矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2015.04.28

転換期を迎えた企業のデジタルマーケティング~テクノロジーの進化で個客マーケティング時代が幕を開ける~【前編】

先般、国内の主要ECサイト事業者18社の協力を受け、各社のデジタルマーケティングに関する取組動向と展望を集計・分析したレポートを上梓した。

本稿は、より多くの方々にデジタルマーケティングに関心を持ってもらう機会となることを目的に、レポートでは解説しきれなかった部分を補足しつつ、2回に渡ってお伝えする。
キーワードは「デジタルマーケティング・テクノロジーの進化」と「個客マーケティングの本格化」である。
なお、デジタルマーケティングとは企業のマーケティング活動におけるデジタル領域を指し、広告だけに限られず、宣伝/広報/販促活動全てを含む幅広い概念で示されるのが一般的である。ただ今回のレポートでは、ECサイト事業者にフォーカスした調査研究を行ったことから、本稿におけるデジタルマーケティングは、主として従来のWebマーケティングの延長線上にあるものと捉えていただきたい。

進化する「ネット広告手法」と「ターゲティング手法」

主要ECサイトを対象にデジタルマーケティングの実施状況について調査した結果、主に利用されているインターネット広告は下記の通りであった。

  • リスティング広告
  • ディスプレイ広告(アドネットワーク/DSP)
  • ソーシャルメディア広告(Facebook、twitter、LINE等)
  • アフィリエイト広告
  • 純広告

ここであらためて、インターネット広告の種類について、時系列で整理しておくことにする。
インターネット広告の黎明期とされる1990年代後半から2000年代初頭までは純広告とメール広告が中心であった。この時代は「サイトPV数≒広告閲覧数」との考えから、アクセス数の多いサイトへの物量作戦型の広告が中心で、費用対効果という視点はまだ重視されていなかった。
2000年代に入って検索連動型のリスティング広告が登場する。ユーザーの検索ワードを元に関連性の高い広告を検索結果に表示することで、ユーザーが求める製品/サービスとその提供者である広告主をマッチングすることを可能にした。このリスティング広告によって、相手が見えない中で”数を撃てば当たる“的な広告から、ユーザーと広告主との関連性の高さを重視する広告配信手法が主流となった。その後は広告配信の精度向上を目指して、ユーザーが閲覧しているコンテンツ内容に即した広告が配信されるコンテンツ連動型広告や、過去の閲覧履歴や直近の検索ワードなどの「行動ターゲティング」の要素を加えた興味関心連動型広告、さらには主にCookieを使用してユーザーとその行動履歴を追跡し、他サイト上でも特定広告を表示させることで再度の訪問を促す「リターゲティング広告」などが登場するなど、現在は「費用対効果」を追及した広告配信が主流となっている。

その流れと並行して、複数のWebサイトを束ねて広告を同時配信するアドネットワークという広告プログラムの配信方式が台頭する。アドネットワークは、個々にはPV数やアクセス数の少ない小規模サイトをネットワークに組み込み、全体としては多くのトラフィック量を有する広告メディアとして広告主に販売可能にする仕組みである。これにより、広告主側は「ターゲット」と「キーワード」さえ指定すれば最適な配信先がマッチングされることになる。さらに、複数あるアドネットワークをまとめるDSP(Demand-Side Platform)という統合プラットフォームも登場している。
また、近年はスマートフォンの急速な普及に伴い、Youtube等の動画共有サイトにおける「動画広告」や、Facebook、TwitterやLINEなどを用いた「ソーシャルメディア広告」が存在感を増している。特にソーシャルメディア広告は、ソーシャルメディアを通じた情報の収集・分析によってセグメント別の特徴・興味・関心が把握できるため、特定セグメントへのリターゲティング広告やリスティング広告の配信が可能になっている。

【図表:インターネット広告の変遷】
【図表:インターネット広告の変遷】

各種文献を参考に矢野経済研究所研究所作成

また、広告配信手法の多様化に合わせ、ターゲティング手法も着実な進歩を遂げてきた。
2000年代前半までのターゲティングは、メディアから提供されるユーザーデモグラフィックを用いたものが主流で、その後の行動は「ユーザーまかせ」という側面が強いものであった。
GoogleやOverture(現Yahoo!リスティング)など開始したリスティング広告によって、ユーザーの自らの興味関心が反映される“検索キーワード”やその“検索結果”に対して広告を配信する「行動ターゲティング」が採用され、注目を浴び始める。
しかし、ユーザーが比較サイトなどを検索する行為は、あくまで目的達成の“手段”に過ぎず、必要以上に時間を費やさないことが明らかになると、あらためて、ユーザーの滞在時間や閲覧頻度に注目が集まるようになった。そこで登場したのが、ユーザーがどのようなサイトを閲覧し、どのような商品を購入したのかというオーディエンスデータを用いた「オーディエンスターゲティング」という手法である。オーディエンスデータとは、Cookieをもとにした“個人を特定しない行動履歴データ”である。ポータルサイト等が自社会員におけるWebサイトの訪問履歴をそのサイトカテゴリによってセグメントしたデータである。このオーディエンスターゲティングによって、広告とサイトとの関連性ではなく、ユーザーの行動履歴の特徴から「どんな人に広告を出すか」をターゲティングすることが可能になった。
さらに、過去のサイト訪問者に対してバナー広告を配信して再来訪を促す「リターゲティング」が台頭し、現在ではただサイトに戻すのではなく、離脱ユーザーがどのような商品を閲覧したかという情報を付加して該当の商品ページにまで誘導する「ダイナミック・リターゲティング」も出現してきている。

【図表:主要なターゲティング手法】
【図表:主要なターゲティング手法】

各種文献を参考に矢野経済研究所研究所作成

ついに「個客マーケティング」を実施する環境が整った

今まで見てきた通り、「デジタルマーケティングの進化」は

  • 広告配信技術の多様化
  • ターゲティング精度の向上

という「テクノロジーの進化」とともにある。そして、具体的なデジタルマーケティングの進化の方向性とは、広告配信技術の多様化によって「費用対効果の追求」を実現し、ターゲティング精度の向上によって「確実なユーザー行動の促進」の2点に集約される。
このようなデジタルマーケティング環境の進化は、あらゆる企業に自社にとって最適化されたデジタルマーケティング活動を実施できる“環境”をもたらすこととなった。環境とは、具体的には

  • 顧客をマスではなく「個」で捉えることが可能、かつ
  • 個それぞれに適した「コンタクトポイントの構築」が可能になった

ことで、「顧客一人ひとりの情報を詳細に把握し、これから取りうる行動を分析し、最も効果的な提案をおこなう=個客マーケティング」が実施可能な環境のことを示している。

すでに多くの企業が、「個客マーケティング」を通じたマーケティング効果の最大化を追求する取り組みが、企業全体の競争力に大きく影響する左右することを認識しており、すでにそれに向けた動きが始まりつつある。
具体的な取組み事例については、後編でお伝えすることとする。

関連リンク

■レポートサマリー
DMP(データマネジメントプラットフォーム)/MA(マーケティングオートメーション)市場に関する調査を実施(2021年)
ECサイト構築支援サービス市場に関する調査を実施(2021年)

■アナリストピニオン
転換期を迎えた企業のデジタルマーケティング ~テクノロジーの進化で個客マーケティング時代が幕を開ける~【後編】
コミュニティマーケティングについて考える
ITはコト消費をモノ消費に

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