矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2022.09.14

【アナリストオピニオン】もはや自動車問題は世界的社会問題である②

苦し紛れに「ウクライナ侵攻とBEV一極進化問題」について話す

クルマはCO2排出削減やBEV(電気自動車)という点において、「環境」「エネルギー」と関わっていることは間違いない。しかしながら、さすがにSDGsのような「地球×あらゆる産業・あらゆる人々という規模の問題」において、自動車は枝葉にしか当たるまい」……と筆者はどこか他人事の立ち位置で参加していた。

ところが「SDGsでどのような調査企画を考えられるか?」という質問が参加者全員に順番に寄せられてきて、筆者にもその順番が回ってきてしまった。「森さんならSDGsの調査企画でどのようなものを考えますか?」と問われて、企画を思いつかなかった筆者は、知っている知識をならべることしかできなかった。下記のように、自動車産業の現状についてとりあえず並べてみた。

「新型コロナ禍による工場閉鎖からくる世界的な半導体不足は、自動車産業に深刻な影響を与えた。2022年に入ってからも半導体工場の操業停止、自動車生産工場の操業停止が続いている。だが、その一方で自動車は未来に向かって進化を続けていた。とりわけ中国と欧州中心に『カーボンニュートラル=BEV普及が決め手』と喧伝されていた。カーボンニュートラルはSDGsの目標の中の一つでもある。全ての自動車はBEVにシフトするという見解であった。」

「しかし3月に入り、思いもよらない深刻な問題が起こった。ロシアのウクライナ侵攻である。欧州OEMらは、特にドイツは、ロシアからエネルギー調達、BEV用Li電池のレアメタル調達をしていた。しかし、ウクライナ侵攻により、世界中が『ロシアからものを買うな』という動きになり、石油も買えなくなったため、欧州はBEV用のエネルギーをロシアの石油以外のものから作らなくてはならなくなってしまった。」

「もはや『脱炭素は当分棚上げ』『エネルギーをかき集めろ!』ということになったのだ。ある国は原発復興に向かい、ある国は米国・UAEから石油調達に向かいそうだ。この時点で既に『環境を考えたカーボンニュートラル実現』から離れて行くことになった。OEMらは自動車を作らないわけにはいかないから、カーボンニュートラルと逆走してでも、エネルギーやレアメタルを入手しようとするであろう。あるいは中国と欧州が唱えていたBEV一極シフトは困難という判断が下り、欧州でもBEV普及は5年以上後ろ倒しという声も聞こえてきた。」

……と、筆者が苦し紛れにここまで話したとき、「それなら私はSDGsの企画はやめておく!」という声が聞こえた。

自動車産業を語ることは、「地球×あらゆる産業・人々」を語ることなのか

前述のように、筆者はSDGsについての企画を求められた中で何と答えていいかわからず困ってしまい、仕方なく自動車産業の現状について、「コロナ禍、ウクライナ侵攻、BEV一極シフトの困難……」などと話したのであるが、これが「それなら私はSDGsの企画はやめておく!」という声を呼び起こしてしまった。
「いや、これは自動車産業だけの話だから。企画案がないので、とりあえず口にしただけだから……」と思ったのであるが、どうも「やめておく!」の声は本気のようである。困ってしまった。筆者は苦し紛れとはいえ「若い社員のヤル気をそぐような発言」をしてしまったのだろうか、あわわわ……。筆者はせっかくの企画会議を迷走させてしまったのであろうか、あわわわ……。 ここに至って、ようやく筆者は、自動車産業について語ることが、SDGsのような「地球×あらゆる産業・あらゆる人々という規模の問題」について語ることと同義に近いレベルになってきていることに気が付いたのである。

たしかに自動車は多様な性格を持つ商品だ。乗用車は消費財であり、そこでは「走りの魅力」「デザインの魔力」「ドライバを安全に安心に移動させる」「生き物ではないのに“愛”をつけて呼ばれる」といった消費財的な視点が求められる。その一方で商用車は生産財であり、そこでは「物流の効率化」「過疎地高齢者の移動を確保する」「高齢ドライバ・女性ドライバの労働環境支援」「ERP・SCMなどの他のITとの連携」などといったビジネス的な視点が求められる。
社会を構成するインフラとしても「移動手段としてのクルマ」「多くの労働人口を吸収できる一大産業」「日本においては数少ない海外で競争できるプラットフォーム」「CO2排出の源と非難されながら、逆にカーボンニュートラルの象徴であるBEVやFCEVでもある」などの重要性をもつ。
さらにCASEという自動車業界注目キーワードからもわかるように「情報化」「自動運転」「シェアサービス」「電動化(EV化)」というIT技術活用製品的な側面も多く、それゆえに筆者が「自動車×IT」担当でICT・金融ユニットに在籍しているわけだ。
そうなのか、自動車産業を語ることは、「地球×あらゆる産業・人々」について語ることになってしまう、なりかねない……そういうことなのか(森健一郎)。

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