矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2015.11.10

人工知能はビジネスをどう変える? AI社会の到来を分野別に予測

人工知能(AI)が注目を集めている。AIをビジネスで活用する事例の発表も相次ぎ、単なる「ブーム」では終わらなさそうだ。

しかしまだ、「AIはなんだか凄そうだが何に役立つのだろう?」と思う人も多いだろう。矢野経済研究所では、「AIは何を目的に利用されるか」「AIの適用を左右する要因とは何か」を考察し、AI活用の分野別ロードマップを作製した。

尚、「人工知能(AI)」の定義は定まっていないが、ここでは機械学習やディープラーニング、自然言語処理、画像認識などのAI技術や、それらの技術を活用したソリューションを含める。現時点でAIは人間の3~4歳児レベルとも言われ、いわゆる「まるで人間のような優れた能力を持ったコンピュータ」は存在していない。

AIは何を目的に利用されるか

これまで、ITは業務効率化やコスト削減を主目的として活用が進んできた。AIはデータの処理や情報の探索を高精度に実行する能力を持つが、従来のITの延長である効率化などの役割のみを期待されているわけではない。AIは、「人間にはできないことをやる」「人間より高いレベルでやる」「人間の替りにやる」「人間が関与しなくてもできるようになる」ことによってイノベーションを起こす能力にこそ価値がある。

「競争力を強化するためには、守りではなく攻めのIT活用が必要」「ITによりビジネスの付加価値向上を目指すべき」などと言われ続けてきたが、実現はなかなか難しかった。AIがその突破口になる可能性はある。

矢野経済研究所作成

AIの適用を左右する要因とは何か

AI市場関係者の最大の関心は、「AIはどの業界や市場に適用されるのか、それによってどんな影響があるのか」という点だろう。AIが適用しうる可能性は多岐にわたる。もちろん分野による濃淡や時間軸の違いがあるはずだが、市場のニーズに左右されるのか、それとも技術の向き・不向きなど別の要因によるのだろうか。

研究者や技術者に聞くと、「技術的にはあらゆる分野にも適用できる」という回答が返ってくることが多かった。「ニーズがあると分かれば、その分野に向けて集中的に研究開発を進められる」という声も聞かれた。しかし、AI活用はまだ始まったばかりであるため、ほとんどの分野においてニーズは潜在的である。有望な技術が開発され事例が増えるに従って徐々に裾野が広がっていくだろうが、「技術があるので、適した用途に採用されていく」のか、「ニーズがある市場に向けて技術を提供する」のかは、卵が先かニワトリが先かというような答えのない問いになる。

矢野経済研究所では、分野ごとのAI活用のロードマップを作成するにあたり、判断基準として以下の4点を考慮した。それは、①AI適用によるインパクトの大きさ、②業界の投資意欲・投資力、③技術的な適性、④実現のスピード、である。技術的にはどの分野にも適用できるという前提で考えると、③技術的な適性以上に、①、②の影響が大きいと予測する。④は、その実現が短期的なものか、長期的なものかに関係する。

①のインパクトとは、産業や業種に対して大きな機会をもたらすか、または大きな脅威を与えるか、という観点となる。機会側は、新市場の創出、業態の変革による利益向上や課題解決などである。脅威側は、業態の変化によって既存のビジネスへの需要が減少・消失する、雇用が減少・消失するなどである。

AI活用の分野別ロードマップ

①~④の基準をもとに、人工知能がどの分野でいつ頃利用されるようになるか、ロードマップを作製した。まず優先的に活用されるのは、AIの利用価値を高く評価し、投資力・投資意欲が高い分野になると予測する。自動車、創薬やバイオ、金融などである。エネルギーは2016年の電力自由化をきっかけに市場が立ち上がると見込む。流通業では、既にマーケティングやレコメンドの高度化のためにAIが活用されており、先進的な大手企業は採用を進めるだろうが、費用対効果が評価されづらく、業界全体では大きなテーマにはなりにくいだろう。農業や介護などの労働集約型の業務効率化効果は期待できるが、投資力が乏しいため、政府の支援等が求められる。

一例として、自動車と医療分野での展望は以下の通りである。

 ■自動車(自動運転)

自動車メーカー各社及びGoogleなどIT企業がこぞって自動運転車の開発を進めている。技術的には比較的短期に完成するとみなされているが、安全性の確保、法整備、インフラ整備などの問題もあるため、本格的に市場が立ち上がるのは2025年以降と考える。自動運転車の利用は、貨物輸送、バス、タクシーなど商業車において安全性確保やドライバー負担軽減のニーズが高いと考えられる。

長期的なインパクトについては、自動車メーカーとGoogleで描く世界観が異なる。Googleは完全自動運転の実現に積極的だ。自動車を購入・保有しなくても、利用したい時にスマートフォンなどでカーシェアサービスから呼び出せば、完全自動運転によるコネクテッドカー(インターネットに接続された自動車)が迎えに来て目的地に運んでくれるというわけだ。車の台数は減り、一台あたりの稼働率は上がり、駐車場のスペースを大幅削減して有効利用できる。社会を根本的に変える破壊的イノベーションと言える。しかし、これは自動車メーカーからすると自動車のコモディティ化や産業の縮小を招く。自動車メーカーは運転席に運転手を残しながら、既存産業の範囲で安全性や利便性の向上を図ることに注力するだろう。

■医療

AI活用による医療技術の進化は、医療費の高騰、医療従事者の不足や偏在、健康寿命の延伸、難病治療など様々な社会的な課題に対応するものと期待される。インパクト、投資の両面で、データ及びAI活用の効果は着実に進むと考える。

医師個人の判断に基づく診断ではなくデータ解析や蓄積された集合知に基づく診断の実施、病気になった後に治すだけではなく病気を起こさない予防医療、病気の細かいタイプや患者個人の体質などによるパーソナライズド医療、治療法研究の加速による治療困難とされた病気の治療法発見などが、AIの活用によって実現していくと考える。

人工知能はポテンシャルが大きく、産業の発展に大きく貢献する可能性を秘めているが、将来像はまだ見えていない。既存産業への導入のみならず、新しい業態の創出や、産業構造の変革などにも注意を払っていく必要がある。今回提示したロードマップを考え方の一つとして、今後各業界、業務においてAIの活用を進める上での参考にして頂きたい。

 【図表:AI活用の分野別のロードマップ】

【図表:AI活用の分野別のロードマップ】

矢野経済研究所作成

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■レポートサマリ
人工知能(AI)活用の中長期予測

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小林 明子(コバヤシ アキコ) 主任研究員
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