臨床試験の結果を示す際に広く利用されている。
企業での導入は主に研究所で見られ、R&Dや故障予測といった分野で活用されている。また、コールセンターにおけるコール量の予測や、ダイレクトマーケティングの分析にも用いられる。
企業で利用しているユーザはITに精通した人材というよりも、むしろ各専門領域に特化した研究者や技術者であり、日常的にプログラミングを扱うわけではない。そうした人材が論文や報告書の作成において課題を明確に定義し、統計的に証明するプロセスでSPSS Statisticsが用いられている。

■今後の方針
最新のバージョン31にはAIアシスタンと機能が実装された。IBM自体がAI活用に注力しており、各種製品にアシスタント機能やエージェント機能を組み込んでいるが、SPSS Statisticsにも同様の機能が実装され、統計的な出力結果に対してAIが分析結果の概要や結果の意味、考察などを自然言語で出力することが可能になった。高度かつ専門的な統計の知識のない方でもAIの支援により分析がより簡単に行えるようになった。今後もAI機能の拡張を拡充していく。このような活用が進めば、大学の教員が操作方法を説明する必要はなくなり、各分析手法の理論を教えるだけで、実際の作業は学生とAIによって完結できるようになる。

今野慧佑

関連リンク

■レポートサマリー
国内生成AIの利用実態に関する法人アンケート調査を実施(2025年)
国内生成AIの利用実態に関する法人アンケート調査を実施(2023年)

■アナリストオピニオン
生成AIがもたらすデータ分析の次段階 ~市場動向編~

■同カテゴリー
[ソフトウェア]カテゴリ コンテンツ一覧

関連マーケットレポート
今野 慧佑(コンノ ケイスケ) 研究員
IT業界の発展はめまぐるしく、常に多くの情報が溢れています。 調査を通して、お客様にとって有益な情報を提供していけるように努めてまいります。

YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。

YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。

東京カスタマーセンター

03-5371-6901
03-5371-6970

大阪カスタマーセンター

06-6266-1382
06-6266-1422