矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2019.01.23

あなたの企業はAIを使っている?「導入率2.9%」の実態と普及に向けた課題

昨年(2018年)もAIは多くのIT系メディアを賑わせ、もうAIを活用しているのが当たり前、といったトーンの記事もみられた。それでは、あなたの勤務先の企業で AIを利用しているだろうか?矢野経済研究所が2018年下旬に行った調査では、AIの導入率は2.9%となった。これを低いと思うだろうか、高いと思うだろうか。「話題になっている割には、実際の利用率はまだ低いのだな。しかし、身近で実際に使っている、うまくいっているという話も聞かないので、その程度かもしれない。」という感想を持った人が多いのではないだろうか。

このAI導入率には注釈が必要で、回答にはRPAも含まれる。現時点でのRPAのほとんどは、高度な技術ではないためAIではないとみなすべきだが、一般的には混同されやすいため選択肢に加えた。単に「AI」というと汎用AIやロボットなど、曖昧な印象を持たれることも多い。AIを実現する技術としての「AI技術」の単位で見ると、利用しているAI技術ではRPAという回答の比率が最も高く、RPAへの注目度の高さを示している。AIブームを牽引する技術であるディープラーニングの利用率の2倍以上あった。

【図表:AIの導入状況】

【図表:AIの導入状況】

矢野経済研究所調べ

国際比較においても日本はAI活用で出遅れていると指摘されている。「今後も取り組む予定はない」という全く関心がない回答は15.0%であり、ある程度関心は高いことは分かるが、AIを何に役立てられるが分からない企業がまだ多いのが実態であろう。また、AIブームに背中を押され、実証実験を行った企業は増えたものの、投資対効果が明確でなく挫折し実導入に至らないという課題もみられる。

導入率は企業規模に比例しており、大手企業での導入率は高い。売上高1,000億円以上の企業では「すでに導入している」が10.1%、「実証実験(PoC)を行っている」が16.5%に達する。AIは、先端技術への投資意欲が旺盛な大企業を中心に利用されている。大手企業の取り組みはメディアでも取り上げられ易く、消費者として身近に体験する機会も多いが、中堅中小企業を含めた全体でみると2.9%となる。

【図表:AIの導入率 年商規模別】

【図表:AIの導入率 年商規模別】

矢野経済研究所調べ

日本は少子高齢化と労働力不足が深刻化しており、外食、物流、介護など多くの現場が既に悲鳴を上げている。更に、長時間労働や硬直化した勤務形態などが原因となる労働生産性の低さも指摘される。AIは日本のこのような構造的な課題を打開するテクノロジーとして位置付けることができる。課題意識とAIへの期待は幅広い業種・業態で共有されているはずだが、なぜAIの活用はなかなか進まないのだろうか。

理由として、企業からは「AIは高価である」「AIを活用できる人材がいない」という声を聞く。現時点ではAIの導入は個別開発により導入することが多く、導入コストは数千万円以上といった規模になることも珍しくない。このような独自システムを導入できるのは一部の大手企業に限られ、中堅中小企業を含む一般の企業まで裾野を広げるためには、汎用的で安価なツールやソリューションとして活用できるようになることが必要となる。

なお、ディープラーニングはやや複雑である。モデルの構築は目的別の個別対応となり、汎用的に流用することは現時点では技術的に困難であるといわれている。また、データに関する知見は専門家の知見が求められ、学習や再学習にはデータサイエンティストが関与することになる。但し、ディープラーニングを手掛けるベンダーの中には「汎用化も将来的には不可能ではない」として、中堅企業以下でも利用できるソリューション化を視野に入れているところもある。

現在でも手軽で安価に使えるAIは提供されている。画像認識、顔認識、感情分析、音声認識等のAI技術は、AWSやWindows Azure、IBM Watsonなど大手のクラウドプラットフォームからAPIとして提供されている。プログラミングなどの負担がなく(或いは少なく)市販品を購入できるものとしては、AI技術を応用した機械翻訳、チャットボット、セルフ型のパン屋向けの画像認識によるレジシステム、飲食や小売の店舗用の顔認識システムを搭載した接客ロボットなどもある。自社でAIを開発しなくても、他社が構築した技術を使ってAIを取り入れることは可能だ。

2019年以降は、AIが身近に使えるようになるかがポイントの一つとなる。多くの企業がAI導入効果を得られ、「AIが普及した」と言えるレベルに到達するためには、ソリューションやツールのいっそうの拡充が求められている。

関連リンク

■レポートサマリー
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)市場に関する調査を実施(2020年)
音声認識市場に関する調査を実施(2021年)
中国AI市場に関する調査を実施(2020年)

■アナリストオピニオン
画像認識技術はなにができる?AI技術のビジネスへの活用法
ブームの最中にあるAI(人工知能) 2017年~2020年の真の実用性を考える
人工知能はビジネスをどう変える? AI社会の到来を分野別に予測

■同カテゴリー
[エンタープライズ]カテゴリ コンテンツ一覧

YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。

YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。

東京カスタマーセンター

03-5371-6901
03-5371-6970

大阪カスタマーセンター

06-6266-1382
06-6266-1422