矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2018.11.12

スマホで自動車の開錠/施錠が出来る日

日本市場においてスマートフォンの普及率が急上昇している。仮想通信事業者による「格安スマホ」に加え、大手通信事業者が従来型携帯電話(フィーチャーフォン)からの移行促進策が功を奏したことが大きい。携帯電話の料金値下げを官民一体となって推進した結果とも言える。

スマートフォンは通話、ネット、SNS、ゲーム、おサイフケータイ中心に利用されてきたが、現在は機器間連携、セルフケア、スマートホームといったより広範囲への活用が進んでいる。しかし、自動車とスマートフォンの連携はあまり進んでいなかった。最近ではMaaS(Mobility as a Service)、CASE(Connected/Autonomous/Shared&Services/Electoric)に代表される新しい自動車ビジネスの在り方を模索する動きが活発化しており、スマートフォンと自動車の連携にも関心が高まっている。

スマートフォンを活用した車載スマートロックが普及してこなかった理由

その中でスマートフォンを自動車のドアロック開錠/施錠の鍵として使用する「車載スマートロック」は誰でも考え付く利用法であり、一見ハードルは低そうに見えるがほとんど実現してこなかった。その理由として大きく3つの理由が挙げられる。

・自動車のセキュリティに直結する非常にナーバスな問題であること
・自動車メーカーの管理が及ぶ範囲に収められないリスクがあること
・規格化されていないこと

セキュリティ面においては、自動車盗難は業界のみならず社会全体が抱える問題であり、安易な導入は問題を助長させるリスクもあるため、自動車メーカー各社は導入に慎重だった。昨今、イモビカッターによる盗難増加が世界中で問題となっている事もメーカーが慎重になる大きな要因となっている。

また、スタートアップやGoogleのような巨大企業に「車載スマートロック」のプラットフォームを握られるリスクもあったが、良くも悪くもApple「CarPlay」、Google「AndroidAuto」の動きを見る限り、当面これらの企業によって自動車ビジネスの根幹を揺さぶる可能性は決して高くないと判断したのかもしれない。

車載スマートロックの国際規格化

一方でこれまで開発されてきた車載スマートロックは自動車メーカーもしくは大手部品メーカー独自の仕様であり規格化が図られていなかった。今後、異なるメーカーの自動車を同一プラットフォーム上で運用するカーシェアのようなケースを視野に入れると規格化は必然であったと言える。

自動車のIT化を推進する国際団体CCC(Car Connectivity Consortium)は2018年6月にスマートフォンを自動車のキーとして使用するための標準規格「Digital Key 1.0」を発表した。この規格はユーザーが「デジタルキー」をセキュア環境下でスマートフォンにダウンロードして運用するルールを提示している。「Digital Key 1.0」環境下ではNFC・BLE(Bluetooth)を用いて車両の開錠/施錠、エンジンスタートが可能となっている。2019年を目途に次世代規格「Digital Key 2.0」の策定を進めており、車両・デバイスの相互運用を可能とすることを目標としている。

「Digital Key 1.0」はオーナーカーを家族内で共用することを想定している一方、「Digital Key 2.0」では複数所有する車両を家族内で共有するイメージとなる。「Digital Key 2.0」ではカーシェアリングサービスや物流トラック、営業車両の共用などの利用が想定されている。

CCCはIT産業、自動車メーカー約80社が加盟しており、過去には「MirrorLink」の策定した実績を持つ。主な加盟企業はApple、AUDI、BMW、Continental、DENSO、Gemalto、GM、HYUNDAI、NXP、Panasonic、Qualcomm、SAMSUNG、VW等。

スマートフォンを活用している自動車メーカーは少なく、2018年秋時点では(独)BMW車の一部で採用が始まったのみである。2018年秋にフルモデルチェンジした同社の中核モデル新型3シリーズで本格採用したことで競合メーカーの主力モデルでも順次採用が進む可能性が高い。既にVOLVOやAudi、Mercedes-Benz、Tesla等の著名なメーカーもサポートを表明しており、いずれ国内メーカーにも波及するであろう。

車載スマートロックが拡大することで鍵穴利用が更に少なくなり、普段はカバーで覆われるか鍵穴そのものが無くなる車両の増加が見込まれる。その結果デザイン面に加え、空力でのメリットが高まり商品力の向上が期待できる。更にセキュリティ性能が高まるため、自動車盗難のリスクを減らせるメリットが生じる。また、スマートフォンには専用アプリをインストールするため、カスタマーサポートをはじめとする様々なサービスを顧客は享受する事が可能となる。自動車メーカーは利用履歴、車両情報を得られるだけでなく、盗難が発生した場合にも追跡する事が可能になるなど新サービスの開発やCS向上に繋げることができる。

【図表:CCC参画自動車メーカー】

【図表:CCC参画自動車メーカー】

出典:CCC(Car Connectivity Consortium)

全方位で将来の自動車ビジネスに備えるトヨタ

現在、車載スマートロックビジネスに取り組む企業の中核はBOSCH、Continental、Valeoといった大手自動車部品メーカーである。2019年以降、ドイツの自動車メーカーはこれら大手自動車部品メーカーが開発した車載スマートロックを順次採用する見通しとなっている。

一方、車載スマートロックで対応をしているのは先行するメーカーと異なる対応をしているのがトヨタである。トヨタは(米)Getaround社、「avis budget group」との提携、滴々を中心とした企業連合へ参画など、海外での企業提携にも積極的である。国内でも先日発表されたソフトバンクとの提携やパーク24との取り組み、そして愛車サブスクリプションサービス「KINTO」の発表や国内販社の見直し・車種削減など将来の自動車ビジネスの変化を見越して様々な面で見直しを進めており、それらは「モビリティサービス・プラットフォーム」(MSPF)上に構築されている。

MSPFでは通信サービスが必要不可欠であるが、外付け型の車載スマートロック機器「スマートキーボックス(Smart key box, SKB)」を開発している。他にも撮影画像をリアルタイムで送信可能な通信型ドライブレコーダー「TransLog」を開発しており、既にコネクテッド化の下準備は整っている。今後市場導入される新型車はよりコネクテッド化への対応が進む。

既存の自動車メーカーでトヨタほどの将来に向けた提携や技術開発を行っている会社は他に存在せず、トヨタの深慮遠謀ぶりが際立っている。

【図表:トヨタ モビリティサービス・プラットフォーム 概念図】

【図表:トヨタ モビリティサービス・プラットフォーム 概念図】

出典:トヨタ自動車

2020年以降、車載スマートロックを搭載した自動車が増加

車載スマートロックは単純なスマートフォンでの開錠/施錠、エンジンスタート機能の提供に留まらず、ユーザー、自動車メーカー、ディーラーを繋ぐ有力なツールとなるのは間違いない。一方で将来的には新しい自動車ビジネスを構築する上での重要なプロットフォームに成り得ることがはっきりしてきた。特にカーシェアリングや自動車を宅配ロッカーとして活用する事例は脚光を浴びそうである。

自動車メーカーが車載スマートロックの導入が進まないのは実は前述の理由以上に、「パンドラの箱」となり得る事からその運用と影響を正確に見極めていていたのが隠された理由ではないだろうか?

スマートフォンと自動車が繋がる事のインパクトは私たちが想像している以上に様々な可能性を秘めている。日本市場では外国車から車載スマートロックに対応した自動車が導入される可能性が高いが、2020年以降は国産車についても車載スマートロックに対応した自動車が増加すると予測される。

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賀川 勝(カガワ スグル) 上級研究員
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