矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2019.09.06

国内におけるブロックチェーン活用に関する現状と課題

ブロックチェーンについて、PoC(Proof Of Concept)を通じて活用の幅が急速に広がりつつある。一方でPoCの先、効果検証や商用化に至っている事例が少ないのが実情である。本稿では、現状の活用状況や既存のデータベースとの使い分け、課題などについてまとめておきたい。

ブロックチェーンの定義と現状の活用状況

■ブロックチェーンの定義
ブロックチェーンについては、ざっくりとブロックチェーンについて記載したうえで、肝心の活用状況についてみてみたい。さまざまな定義があるものの、本稿では「①P2Pネットワークを利用し、②データの改ざんができないため、真正性が保証されており、③ブロックチェーンに記録されたデータは消えることなく、データのトレーサビリティが可能であり、④透明性の高い取引ができる仕組み」と定義しておく。

通常、ブロックチェーンは、大きく3つのレイヤーに分けることができる。まずLayer1について、同レイヤーは基盤技術であるHyperledger FabricやEthereum、Bitcoin Coreなどが該当し、国内の事業者としては、ソラミツやbitFlyer、Layer Xなどが存在する。続くLayer2は、Layer1の上位層として、ブロックチェーン外(off-chain)技術が該当する。具体的には、Colored CoinやSidechain、Lightning Networkなど、さまざまな技術が存在する。

そしてLayer3。同レイヤーは、ブロックチェーンを活用したアプリケーションが位置付けられる。ゲームコンテンツやスマートロックなど、SDKを活用したさまざまなアプリケーションがあり、暗号資産も同レイヤーに位置付けることができる。さらにLayer1~3までをカバーしたものとして、BaaSソリューションがあり、日本マイクロソフトやAWS、日本IBMなどの大手ITベンダーが提供している。

 

【図表①:3つのレイヤー】

図表①:3つのレイヤー

■現状の活用状況
現状の活用状況について、PoCレベルのものが多く、筆者が調べた際には、貿易金融やポイント、真贋証明などの認証、医療情報、公共など、幅広い領域にわたって実験がなされていることが分かっている。

しかし、PoCの次、ビジネスモデルなどを具体的に検討する「効果検証」や本番環境で動く「商用化」に至っている事例は限られている。その意味では、ファーストペンギンが飛び込み、現在、泳ぎながら先行者利益を得るべく探索を続けている状況にある。

各論で見た場合、大きく金融系と非金融系で分けると、当初は仮想通貨の基盤として登場したこともあり、金融領域でブロックチェーン活用に向けた実証実験が相次ぎ、多くは効果検証などを見据えたものではなく、ブロックチェーンを活用して何ができるのか、お試しのPoCが多くを占めた。一方の非金融領域は、2018年ころから徐々に活発化しており、認証やサプライチェーン、医療、IoTなど幅広い業界に及ぶ。こちらは効果検証や商用化を見据えたPoCが出てきており、ブロックチェーンの向き合い方において金融と非金融では異なっている。

注目事例

■金融領域
金融領域、非金融領域に分けて、直近の事例について紹介したい。まず金融領域での事例として、地方銀行連合による金融プラットフォームの構築事例で、実際に運用を開始している事例である。青森銀行や秋田銀行、岩手銀行、山梨中央銀行は、日本IBMとともに共同で金融サービスプラットフォームの構築、運用主体として株式会社フィッティング・ハブを設立、2019年3月から運用を開始している。

同プラットフォームは、金融機関や事業者が共同で金融関連サービスを提供するために、クラウド上に構築した基盤システムとなっている。従来のシステムは、各行のWebサービスを通じて顧客と銀行が1対1でやり取りをしていたため、ユーザーは銀行ごとに設置されたWebサービスを利用していた。しかし、今回のプラットフォームでは、銀行側のデータをブロックチェーンで共有し、顧客は共通の認証システムを介してアクセスできるため、ユーザーはプラットフォームにアクセスすることで、金融機関を意識することなくサービスを利用できる仕組みとなっている。

昨今、地方銀行を中心にホールディングスを創設するなど、集約化の流れがある中で、こうしたプラットフォームを構築することで、UI・UXが格段に上がるため、参考にしてみてはどうだろうか。

 

【図表②:複数の地方銀行が連携した金融サービスプラットフォーム】

図表②:複数の地方銀行が連携した金融サービスプラットフォーム

出典:岩手銀行、ニュースリリース「金融サービスプラットフォームのサービス開始について」(2019年3月)を基に矢野経済研究所作成

■非金融領域
一方、非金融領域の事例として、ソニー・ミュージックエンタテインメントの事例がある。音楽制作プラットフォーム「soundmain(サウンドメイン)」を開発、2019年4月にティザーサイトをオープンしている。

同プラットフォームは、ソニーグループが持つAIなどのテクノロジーや、ソニーミュージックグループが持つ音楽制作や権利情報処理のノウハウを活用した音楽制作プラットフォームとなっている。具体的には、共同制作等の複数クリエイター間の同意をブロックチェーン上に記録する機能や、記録を利用した著作権の登録を効率的に処理する機能などを備えている。

