2022年11月にChatGPTがリリースされて以降、企業における生成AIの活用が促進されている。生成AIの活用において重要な要素となっているのがデータである。多くの企業が利用しているのは汎用的な大規模言語モデル(LLM)であり、生成するコンテンツには大きな差が生じにくい。そのため、実務での活用に限界があり、ソリューションの提供においても他社との差別化は困難であるため、自社で蓄積している独自のデータと組み合わせることが求められている。このため、データの収集や整備が極めて重要な要素として位置づけられるようになってきている。
もっとも、データの価値が強調されるようになったのは生成AI登場以降のことではない。以前から企業経営の分野ではデータドリブン経営の重要性が唱えられてきた。従来、企業の意思決定は「勘と経験」に依存する傾向が強かったが、そこからの脱却を目指し、データを意思決定の基盤に据える動きが広がってきた。ビッグデータやAIブームの波を経て、多くの企業がデータ基盤の構築やダッシュボードの整備に取り組んできた。その過程で、様々なデータ分析ツールが展開されてきた。
こうした取り組みの中で進められてきたものの1つが分析の民主化である。かつてデータ分析はデータサイエンティストを中心とした専門人材に依存していたが、ノーコード/ローコード技術などの発展により、非専門人材でも分析を行える環境が整っている。
このようにデータを活用できる環境が整いつつある一方で、それを成果に結びつけるための手段は常に変化している。データ分析は、単なる業務効率化の手段から、経営判断を支える実務的な基盤へと位置づけが変わりつつある。近年では、各ベンダが生成AIやAIエージェントを組み合わせたソリューションを展開し、企業のデータ活用をより一層促進している。本稿ではデータ分析に係る市場動向についてまとめている。
上述の通り、生成AIの登場は、企業に独自データの活用価値を再認識させた。各社でデータ収集や整備の動きが広がる中、それらを分析・活用するための基盤整備が進み、データ分析ツール市場の成長を促している。
また、生成AIはデータ分析の敷居を下げることにも寄与している。これまでもノーコード/ローコードでのデータ分析が可能なツールの登場により、プログラミングの知識を持たない人材でもマウス操作で分析を行うことが可能となっていた。加えて、生成AIでは自然言語による指示が可能であり、分析操作やツールの利用をAIが補助する機能も備わり始めている。
さらに、単なるAI搭載にとどまらず、生成AIを中核に据えたプラットフォーム化の動きもある。また、ツール単体の進化に加え、企業内で分散しているデータやナレッジを横断的に活用するためのデータ連携・統合基盤の整備も進展している。
データ分析ツールの利用層は、従来のデータサイエンティストに限定されず、企画部門や現場担当者など非専門人材へと拡大している。ノーコード/ローコード技術や生成AIの導入によって、プログラミングや統計知識を持たない利用者でも、自らデータを可視化し、業務課題の要因を抽出できる環境が整っている。例えば、製造業では、IoTによるデータ収集が進んだことで、データを基にした不良要因の分析や予知保全の取り組みが広がっている。
特に盛り上がりを見せているのが金融業界における分析ニーズである。金融業は業務が厳密に体系化されており、帳票や取引記録、ドキュメントなど定型的な情報が大量に蓄積されている。こうした構造化データは分析対象として適しており、様々活用が進んでいる。
このように、データ分析市場のターゲットは、専門職から多様な職種・階層へと広がりを見せており、分析の民主化が定着段階に入っているといえる。利用者の裾野が拡大する一方で、データをいかに業務価値に転換するかが次の焦点となっている。
データ分析の民主化は拡大している。ノーコード/ローコード技術や生成AIの普及によって、専門知識を持たない利用者でも自らデータを扱える環境が整い、分析そのものが目的ではなく、成果創出のための手段として位置づけられるようになっている。こうした中で市場では、単にデータ分析を行うだけでなく、より高い付加価値を提供できるツールが求められている。
特に、AIによる分析支援や意思決定の補助機能を備えたツールへの期待が高まっている。生成AIやエージェント機能を活用し、分析結果の要約や次の行動提案までを自動で提示する機能が整いつつあり、利用者は操作やモデリングに時間を費やすことなく、より本質的な判断に集中できる環境が形成されつつある。データ分析ツールは、業務効率化のためのツールから、意思決定の高度化を支援する実務基盤へと発展しているといえる。
現時点では、こうした環境を整備できるのは十分な投資余力とデータ資産を有する大企業が中心である。しかし、ツールの自動化やクラウド化の進展によって、将来的には中小企業にも利用が広がる可能性がある。これらの企業では人員やノウハウの制約が大きいが、AIによる支援機能を備えた分析ツールの登場によって、データ活用が経営層や現場の判断を支える一般的な手段として定着していくことが期待される。
データ分析は今後、企業規模や業種を問わず、経営判断を支える戦略基盤へと位置づけを強めていくと考えられる。
(今野慧佑)
※本稿は主要ベンダ編に続きます。
■レポートサマリー
●国内生成AIの利用実態に関する法人アンケート調査を実施(2025年)
●国内生成AIの利用実態に関する法人アンケート調査を実施(2023年)
■アナリストオピニオン
●生成AIがもたらすデータ分析の次段階 ~主要ベンダ編~
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