矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2025.10.29

MUFGのBaaS戦略――生活動線に浸透する銀行機能で顧客接点と収益を拡大

三菱UFJ銀行は2025年からBaaS(Banking as a Service)事業を本格展開し、決済・口座開設に加え資産運用機能を外部企業と連携して提供している。& BANKを基盤に、非金融企業のサービスに銀行機能を組み込むことで新たな顧客接点を創出し、LTV×顧客基盤の最大化を狙う。

概況と狙い

BaaSとは他社サービスに銀行機能を組み込み、金融と他業界の垣根を越えて顧客の日常に金融を溶け込ませる仕組みである。三菱UFJ銀行は2025年より決済や口座開設に加え、資産運用サービスを外部企業と連携して提供するBaaS事業を推進している。支店網が薄い地域でも、パートナー事業者のブランド力を活用してリーチを拡大できる点が重要な意義となる。

近年、口座獲得コストは上昇傾向にあり、広告だけで効率的に顧客を獲得することは難しい。獲得後に口座を継続利用してもらうためには、日常的に使いたくなるサービス設計が不可欠であり、事業者と協業して顧客の日常動線に組み込む取り組みを進めている。

& BANKの位置づけ

同社は汎用的なBaaS基盤「& BANK」を展開している。これはメガバンクとして初の包括的なBaaS基盤であり、パートナー事業者のブランドに合わせたカスタマイズや情報発信を可能にする。単一機能の提供に留まらず、銀行業務全体をパッケージ化して提供する点に戦略的意義がある。

パートナーは銀行ライセンスの取得や大規模開発を行うことなく、自社ブランドで銀行サービスを展開できるため、導入障壁が低く、提携の拡大が期待される。

戦略の方向性と実務フェーズ

三菱UFJ銀行のBaaSは口座開設や各種照会、資産運用機能の組み込みを進め、銀行機能を生活動線に浸透させる実用フェーズに入っている。既に複数の実証や共同サービスが進行中で、小売やインフラ、耐久消費財など幅広い業界と協議を重ねている。

非金融アプリへの金融機能実装や購買データ×金融データを活用した新サービスの検討は、従来チャネルで接点が持てなかった顧客層の獲得と取引拡大に直結する。BaaSは中期経営計画で掲げる「LTV×顧客基盤」の最大化に直結するため、DX戦略の中核的収益ドライバーとして位置づけられている。

ビジネスモデルと収益性

BaaS導入により、パートナー企業のサービスを利用するエンドユーザーの取引が増加し、事業者側の価値創出に寄与する。収益は導入時の初期費用やランニングフィーに加え、長期的には口座やサービスの利用拡大による手数料や預金残高の増加を見据えたストック型の収益構造を想定している。

重要なのは、導入パートナーにとって費用対効果が明確であることと、エンドユーザーが自然にサービスを使い続ける設計ができるかだ。

導入事例と対象業界

既に非金融事業者を通じた金融機能提供により市場での存在感を高めている。ターゲット先としては、消費財・小売・インフラ系の企業や、購入時に資金ニーズが発生しやすい耐久消費財分野が想定される。

実際の導入事例としては、不動産事業者との連携や決済実装があり、業種横断での利用機会を創出している。

デジタル技術による付加価値

BaaSではデジタル技術を活用して新たな価値提供を目指す。不動産事業者との連携では東急リバブルが資産運用機能を導入しており、住宅ローンと資産形成を横断的に支援する取り組みが進んでいる。金融資産だけでなく不動産資産も一元管理することで、顧客の資産全体を可視化し、より実効性のある提案が可能となる。

今後は光熱費や生活関連データと連携したサービスなど、顧客の生活に密着したテーマでの提案を拡大していく計画である。

提携先とエコシステム

提携企業は特定の業界に限定せず幅広く協議を進めている。現時点での代表的な連携先には、デジタル統合基盤を提供するFinatext、家計簿データを保有するマネーツリー、顧客獲得後のコンバージョン最適化を支援するAUXIAなどのFinTech企業がある。これらと連携することで、技術・データ・マーケティングの強みを統合できる。

課題と今後の展望

課題としては社内の複数部署との調整やマーケティング面での施策があげられるが、同社はこれらを事業開発に必要なプロセスと捉えている。運営ノウハウや事業者との協議体制は整いつつあり、リアル店舗という強みを活かした解決策も期待される。

展望としては、& BANKと資産運用特化型のモジュール「Money Canvas」を組み合わせることで、多様なパートナーのニーズに対応し、金融サービス提供範囲を飛躍的に拡大することが見込まれる。将来的にはBaaS基盤をデジタルバンクの基盤に統合し、よりフレキシブルで多機能な提供体制へ移行する構想も示されている。

高野淳司

関連リンク

■アナリストオピニオン
MUFGのデジタルバンク構想――スピードと精緻な資産提案で「デジタル×リアル」を実現する
MUFGの新リテール戦略「エムット」――デジタルで顧客接点を再定義する

■同カテゴリー
[金融・決済]カテゴリ コンテンツ一覧

高野 淳司(タカノ ジュンジ) 主任研究員
数多くの取材を通して得ることの出来た「生の情報」を元に、お客様が抱えている問題にしっかり耳を傾け、もっとも効果的な解決方法を発見できる調査を提案することをモットーとしています。

YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。

YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。

東京カスタマーセンター

03-5371-6901
03-5371-6970

大阪カスタマーセンター

06-6266-1382
06-6266-1422