矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2024.01.23

メタバースの時代はいつくるのか

メタバースとは

近年メタバースが注目を集めて市場が盛り上がっているが、一般ユーザーは「メタバースって何?」「どのように活用されているの?」という疑問を持つ人々が多い。

メタバース(Metaverse)の言語的由来は「超越した」を意味する"メタ(Meta)"と「宇宙」「全空間」を意味する"ユニバース(Universe)"の合成語で、メタバースについて現状明確に定義されたものはないが、以下のような特徴をもつ前提で認識されることが多い。

<メタバースの特徴>

  • 現実世界と同様に時間が途切れることなく永続性を持つ。
  • ユーザーは自分の分身となるアバターを通じて仮想空間内で活動する。
  • 複数のユーザーが同時に参加し、交流することができる。
  • リアルタイムでライブ体験ができる。
  • VRデバイスだけではなくPC、スマートフォンなどからもアクセスが可能。
  • 仮想空間内でユーザーは社会的、文化的、経済的生活を送ることが可能。

昨今の急伸の成長要因

過去にもメタバースの概念は存在して、関連サービスも提供されていたが、様々な課題や限界があり広く普及しなかった。しかし、近年5Gなど通信環境の整備やVR技術の進展、また、メタバース内におけるコンテンツの所有権を保障するNFTの登場などにより、過去の課題が解消されつつあり、メタバースを活用したサービスの可能性について注目が集まった。
これに加わり、2021年10月Metaはメタバース開発事業に注力するため、社名をFacebookからMetaに変更し、積極的にメタバース事業に投資を行うと発表したことで、これをきっかけに業界ではメタバースへの注目が一気に高まった。
さらに、2020年はコロナパンデミックの影響により、人々の日常の中でリモートワークやオンライン・非対面の生活が一般化した。このような背景から、世界中の先端企業がメタバースを活用したサービスの可能性に注目し始め、関連ソリューションや技術開発に力を入れている。

メタバースの活用が見込まれる分野

■バーチャルイベント/リモートワーク
コロナ禍をきっかけにリモートワークやオンラインイベント(セミナー、展示会など)が定着するようになり、今後もメタバースを活用した関連サービスの需要は継続するものと予想される。ただし、コロナ収束後、既存の代替となるサービス分野の成長にはVRならではのメリットが不可欠であるため、課題が多い。その中で、バーチャルにより体験価値がさらにリッチになるサービスや、リアルとバーチャル空間を連携させるサービスなどは今後も成長可能性があると考えられる。

■マーケティングツール(企業のPR、顧客とのコミュニケーション)
企業が消費者に対して情報を発信する場としての活用が想定される。海外ではすでに大手企業の取り組みが始まっており、実際に実績も上げている。常設型3Dショールームや3DのWebサイトの用途が成長する可能性があるとみる。例えば、メタバースによる新商品の体験、アバターを使った顧客とのコミュニケーション、メタバースゲームを活用したブランディング戦略などが考えられる。

■メタバースEC
ショッピング・EC分野における活用については2軸ある。一つ目は、リアル商品のマーケティングプロモーションおよび販売があげられる。現状のECサイトでは実現できない接客やショッピングの体験がメタバース上では可能になる。メタバース空間でも商取引ができる仕組みを実装させることで、これまでインターネットで販売しづらかった商品(例えば、車など)が販売できるようになり、EC化率がさらに上がる可能性がある。最初のステップとしては、消費者が商品を探索する用途としての利用が考えられる。企業は新たな集客や接客のチャンスが得られる。二つ目は、NFTを活用したデジタル商品の販売がある。デジタル商品そのものを売り出して成果を挙げている海外のブランドの事例も増えている。

■リアルとバーチャルが融合するサービス
VR、AR、MRの特性を理解した企画であれば今でも盛り上がる可能性はあるが、現状のデバイスでは技術的な制約や利用へのハードルがある。このようなサービスは今後、技術の進展と共に市場が成長する可能性があるとみる。

■YouTubeのようなUGC(User Generated Contents)プラットフォーム
特定分野というよりも様々な法人/ユーザーが参画し、多様なコンテンツ、サービスが展開されるUGCの要素が、メタバース市場が拡大する上で、重要なポイントになる。つまり、自律的な経済圏が生まれるかどうかが市場成長のカギになると考える。UGCによるCtoC市場が成長すると、プラットフォーム提供者の立ち位置が非常に重要になってくる。プラットフォーマーは広告や手数料、課金などでマネタイズしていくと予想する。

メタバースがコンシューマー市場に浸透するため解決すべき課題

現状、メタバース空間内で遊べるユーザー体験が少なく、メタバースならではの付加価値が薄い。ゲーム以外で成功しているサービスがまだみられない状況で、メタバースが過疎化してしまう恐れがある。まずはコンテンツのクリエイティブ力が成長しなければ、市場は普及しないであろう。

コロナが収束して状況が変わっていく中で、バーチャル空間でどのような価値を提供していくべきかは、事業者の課題である。コロナ最盛期にはバーチャルイベントの需要が中心となっていたが、今はリアルのライブイベントなどが復活している。環境が変わって仮想空間でオンラインイベントを行う必然性は低くなっている。従って、バーチャルならではの価値が提供できるサービスでない需要が広がらないと思われる。

また、デバイスの進化がメタバース市場普及の必須条件になる。現状、PCやスマートフォン、タブレットを介した体験が主流となっており、VRデバイスの活用はあまり進んでいない。これはXR(VR、AR、MR)デバイスのサイズや重さが課題となり、長時間の使用が困難なケースが多いことが原因の一つと考えられる。さらに、3Dコンテンツの膨大なデータ容量によるユーザー側の端末への負荷/デバイスの制限もメタバースの課題となっている。
過去にもメタバースが注目を集めた時期があったものの、市場に浸透せずに過疎化してしまったことがある。現在、上記のような様々な課題が存在しているが、キラーコンテンツが登場すれば、メタバースは一気に広がる可能性もあると考える。そうなると、若い世代がコミュニケーションの手段として今のSNSのようにメタバースを利用する時代がくるかもしれない。

金貞民

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■レポートサマリー
メタバースの国内市場動向調査を実施(2023年)

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