矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2023.07.19

公的個人認証がeKYCの中心に デジタル庁の動向

公的個人認証サービスとは、「オンラインで申請や届出といった行政手続などやインターネットサイトにログインを行う際に、他人による「なりすまし」やデータの改ざんを防ぐために用いられる本人確認の手段」である。「電子証明書」をマイナンバーカード等のICカードに記録することで利用が可能となる。電子証明書には、署名用電子証明書と利用者証明用電子証明書の2種類がある。

2002年に「電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律(以下、公的個人認証法)」が公布されたことで、2004年1月29日より、先述した地方公共団体情報システム機構(以下、J-LIS)から提供開始された。当初は行政機関等での利用に限られていたが、公的個人認証法の改正を受けて、2016年1月より民間事業者でも、公的個人認証法 第17条第1項第6号の規定に基づく総務大臣認定事業者であれば、「署名検証者」および「利用者証明検証者」として、公的個人認証サービスを利活用できることとなった。

現在公的個人認証サービスにおいて、民間事業者447社がサービス提供を行っている。そのうち、総務大臣の認定を受けている事業者が16社、同事業者を利用している事業者が431社となっている(2023年6月1日現在)。
2年前(2021年5月31日現在)と比較して認定事業者は2社、同事業者を利用している事業者は304社増加し、利用は拡大していることがわかる。

また、マイナンバーカードおよび公的個人認証に関しては、下記のような取組みが実施および予定されており、今後もマイナンバーカードを取り巻く環境は変化していくと考えられる。

民間事業者における電子証明書手数料の当面無料化

  • 2023年1月より、公的個人認証サービスの電子証明書失効情報の提供に係る手数料を、当面3年間の無料化が実施されている。
  • 通常はPF事業者がJ-LISから失効情報を取得する際に20円ほどの手数料を支払う必要がある。
  • 署名検証者(主務大臣認定を受けた民間事業者)の利用コスト・利用ハードルを引き下げることで、署名検証者の参入数増加を見込み、マイナンバーカード利用シーンの拡大を期待した施策である。

スマホ用電子証明書搭載サービス

  • 2023年5月11日より、マイナンバーカードの保有者に対し、マイナンバーカードと同等の機能(署名用及び利用者証明用の電子証明書)を持った、スマートフォン用の電子証明書の搭載機能の提供を開始した。
  • これによりマイナンバーカードを持ち歩くことなく、スマートフォンだけで、マイナンバーカード関連サービスの利用や申込が可能となった。また、4桁の暗証番号に代わり、携帯電話の持つ生体認証機能を活用することも可能である。
  • 現在はAndroid端末でのみ可能であるが、iOSへの搭載も実現に向けた検討を進めるとしている。

健康保険証・運転免許証との一本化

  • 健康保険証、運転免許証については、今後マイナンバーカードとの一本化が発表されている。健康保険証は2022年度に保険医療機関等のオンライン資格確認の原則義務化が開始され、2024年度にマイナンバーカードとの一体化の運用を開始し、2024年秋には健康保険証の廃止が予定されている。
  • 運転免許証は2022年度以降、県警の運転者管理システムの移行や一体化に必要なシステム改修、下位法令の制定等が進められ、保険証と同じく2024年度の少しでも早い時期に一体化の運用を開始する予定としている。
  • 健康保険証については、大手通信会社において、本人確認書類としての取扱いが廃止されるなど、本人確認書類としてはマイナンバーに置き換わると考えられる。

eKYCのマイナンバーカードへの一本化

  • 第4回デジタル社会推進会議(2023年6月6日)における「デジタル社会の実現に向けた重点計画(案)」において、マイナンバーカードの活用方針についての発表がなされた。
  • その中で「犯罪による収益の移転防止に関する法律51、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律52(携帯電話不正利用防止法)に基づく非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等は廃止する。対面でも公的個人認証による本人確認を進めるなどし、本人確認書類のコピーは取らないこととする。」との記載があり、今後、法令に基づく本人確認は公的個人認証に一本化される方針が明らかとなった。
  • 実施スケジュールとしては、2023年度に「eKYC廃止等について。事業者と議論・調整の上、改正内容の検討」、2024年度に「パブリックコメントのうえ、改正内容決定」、2025年度以降に「十分な準備期間を確保した上で施行」としており、数年以内にeKYCに係る外部環境が大きく変わっていくことが予想される。

石神明広

関連リンク

■レポートサマリー
eKYC/当人認証ソリューション市場に関する調査を実施(2023年)

■アナリストオピニオン
オンライン上での本人確認「eKYC」の活用進む

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石神 明広(イシガミ アキヒロ) 研究員
現在の市場の分析だけでなく、それによって何がもたらされるか、どう変化していくかといった将来像に目を向けていきたいと考えております。一歩踏み込んだ調査を心掛け、皆様のお役に立てるよう精進を重ねて参ります。

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