矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2021.04.26

新技術・新事業の位置づけを考える

新技術・新ツール・新ビジネスを向き合ってきた10年

ここ10年程度、クラウド、ビッグデータ、IoT、AIなど、その当時“新テクノロジー”と呼ばれるものを調査し、レポートすることを繰り返してきた。弊社の自主企画レポートとして発刊するために考察したものもあれば、企業からのご依頼で市場の未来を考察してきたものも多い。
上述したクラウド等のテクノロジーは、10年かけて次々と登場し、ここ直近では、一旦、落ち着いたように見えている。これからは、これらを組み合わせたり、高度に応用することによって、ビジネスイノベーションを実現する企業が次々に登場してくるのだろうと考えている。
但し、この落ち着きはせいぜい1~2年だろう。米中の激しい研究開発競争を潜り抜け、斬新なテクノロジーがすぐに市場に登場するであろうことは想像に難くない。次の舞台は宇宙であろうか、脳であろうか。まだまだ探求の足りない領域は無数にあるはずだ。

とはいえ、矢野経済研究所はテクノロジーを専門に研究する機関ではない。我々は常に“マーケット”という目線で新テクノロジーに向き合っている。いわばテクノロジーとマーケットの間にいる者として、こうした社会・経済の変化をウォッチしているといえる。

今回のアナリストオピニオンでは、そうした立場の視点から、新テクノロジーの発展推移を概観してみたいと思う。

新技術・新事業のポジショニングマップ

【図表:新技術・新事業のポジショニングマップ】

図表:新技術・新事業のポジショニングマップ

作成:矢野経済研究所

図に示したのは、新技術・新事業のポジショニングマップである。新技術や事業は、普及に至るまで段階を踏んで成長しており、その流れをマトリックスで表現したものである。なお、ここでの新技術・新事業は、基本的にはICT産業を想定している。

縦軸に置いたのは、市場からの期待度である。マーケットをウォッチする立場からすれば、市場からの期待度は無視できない。また実際に萌芽期・黎明期では、市場からの期待が技術や事業を育てている部分がある。ここでいう期待は、“良く分からないからこその期待、わくわくするような期待”という感覚的なものも含む曖昧なものと解釈して欲しい。

横軸には、技術や事業の新規性・成熟性を置いている。成熟性とは、ここでは“使いこなせるか”という側面が強い。新しい技術は、それが革新的なものほど、ユーザ側は使いこなすのに苦労する。この解消を実現することが、普及速度に影響しているように思われる。

各象限には、3つの観点で特徴を記した。白文字は企業のマネーの観点からの当該領域における特徴である。投資か回収をどうみるかという問題である。その下の水色の四角には、市場における特性を記載した。青太文字は、市場における認知度合いを示している。マーケティング活動とは、市場との対話であり、顧客側の認知を無視したマーケティング活動はありえない。

■段階Ⅰ
投資初期に該当し、市場では萌芽期と呼ばれている段階である。市場での認知は低く、技術は確立したが、これをどう活用すべきか考えているような段階である。弊社においても、技術に目鼻が立った段階で、当該技術の潜在需要を探索したい、という依頼がくることがある。

■段階Ⅱ
市場の黎明期であり、模索している段階である。投資規模は拡大し、製品化・サービス化もある程度は出来上がり、メディアなどを通じて市場にさらされ始めた時期である。認知度も高まり、商談回数も増加しているような動きにあたる。
市場へのアプローチが増えるため、逆に市場からのフィードバックも高まり、新しもの好きな顧客からの期待度は高まっていく段階である。
もちろん、ダメなものは市場から厳しく評価され、ここで撤退していくものも多い。

■段階Ⅲ
製品やサービスの完成度も増してきて、認知度も高まり、ビジネスとして確立してくる段階に該当する。新たな顧客の要求に対応しながら、多くのユーザが使いこなせるよう、さまざまな改良がおこなわれていく。

■段階Ⅳ
成功事例・失敗事例を含めてメディアに情報が流布され、認知度が高まり、徐々に市場からの期待は現実的なものへと落ち着いてくる段階である。わくわくしながら導入するというよりも、「この機能を実現するために、この技術・サービスを適正コストで調達する」というような明確に意図あるものとして購入される。提供サイドは、サービス実装のための付加機能なども増加させ、また、ユーザ側の習熟度も上がり、普及段階に突入したころである。

矢野経済研究所 研究レポートをプロットすると

矢野経済研究所 ICT・金融ユニットでは、新テクノロジーに関するレポートを随時発刊しているが、レポートして編纂できるのは、段階Ⅱからである。過去に発刊したレポートでいえば、段階Ⅱに該当するのは下記のようなレポートがある。
これらは市場の形成度合いはまだまだ小さく、ベンダ側も投資段階と認識しているような市場である。公的機関からの研究開発投資もあるが、市場からの期待が高いものとなっている。

段階Ⅲになると、ビジネスとして動きだしているものとなる。DXなどはこのポジショニングマップにはあまりフィットしない概念となるが、強いて言えば段階ⅢないしはⅣに突入したころになるだろう。

できることならば、抽象的な基軸ではなく、定量的に技術テーマを本マップにプロットしたいところである。我々の力不足もあって、概念整理にとどまっており、歯がゆく感じているところであるが、一つでも多くの新技術やサービス、事業が段階Ⅳへと踏み入れられるよう、調査・マーケティングというツールを武器に、皆様のビジネスに貢献できればと考えている。

忌部佳史

関連リンク

■レポートサマリー
国内スマートシティ市場、都市OS実装エリア数を予測(2020年)
量子コンピュータ市場に関する調査を実施(2020年)
DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する動向調査を実施(2020年)

■アナリストオピニオン
あらゆる産業において量子コンピュータがもたらす影響度合いを注視せよ

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忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
市場環境は大胆に変化しています。その変化にどう対応していくか、何をマーケティングの課題とすべきか、企業により選択は様々です。技術動向、経済情勢など俯瞰した視野と現場の生の声に耳を傾け、未来を示していけるよう挑んでいきます。

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