矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2010.03.10

リレーションかプロセスか BtoB営業とSFAにみる日米異文化論

死んでは生き返るセールスフォースオートメーション(SFA)ソリューションの歴史

死んだ、などと書いては関係者に怒られてしまうかもしれないが、セールスフォースオートメーション(SFA)の歴史をまとめてみると、浮き沈みの激しいアプリケーションと感じることがしばしばだ。
少し振り返ればセールスフォースオートメーション(SFA)は“使えないツール”の烙印を貼られていた時代があった。しかし、直近では、SaaSの勃興とともにセールスフォースオートメーション(SFA)も盛り上がりを見せ、まさに生き返った感がある。CRM市場全般を見渡しても、この不況下にもかかわらず、前年度比4.1%の成長を見せるなど力強さが表れている。CRM市場の動きについては、弊社が最近リリースした「CRM市場動向に関する調査結果 2010」で概要を記載しているので是非参考にして欲しい。
今回は、セールスフォースオートメーション(SFA)の歴史を振り返りつつ、そのベースとなる“営業”について筆者なりの考えを述べてみたい。

セールスフォースオートメーション(SFA)の歴史 -米国で成功し日本で失敗した理由

まず、改めてセールスフォースオートメーション(SFA)とは何かを確認しよう。セールスフォースオートメーション(SFA)とは、営業プロセスを標準化し、属人性の高かった商談活動の進捗状況などを可視化し、営業活動の効率化を図ろうとするものである
その概念は1990年ごろに提唱されたといわれており、同時期にセールスフォースオートメーション(SFA)分野のリーディングカンパニーであるシーベル・システムズが創業された(2005年にオラクルが買収)。米国ではセールスフォースオートメーション(SFA)アプリケーションの普及は目覚しいものがあった。しかし、日本ではあまり受け入れられることがなく、不発に終わった。その理由にアメリカと日本での営業形態の違いをあげる声は多い。

そもそも、米国のセールスは離職率が高く、多くが歩合制なため個人レベルで顧客を獲得していくべく動機付けられている。それゆえ企業内部にセールス・ノウハウが蓄積されにくい側面があった。そこで一定の営業プロセスを確立し、各員の動向を管理することで、品質を維持しようということを目的にセールスフォースオートメーション(SFA)が開発された。
一方で、日本の営業マンは終身雇用の中、ヒエラルキーの上層(管理職、経営職)へとステップUPしてゆくことが前提とされている。つまり、営業マンは単に物を売るだけではなく、部下の管理・育成や継続的な顧客の管理といったこともミッションのひとつとなっている。そのため日本の営業スタイルは、顧客とのリレーションが重視されるのである。
こうした特徴を大雑把に分類すれば、上長が営業マンの商談プロセスを管理しようとするプロセス管理型(=米国型)と、中長期的なリレーションシップ構築や上下とのコミュニケーションを重視するリレーションシップ型(=日本型)と位置づけることができるだろう。この違いが日本でのセールスフォースオートメーション(SFA)導入の壁になったわけである。

その後、日本でセールスフォースオートメーション(SFA)は、グループウェアの広まりと合わせ、1990年代半ば~後半にかけて普及してきた。特に和製ベンダーはロータスNotesのアドオン機能を利用して独自のセールスフォースオートメーション(SFA)を開発・販売するようになった。
この背景には、米国に無くて日本にある営業関連帳票“日報”の存在がある。日報を通じた営業情報の“報連相”(ホウレンソウ、報告・連絡・相談のこと)は日本の営業現場に根付いており、定性情報の交換に強いグループウェアがそのシステム化に貢献したのである。
しかし、営業現場ではITリテラシや情報インフラが未熟であったことや、入力負荷の増大などが嫌気され、次第にブームは消え去ってしまった。考えても見れば、1990年代後半といえば、パソコンの世帯普及率は僅か3割強程度であり、当時はPCを扱える人材もPC台数も少なかった。IT関連企業ならまだしも、一般的なユーザー企業の営業マンにとっては、セールスフォースオートメーション(SFA)は敷居の高いシステムであったことだろう。

そして、現在、セールスフォースオートメーション(SFA)はバックオフィスと連動するなど機能も充実化し、フロントエンドで役立つ、営業マンの支援ツールとして見直されるようになってきている。特に昨今はSalesforce.comがSaaSモデルで旋風を巻き起こし、久しぶりにセールスフォースオートメーション(SFA)が注目を集めることになった。

“信頼を売る”のがセールス活動の本質

ところで、私は、BtoBにおけるわが国の営業スタイルの特徴は、顧客ニーズの吸い上げと製品情報の提供というプロセスを通じて、信頼関係を構築してゆく点にあると考えている。