このソニー・ミュージックエンタテインメントの取組みは単なる自社内の効率化を目的としたものではなく、将来的にスピンアウトさせて、音楽業界のプラットフォームとして展開していく可能性があるとみており、動向に注目している。

既存システムとの使い分け

ブロックチェーンと既存のデータベースとの使い分けも気になる話題の1つである。少し強引に線引きするとすれば、従来のデータベースは社内やグループ内での情報共有などで主に使うものである。一方、ブロックチェーンは競合を含めたステークホルダーとの情報共有を行うための技術として位置付けるのが分かりやすい。

そう考えると、ブロックチェーンの採用に際しては、向き/不向きが見えてくる。最も向いているのが、貿易金融や先に挙げた事例のように、複数企業(個人も含む)が情報共有するケースであろう。また、従来人手で対応してきた作業やシステム化されていない作業をブロックチェーン化することで、効率化を図るという面でも威力を発揮する。

一方、ステークホルダーとの情報共有を行う理由が見当たらない場合や、一度ブロックチェーンに載せるとデータを消せない以上、コア技術やノウハウ、個人情報などの機微情報を直接載せる必要がある場合には、ブロックチェーンは向かないといえる。

ブロックチェーンが抱える課題

■ハード面
ブロックチェーンが抱える課題について、ハード面とソフト面に分けてみてみたい。ハード面について、ブロックチェーン自体は、オープンソースであるため、未成熟な面が多くあるのは確かである。しかし、より使い勝手の良い仕組みにすべく、世界中の企業や技術者が解決に向けて取り組んでおり、優先順位の差はあるものの、いずれ解決に向かうとみられる。

この前提に立ったうえで、取材をしていると、優先度の高い課題として、「ブロックチェーン同士の相互運用性」や、バージョンが上がった際に、以前のバージョンで使えたアセットが新しいバージョンでは使えないといった「コンパチビリティ(compatibility:互換性)」を挙げる企業が多い。

前者の相互運用性については、既に2017年4月からISO/TC307において、国際標準を構築すべく、データ形式や機能を含めた規格を定めるべく活動が行われている。また、互換性を解決するプロジェクト「Cosmos(コスモス)」が発足、2019年3月に本格稼働するなどの動きもあり、解決に向かいつつある。

一方、後者のコンパチビリティについては、現時点では現実解が見出されていないものの、いずれ解決に向かうとみられる。

■ソフト面
次にソフト面である。本稿では主に技術者不足の面とGDPR対応を挙げておきたい。まず技術者不足である。現状、需給がアンバランスとなっており、技術者の育成、供給が急務となっている。ブロックチェーン事業者の中には、「ビジネスサイドの人材がいる一方、ブロックチェーン技術者を抱えていないケースが多い」と指摘する声もある。

そうした中、現在、ブロックチェーン推進協会はブロックチェーン大学校と協力して講座を提供しているほか、フレセッツ×HashHubによる「ブロックチェーンエンジニア集中講座」をはじめ、ブロックチェーンエンジニアの育成に向けた講座や情報発信を通じて、需要に応えるべく努力している状況にある。

次にGDPR(一般データ保護規則)への対応がある。ブロックチェーンは、改ざんできないため真正性が担保されている一方、GDPRは個人情報の削除権を保障している。この矛盾を解くための現実解の1つとして、ZEROBILLBANK JAPANとトッパン・フォームズの取組みがある。

具体的には、トッパン・フォームズのPDS(パーソナルデータストア)と、ZEROBILLBANKのZBB COREを連携し、機微情報はPDSに保管し、ブロックチェーン上に発生源(=PDSの棚番)のみ共有する手法によって、ブロックチェーンが抱えるGDPRを巡る課題について解決を図っている。

 

ブロックチェーン活用サービス市場規模

【図表③:国内ブロックチェーン活用サービス市場規模推移予測】

図表③:国内ブロックチェーン活用サービス市場規模推移予測

矢野経済研究所推計
注:事業者売上高ベース
注:2019年度見込値、2020年度以降予測値

ブロックチェーン活用サービスの市場規模予測(事業者売上高ベース)について、2022年度には1,235億円に達すると予測しており、2017年度~2022年度の5年間での年間平均成長率(CAGR)は108.8%とみる。

フェーズ(段階)別では、実証実験が多いものの、2019年度以降、商用化に向けた効果検証フェーズや本格的な商用化フェーズへと進む案件が増えていくと考える。

導入領域別では特にサプライチェーンや仮想通貨などを含めた価値の流通などに係るプラットフォーム、IoTをはじめとしたプロセス・取引の効率化などを中心に、ブロックチェーンの活用が進むとみる。

山口泰裕

関連リンク

■レポートサマリー
ブロックチェーン(Blockchain)活用サービス市場に関する調査を実施(2019年)
国内FinTech(フィンテック)市場に関する調査を実施(2019年)
国内FinTech(フィンテック)市場に関する調査結果 2015

■アナリストオピニオン
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ITを通じてあらゆる業界が連携してきています。こうした中、有望な業界は?競合・協業しうる企業は?参入障壁は?・・・など戦略を策定、実行に移す上でさまざまな課題が出てきます。現場を回り実態を掴み、必要な情報のご提供や戦略策定のご支援をさせて頂きたいと思います。お気軽にお声掛け頂ければと思います。

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