矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2017.05.23

ブームの最中にあるAI(人工知能) 2017年~2020年の真の実用性を考える

AI(人工知能)は日々メディアを賑わせる「ブーム」となっているが、現実のビジネスや社会とAIの関わりについてイメージできているだろうか。「AIは凄い。もうずいぶん利活用が進んでいる。」そう思う人は、AIが囲碁や将棋で人間に勝利したり、「AI搭載」の製品やサービスが多数登場したりしていることを念頭に置いているかもしれない。他方で「AIだなんて最先端すぎて普通の会社にはまだ関係ない。」と考える人も多いだろう。
本稿では、今現在、一般の企業やビジネスパーソンにとって実用的なAIとは何かを考察したい。

AIに関しては誤解も多い。「囲碁や将棋で人間を負かすのだからAIは驚異的だ」と考えるのは誤解だ。ゲームのルールが与えられた上での予測やシミュレーションを高速・多量に行う能力でコンピュータが優れているのは当然といえる。現存するすべてのAIは、人間が定めたルールとゴールに従い特定の作業を行うものである。人間と同じような人工的な知能、いわゆる「汎用AI」は存在せず、実現するのもまだ当分先のことになりそうだ。
他方で、特化型のAIはごく身近な技術となっている。実用的で一般企業でも使えるAI技術は何か、①今現在(2017年)及び②2-3年先(2020年)という観点で2つの技術を取り上げたい。

2017年現在実用化されている技術例:画像認識

画像認識はAIが高いパフォーマンスを発揮している分野で、セキュリティ、店舗の来店者分析、ECなど用途が広がっている。AIブームを牽引する技術であるディープラーニングとの相性がよく、顔認証で人間の目視以上の能力を発揮するものや、医師より高確率に悪性腫瘍を発見するものなど、高精度の画像認識システムが開発されている。

身近でAIが活躍する好例は、パンの画像認識により瞬時に会計を行うシステムだ。株式会社ブレインが開発したBakery Scan(ベイカリースキャン)は、2017年現在で全国の約100店舗に約180台が導入されているという。

パン屋でトレーに好みのパンを乗せてレジに持っていくとレジ係が種類に応じて値段を打ち込んで会計をする、レジ前での長い行列を含めて経験があるだろう。Bakery Scanではパンの種類ごとに特徴量を定義し学習させ、レジ前で撮影した画像でパンの種類を自動的に判別、合計価格を瞬時に計算するシステムだ。パンは一つ一つ色や形が異なるが、同じ種類として認識できる。会計を効率化したくてもパンはバーコードを貼れるものではなく今まではレジ係が種類を覚えるしかなかったのだが、画像認識というAI技術が適材適所で役立っている。
※「Bakery Scan」ではディープラーニング技術は活用していない。

2020年頃に実用化される見通しの技術例:機械翻訳、自然言語理解

機械翻訳は英語や欧州系言語間ではかなりの精度が出るため活用が進んでいるが、文章の構造などが異なる日本語ではまだ本格的に利用されていない。変化のきっかけになりそうなのは2020年の東京オリンピック開催だ。総務省は「グローバルコミュニケーション計画」として「多言語音声翻訳システムにより世界の言葉の壁をなくす」というビジョンを掲げており、官民あげた動きとなっている。

最近の機械翻訳は、単語の置き換えだけでなく文章全体、接頭辞や語幹、単語の位置なども考慮し、自然な文の流れを分析するものとなっている。2017年4月にはマイクロソフトがSkypeにリアルタイム会話翻訳機能を追加するなど、既に実用化に向けた動きが進んでいる。Skypeの翻訳技術にはディープラーニングが活用されており、利用拡大に伴う精度の向上が見込まれる。馴染み深いGoogle翻訳もニューラルネットの活用により、昨今翻訳の精度が大きく高まっている。

自然言語理解技術の高度化に伴い、チャットボットや対話ロボット等も飛躍的に利用が拡大する可能性がある。今現在のコンピュータの対話能力は限定的である。Aと聞かれたらBと答えるといったシナリオどおりに答えを返す単純な仕組みで、事前に設定されていない質問が来たら返答できなくなるものがほとんどである。これらは「人口無能」とも呼ばれる。人手でシナリオを設定するのではなく自律的に意味を理解した上で回答するといったより高度な会話能力の研究が進められており、2020年以降には接客、顧客サービスでのAI利用が一般的になると予測する。
AIとビジネスの関わりについての話題になると必ず持ち上がるのは「AIによって人の仕事が奪われるのではないか」という議論である。しかし日本は少子高齢化による人手不足が深刻で、物流、販売、外食等様々な職種で問題が顕在化している。Bakery Scanにしても、アルバイトが多数のパンの種類と値段を覚える負担が大きく人材を確保できない、という課題解決のために開発された経緯があるそうだ。AIを雇用を脅かすものではなく、労働人口の減少による経済停滞を防ぎ社会や経済に恩恵をもたらすものと捉え、ポジティブな発想で利用に取り組んでいただきたい。

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■レポートサマリ
人工知能(AI)活用の中長期予測

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小林 明子(コバヤシ アキコ) 主任研究員
変化の早いIT市場において、皆様や業界のお役に立ち指針となるよう、独自の情報を発信していきたいと考えています。市場調査はもとより、販売促進やマーケティングのご相談、情報交換などお声掛け下さい。

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