営業マンと顧客は最初は見知らぬ関係であるが、営業マンは、「この会社なら買ってくれるだろう」と顧客ニーズを想像しながら製品の情報を顧客に説明し、きっかけをつかもうとする。他方、顧客は、半分怪しみながらも、自社のニーズを営業マンに伝え、より良い製品がないか探索しようとする。これが商談の始まりだ。

その後、営業マンは聞き出した顧客ニーズに応えるべく製品・価格・仕様の情報を提供し、顧客は価格や仕様などについて、さらに自社ニーズ(多くは、安くしろ、ということだが)を伝達する。契約が成立ないしは破棄されるまで、こうした交渉が繰り返されることになる。

ここで重要なのは、顧客はこうしたやりとりを通じて営業マンを評価し、信頼すべきか相手か否か意思決定していることである。つまり、商談とは、単なる製品とニーズの情報伝達ではなく、信頼関係を構築する場として非常に重要な役割を担っているのである。  

営業と顧客の信頼関係構築プロセス
営業と顧客の信頼関係構築プロセス

米国のように、細かな契約をしない日本では、暗黙的に信頼関係を重視しているといえよう。信頼をベースにしているからこそ、詳細な契約は抜きにビジネスが進められるのである。

また米国や、成長著しい中国でもそうであるが、自社の営業マン同士が顧客情報を共有するという文化はあまりない。しかし、日本では、営業マン同士も信頼関係をベースに情報共有が志向される。
まとめれば、米国、日本、どちらが優れているということではないが、顧客とのリレーション、仲間との情報共有というものが重視される点が、日本の特殊性になっているのである。

セールスフォースオートメーション(SFA)はセールス文化の進化に追随せよ

上述の通り、過去、セールスフォースオートメーション(SFA)は日本文化への適応に失敗し、消えていった経緯がある。しかし現在、条件は大きく変わってきた。ひとつはグローバル化の進展だ。世界のどの支店においても同じツールを使おうとすれば、おのずと導入すべきセールスフォースオートメーション(SFA)ツールは限られてしまう。グローバルで考えれば、日本独自といった概念を持ち込むことはむしろ悪影響を及ぼすことになる。
ITリテラシも以前と比べ格段に向上しており、今ではPCや携帯電話がなければ仕事にならない、という営業マンが圧倒的な多数であろう。
ツールの使い勝手も向上しており、簡易なカスタマイズであれば、各個人の好みで簡単に設定変更することもできるようになってきた。このように、文化、ITリテラシ、ツールの使い勝手といろいろな面でセールスフォースオートメーション(SFA)を取り巻く環境は変わってきた。セールスフォースオートメーション(SFA)にとっては、有利な環境になってきたといえ、いよいよ“生き延びる”ことができるようになるかもしれない。

しかし、このままでいいのかと言えば、まだ不満もある。マーケティングやセールスの概念も、ソフトウェアに負けず劣らず進化しているにも関わらず、なかなかそれが反映されないからである。

例えば、セールスにおいては数年前からNLP(神経言語プログラミング)と呼ばれる手法が広がりを見せている。クライアントとの信頼関係(ラポール)の構築を誰でも容易に構築できるような技法をモデル化したものであるが、営業現場でも使われ始めている。
また、コーチング技術も営業現場で応用されるようになっており、顧客相手にオープンクエスチョン・クローズドクエスチョンなどの技法を駆使し、潜在ニーズを明らかにするようなことが行われている。
こうしたセールス技術は本質的には営業マン個人の能力に依存するところが大きいが、例えば、顧客との接触履歴に応じて、効果的なアプローチのやり方を携帯電話を通じてアドバイスするようなセールスフォースオートメーション(SFA)があっても良いのではないだろうか。

マーケティングにおいても、クチコミ・マーケティングであったりエモーショナル・マーケティングであったりと、常に新しいものが輸入・開発されている。CRMツールとTwitterとの連繋といった、IT×ITの連繋は簡単に実現されるが、セールス×IT、マーケティング×ITの連繋は、本当に実現できているのか、改めてベンダーに問いかけたい。

CRMアプリケーションがコモディティ化していく中、選ばれるソフトウェアになるには、常に新しいノウハウを注入していかねばならないだろう。営業現場に生まれる新たなニーズを取り込みつつ、同市場が今後も進化してゆくことを期待したい。

忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
市場環境は大胆に変化しています。その変化にどう対応していくか、何をマーケティングの課題とすべきか、企業により選択は様々です。技術動向、経済情勢など俯瞰した視野と現場の生の声に耳を傾け、未来を示していけるよう挑んでいきます。

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