矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2022.07.22

もはや自動車問題は世界的社会問題である

SDGs企画会議に参加した

先日社内の企画会議で「SDGs」をテーマとした回があった。会議の目的は「SDGs関連調査企画の立ち上げ」である。
SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2015年の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標だ。SDGs(エス・ディー・ジーズ)と発音する。
SDGsは17の大きな目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されている。17の目標には、飢餓をゼロにし、全ての人に健康・福祉・質の高い教育を与え、さらには安全な水など開発途上国に対する支援色の強い目標がある。一方で貧困を無くし、ジェンダー平等など、先進国をも含む目標も含まれている。

このままだと一見、これまであったCSRと同じように見える。だが、CSRがどちらかというと、事業内容と結びついていない場所で企業の利益を還元している社会奉仕的傾向が強いのに対して、SDGsは企業の利益と環境や貧困などの課題の解決を両立させることを目指しているという。
特に169のターゲットには、「課題を技術革新によって解決する」といった旨が頻繁に書かれており、これは下記のような市場を新たに開拓できる可能性があるということを示している。

【図表:SDGsにより開拓できる可能性のある市場】

【図表:SDGsにより開拓できる可能性のある市場】

各種データから矢野経済研究所作成

上記表のように、「エネルギー」「環境」が期待される市場の中核になるものの、それ以外にも内容が多岐にわたっているため、当ICT・金融ユニットの会議においてもSDGsが意見交換のテーマに上がった。そのため「自動車×IT」を担当分野とする筆者にも声がかかり、筆者も末席に参加した次第である。

苦し紛れに「ウクライナ侵攻とBEV一極進化問題」について話す

クルマはCO2排出削減やBEV(電気自動車)という点において、「環境」「エネルギー」と関わっていることは間違いない。しかしながら、さすがにSDGsのような「地球×あらゆる産業・あらゆる人々という規模の問題」において、自動車は枝葉にしか当たるまい」……と筆者はどこか他人事の立ち位置で参加していた。

ところが「SDGsでどのような調査企画を考えられるか?」という質問が参加者全員に順番に寄せられてきて、筆者にもその順番が回ってきてしまった。「森さんならSDGsの調査企画でどのようなものを考えますか?」と問われて、企画を思いつかなかった筆者は、知っている知識をならべることしかできなかった。下記のように、自動車産業の現状についてとりあえず並べてみた。

「新型コロナ禍による工場閉鎖からくる世界的な半導体不足は、自動車産業に深刻な影響を与えた。2022年に入ってからも半導体工場の操業停止、自動車生産工場の操業停止が続いている。だが、その一方で自動車は未来に向かって進化を続けていた。とりわけ中国と欧州中心に『カーボンニュートラル=BEV普及が決め手』と喧伝されていた。カーボンニュートラルはSDGsの目標の中の一つでもある。全ての自動車はBEVにシフトするという見解であった。」

「しかし3月に入り、思いもよらない深刻な問題が起こった。ロシアのウクライナ侵攻である。欧州OEMらは、特にドイツは、ロシアからエネルギー調達、BEV用Li電池のレアメタル調達をしていた。しかし、ウクライナ侵攻により、世界中が『ロシアからものを買うな』という動きになり、石油も買えなくなったため、欧州はBEV用のエネルギーをロシアの石油以外のものから作らなくてはならなくなってしまった。」

「もはや『脱炭素は当分棚上げ』『エネルギーをかき集めろ!』ということになったのだ。ある国は原発復興に向かい、ある国は米国・UAEから石油調達に向かいそうだ。この時点で既に『環境を考えたカーボンニュートラル実現』から離れて行くことになった。OEMらは自動車を作らないわけにはいかないから、カーボンニュートラルと逆走してでも、エネルギーやレアメタルを入手しようとするであろう。あるいは中国と欧州が唱えていたBEV一極シフトは困難という判断が下り、欧州でもBEV普及は5年以上後ろ倒しという声も聞こえてきた。」

……と、筆者が苦し紛れにここまで話したとき、「それなら私はSDGsの企画はやめておく!」という声が聞こえた。

自動車産業を語ることは、「地球×あらゆる産業・人々」を語ることなのか

前述のように、筆者はSDGsについての企画を求められた中で何と答えていいかわからず困ってしまい、仕方なく自動車産業の現状について、「コロナ禍、ウクライナ侵攻、BEV一極シフトの困難……」などと話したのであるが、これが「それなら私はSDGsの企画はやめておく!」という声を呼び起こしてしまった。
「いや、これは自動車産業だけの話だから。企画案がないので、とりあえず口にしただけだから……」と思ったのであるが、どうも「やめておく!」の声は本気のようである。困ってしまった。筆者は苦し紛れとはいえ「若い社員のヤル気をそぐような発言」をしてしまったのだろうか、あわわわ……。筆者はせっかくの企画会議を迷走させてしまったのであろうか、あわわわ……。 ここに至って、ようやく筆者は、自動車産業について語ることが、SDGsのような「地球×あらゆる産業・あらゆる人々という規模の問題」について語ることと同義に近いレベルになってきていることに気が付いたのである。

