自治体クラウドとは、地方自治体が管理する住民基本台帳や税務、福祉などの基幹系データを外部のデータセンター/クラウドに移管し、それを複数の自治体で共同利用する仕組みである。
尚、本項では参画自治体間で協定が結ばれていることを自治体クラウドの前提とする。
日本では1980年代以降、財政赤字削減策の一環として行政コストの抑制を進めている。
具体的には、政府・中央省庁や地方自治体、独立行政法人/公益法人といった公的機関での運用コスト抑制を目的に、人件費や資材調達コスト、システム費、各種外部委託コストなどの低減化を図っている。
この文脈で自治体業務の効率化・低コスト化は大きなテーマ(補助金の削減)であり、国としてはIT活用に着目した施策として「自治体業務における情報システム活用の強化」、「住基ネットやマイナンバー制度の導入」、さらには「自治体システムのクラウド化」などを進めている。ここで、自治体システムのクラウド化による導入メリットとしては、以下のような点が指摘できる。
①情報システム経費及び関連コスト(印刷関連コストなど)の削減・抑制②自治体クラウド活用による地方自治体でのセキュリティ水準の向上③BCP対応力の向上(事業継続対応力の強化)④参加団体間での業務の標準化及びそれに付随した行政コストの削減⑤(システムコスト削減に起因したリソース再配分による)住民サービスの向上⑥システム関連部門における人手不足対応など
2018年6月の各府省庁情報化統括責任者(CIO)連絡会議において、「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係わる基本方針(案)」を公表。ここでは、政府情報システムは‘クラウド・バイ・デフォルト原則’として、クラウド活用を一義的に検討することを推奨している。
クラウド・バイ・デフォルト原則に基づく検討プロセスは以下の通りであるが、クラウドサービス利用が難しい場合や、クラウド活用メリットが少ない場合(コストメリットがない等)では、オンプレミスも許容している。
【クラウド・バイ・デフォルト原則に則った自治体システムの検討フロー】
出典:2018年6月「各府省庁情報化統括責任者(CIO)連絡会議」
行政コスト削減の政府方針を受けて、総務省では自治体でのクラウド活用を推進。特に、自治体クラウドと呼ぶ自治体システムの共同利用型の仕組みの普及を進めている。 自治体クラウドはまさに行政コスト削減策に沿った施策であり、実際には、「自治体クラウド+BPO(印刷業務代行サービスなど)」により運用コストが3割ほど削減されることが期待される。尚、それまでの共同運用などへの取り組みやBPOの活用如何などでコスト削減割合は変動し、一般的には3割前後が目標となっている模様である。
マイナンバー制度の導入によって、自治体における個人情報管理の重要性が格段に高まった。加えて、自治体でのクラウド活用/インターネット活用の推進もあり、自治体における情報セキュリティ対策の強化が必須となっている。
ここで、自治体でのクラウド活用/インターネット活用の実効性を担保する上で、「自治体情報システム強靱性向上(セキュリティ強靭化)」及び「自治体情報セキュリティクラウド(セキュリティクラウド)」の導入が図られた。これにより、自治体の情報セキュリティ対策は格段に向上し、自治体クラウドの普及に弾みをつけた。
総務省では、2023年度末までに1,600団体でのクラウド移行を目指している。この内訳は、自治体クラウドで約1,100団体、単独クラウドでは約500団体を想定している。
2018年4月段階での自治体クラウド導入実績は378団体で、総団体数(1,741団体)に占める割合は、まだ21.7%に止まる。また単独クラウドを含むクラウド導入団体数は1,067団体で、これは同61.3%に達している。このように現状でのクラウド活用は、単独クラウド主体であることがわかる。
現在、自治体クラウド導入団体数は、2023年度の目標値(約1,100団体)の34.4%に止まるが、2021~2023年にかけて基幹系システムを中心に更新時期への移行が見込まれることから、その期間に自治体クラウド導入団体数は現在の2.5~3.0倍に拡大し、2023年度には950~1,100団体に達すると予想する。この数値はほぼ総務省の想定と合致しており、総務省目標の実現性は高いと判断する。
2023年以降も、クラウド未導入団体(主に中核市以上の大規模都市)への普及は進むと見るが、後述するような背景からクラウド普及スピードは鈍化すると予想され、最終的には2030年頃をターゲットに自治体での行政システムのクラウド化は完成すると考える。
自治体クラウドは今後、順調に導入が進むと考える。
その一方で、人口規模20万人を超える中核市クラスになると、クラウド型システムよりは各団体の業務に則った独自システムを構築する蓋然性が高くなる。特に、東京23区や政令指定都市クラスになると予算面での制約が少なく、人的リソースも充分である場合が多いことから、この規模の団体ではオンプレミス/スクラッチ型のシステムが主流になっている。
今後、行政システムのクラウド化を図る上では、このような点は阻害要因になると考える。国としては早期に行政システムのクラウド化を実現したいと考えているが、中期的にはその実現は難しく、10年程度の先を見据えた長期的な目標になってくる。
一方で、ITベンダーから見ると自治体でのクラウド活用は違った景色になる。
クラウド活用(パッケージ活用)は、ITベンダーにとっては収益を低下させる要因と捉えることが出来る。そのためITベンダーでは、できるだけオンプレミスの仕組みを残そうとするモチベーションが働く。この場合、上述した中核市クラスより上の自治体では、予想よりもクラウド化が遅れ、一部では2030年以降にずれ込む可能性も否定できない。
このように、自治体クラウドの完全普及には、人口規模20万人以上の団体での普及がポイントになると考える。
(早川泰弘)
■レポートサマリー
●自治体向けソリューション市場に関する調査を実施(2024年)
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