矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2022.02.15

スマートグラスは普及するか?

2013年に(米)Googleが発表した「GoogleGlass」は透過型ディスプレイとカメラを搭載した斬新なデザインと機能性で大きな話題となった。しかし、当時はその斬新さ故にプライバシー、安全性、著作権問題等の問題が指摘され、開発者向けに少数が販売されたものの、市販されなかった。

その後、幾つかのメーカーからスマートグラスが市販された。代表的なものとして(米)VUZIX、セイコーエプソンが挙げられる。VUZIXの製品は主に法人ユーザーを対象に販売され、建設・建築現場や物流における遠隔・現場作業支援で高い成果を上げてきた。
セイコーエプソン「MOVERIO」は法人ユーザーのみならず、一般ユーザーの利用も想定し、動画コンテンツ視聴機能を強化した。

2021年末には日本でもNTTドコモ、KDDIが(中)Nreal製スマートグラスの販売を開始した。日本では未発売なものの、VRヘッドセットトップシェアの(米)Meta(旧Oculus)はサングラスの大手Raybanとコラボしたスマートグラスを、(米)Amazonも独自開発のスマートグラスを販売開始した。

【図表:主なスマートグラス製品】

【図表:主なスマートグラス製品】

矢野経済研究所作成

スマートグラスの開発が活発化

このように新規参入する事例が増加したのはスマートグラス向けの技術開発が急速に進んだことが挙げられる。

スマートグラス開発に於ける最大のテーマとなっていたのは、実用性が高い透過型ディスプレイの開発で、小型・軽量で高解像度、広い視野角を実現する製品が最近になって相次いで開発されたことが大きい。具体的には(米)DigiLens社のウェーブガイドディスプレイ技術「T-Rex」やフィンランドDisplexの世界最薄(0.3mm)・最軽量ディスプレイ、(英)WaveOpticsの度入りARグラス等が挙げられる。

また、XR機器向けのチップセット開発をリードする(米)QualcommはXR開発に熱心で、チップセットのみならず、XR開発を加速させるための会員組織「Qualcomm XR Enterprise Program(XEP)」(会員企業は建築、航空宇宙、自動車、食品、製薬、エンタメ業界等から100社以上が参加)やARスマートグラス向けにゲームコンテンツ開発のためのプラットフォーム「Snapdragon Spaces XR」を発表し、2022年春には開発したコンテンツを一般公開する予定。更に「Snapdragon Spaces XR Developer Folum」を立ち上げており、端末メーカーMotorola/Lenovo、Xciaomi、OPPOが参画している。

さらに日本のスタートアップ企業cellidはARスマートグラス用ディスプレイモジュールを開発し、サンプル出荷を開始した。

上記にみられるように、スマートグラスの普及に向けた課題は少しずつクリアされている。

スマートウォッチの成功に見るスマートグラス成功のポイント

スマートウォッチは近年最も成功を収めたウェアラブルデバイスである。2021年には全世界で2,000万台を超える出荷台数となった。主な参入企業は(米)Apple、(米)Fitbit(Googleの子会社化)、(中)Huawei、(中)Xioami等が挙げられる。

スマートウォッチで最も成功を収めた製品は「AppleWatch」である、2015年の発売以来、最新モデルのSeries7で8世代目となる。4GLTEセルラー機能搭載を機に一気に販売が加速した。AppleWatchの特徴として、スポーティで高級感のあるデザイン、有名ブランドとのコラボレーション、豊富なカスタマイズ性等が挙げられるが、特にスポーツ&ヘルスケア機能の充実とiPhoneとの連携が最大の魅力である。最近ではNFC対応、IPX等級対応、耐久性向上、情報通知機能強化を図っている。

一方、Xiaomi「Redmi Watch」は実売価格が9,000円以下と安価であるものの、豊富なカラーバリエーションとディスプレイのカスタマイズ性、専用の高速充電搭載で日本でも人気となっている。

これら2点に共通しているのはヘルスケア機能の充実である。心拍数、睡眠モニタリング等、センサリングを重視した商品企画を行った結果、ヘルスケアに関心を持つユーザーに支持されている点で、スマートウォッチ成功の背景には機能面を特化させ、製品の訴求ポイントの明確化できたことが挙げられる。

スマートグラスに於いても注目すべき製品が発表された。2022年第一四半期に中国で販売される(中)OPPO「AirGlass」はスマートグラスとして初めて日常の使い勝手を訴求した製品である。同製品は単眼型ディスプレイを採用し、専用のマウントキットを使用して眼鏡の上から装着が可能となっている。音声コマンドと筐体に装備された「タッチバー」をなぞって操作する。主な機能として双方向翻訳、検索エンジン連携(Baidu)、ナビゲーションが挙げられる。但し同社ColorOS11搭載スマートフォン、OPPOWatch2としか連携出来ない。
同製品に注目する最大の理由はスマートフォンの補助デバイスとしての機能を明確化したことが挙げられる。また日常使いをするための工夫がなされている点は注目に値する。

【図表:スマートウォッチ製品とOPPO AirGlass】

【図表:スマートウォッチ製品とOPPO AirGlass】

矢野経済研究所作成

スマートグラスは成功するか?

前述のOPPO「AirGlass」の価格は公表されておらず、中国国内限定の試験販売となるが今後、他のメーカーから製品が相次いで登場する事が予想され、今後2~3年掛けて様々な製品が提案されプロダクトとして成熟が進むと思う。

 そして、2022年から2023年に掛けてAppleからAR/MRデバイスの登場が噂されている。同社は以前より「ARkit」を配布し、開発者支援を行ってきた。AppleWatchの経験を基に開発することが予想され、少なくともAppleファンを中心に数多くのユーザーを魅了する製品になることが予想される。一説には1,000ドルを超える予想もあるが、世代を重ねる毎に低価格化が図られるかもしれない。発売されれば、XRデバイス市場の勢力図を瞬く間に塗り替えてしまうのは想像に難くない。

スマートグラスはガジェットとしての話題性が先行し、使用するメリットはごく一部に限られていた。多くの技術的課題を抱えるだけでなく、コンシューマーユーザーに広く受け入れられるアプリケーションも存在しなかったのも事実である。
しかし、スマートフォンの補助という一見ありふれた方向性の中に、真の成功のヒントが隠れているのかもしれない。2022年に登場するARスマート製品が今後の市場を占う重要な試金石となるのは間違いないと思う。

賀川勝

関連リンク

■レポートサマリー
XR(VR/AR/MR)対応HMD・スマートグラス市場に関する調査を実施(2023年)
XR(VR/AR/MR)360°動画対応HMD市場に関する調査を実施(2020年)

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賀川 勝(カガワ スグル) 上級研究員
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