たしかに自動車は多様な性格を持つ商品だ。乗用車は消費財であり、そこでは「走りの魅力」「デザインの魔力」「ドライバを安全に安心に移動させる」「生き物ではないのに“愛”をつけて呼ばれる」といった消費財的な視点が求められる。その一方で商用車は生産財であり、そこでは「物流の効率化」「過疎地高齢者の移動を確保する」「高齢ドライバ・女性ドライバの労働環境支援」「ERP・SCMなどの他のITとの連携」などといったビジネス的な視点が求められる。
社会を構成するインフラとしても「移動手段としてのクルマ」「多くの労働人口を吸収できる一大産業」「日本においては数少ない海外で競争できるプラットフォーム」「CO2排出の源と非難されながら、逆にカーボンニュートラルの象徴であるBEVやFCEVでもある」などの重要性をもつ。
さらにCASEという自動車業界注目キーワードからもわかるように「情報化」「自動運転」「シェアサービス」「電動化(EV化)」というIT技術活用製品的な側面も多く、それゆえに筆者が「自動車×IT」担当でICT・金融ユニットに在籍しているわけだ。
そうなのか、自動車産業を語ることは、「地球×あらゆる産業・人々」について語ることになってしまう、なりかねない……そういうことなのか。

 

自動車問題は世界的社会問題である

実はここにきて、自動車がその存在感を見せつけているのはSDGsだけではなかった。国を挙げて次世代産業として盛り上げようとしている「スマートシティ」においても、自動車産業は大きな存在感を示している。
一般社団法人スマートシティ・インスティテュートの2021年の調査によれば「国内の自治体が検討・計画しているスマートシティの対象領域の中で、『移動・交通』はトップ」であった模様。『医療・健康』『デジタルガバメント』『防災』などを押さえてのトップだという。
消費者からも、産業界からも、社会インフラとしても、IT技術活用製品としても、さらには自治体からも、自動車と自動車産業はここにきて存在感を際立たせている。逆に言えば、自動車産業における問題点は、社会全体の問題点となりうる。

そこで考えられるのはIT・Techベンダの自動車産業への進出である。米国GAMAM(グーグル、アップル、メタ=元フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)や中国BATH(バイドウ、アリババ、テンセント、ホンハイ)などのIT・Techベンダの自動車産業への進出状況については、これまでにも多くの報道がなされている。グーグル/Waymoの自動運転走行テストは世界でも指折りの走行距離であるし、アップルの「アップルカー」は今か今かと製造・販売への期待が記事になっている。メタはそのメタバース技術が自動車で展開することは間違いないし、アマゾンの自動運転配送サービスやマイクロソフトのCASE基盤技術は既に世界中のプレーヤとの提携関係に踏み込んでいる。BATHにおいても自動車産業を次世代ビジネス注力分野に掲げている。
こうしたIT・Techベンダは、これまでの歴史の中で、様々な社会問題を解決すべくソリューションを展開し、ビジネスモデルを構築してきた。彼らが「消費者からも、産業界からも、社会インフラとしても、IT技術活用製品としても、さらには自治体からも、その存在感を際立たせている自動車と自動車産業」をほっておくはずがない。

日本の自動車産業は、海外の自動車産業との競争だけでなく、こうした米中のIT・Techベンダとの競争にも備えなくてはならない。逆に彼らとの共創の可能性もあり、むしろ国際的な提携戦略こそが、次世代をサバイバルするために不可欠であるとの声も多い。
なにせ自動車問題は世界的社会問題であるのだから。そして、問題のあるところにこそ、それを解決するための市場ニーズが存在するのだから。たとえコロナ禍が続いたとしても、ウクライナ侵攻がなかなか終わらないようなことがあったとしても、米中摩擦が激化したとしても、円安が進んだとしても、そこには間違いなく市場ニーズが存在しているのである。米中のIT・Techベンダが眼をギラつかせながら襲い掛かろうとしている「世界的社会問題」という需要が存在しているのである。

森健一郎

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森 健一郎(モリ ケンイチロウ) 主席研究員
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