矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2022.08.31

【アナリストオピニオン】モビリティ×IT 自動車産業におけるIT新大陸 MICとはなにか②

MIC(右側のサークル)

自動車産業におけるデータ化は、まだまだ途上にある。将来的には全てコネクテッドになり、自動車は端末化されていくだろう。現在はカーナビや商用車ではドラレコといったものが、情報端末として自動車に付随していたが、今後はビークルOSがそれらに取って代わると予想される。

自動車の企画・設計・生産段階においては、トヨタはこれまでモノづくりの世界において、最強と呼ばれていた。コンカレントエンジニアリングを実践し、企画・設計の段階から生産関連も含めて検討に入り、後戻りをできる限り事前に防止する開発体制などが文化として根付いている。生産現場に至ってはTPS(トヨタ・プロダクション・システム)として、世界的に有名なトヨタ流の生産手法を確立、世界No1の実力を磨き続けている。
しかし、今後EV化が進めば、部品点数は減少、しかもモジュール化時代となれば、プラモデルを組み立てるようにモジュールを組み合わせれば自動車が作れるといわれるような時代になりつつある。安全性の実現など、実際にはそれほど簡単なものとは思わないが、少なくとも現在のモノづくりよりは、数段容易に模倣できるようになるだろう。言い換えれば、EV化は自動車生産のコモディティ化を加速させるということである。

このような時代を控え、自動車開発にはMICのような概念が極めて重要となる。抽象的な表現となるが、ハードウェアの付加価値が低下を避けられないなか、データやソフトウェアをいかに使っていくかが、付加価値の源泉になるだろう。

これまでもシミュレーションソフトを使って様々なテストを繰り返してきたが、今後は実際の走行関連データを使いシミュレーションを繰り返すことができる。実際のクルマの挙動を把握・理解することは、安全性や燃費の追求などに重要であり、新しい機能やサービスについて、こうした実データを使ってシミュレーションを繰り返すことで、よりニーズや目的に沿った機能・サービスを実装することができるようになるはずだ。
もちろん、OTAアップデートにも対応するので、市場に出荷されたあと、何らかの不具合が生じた場合は即座にアップデートができ、常に最新のソフトウェアを利用することができるようになる。

しかしながら、企画・設計・生産におけるデータの活用はまだまだサイロ化している。データをプラットフォームへ蓄積するように整備し、そのデータを企画・設計・生産の各段階で有効的・効果的に利用していく仕組み作りが必要になる。それがトヨタであれば開発プラットフォームとなるAreneの役目にもなっているのだろう。

MIC for Service(左側のサークル)

そして、社内の車両開発サイクルを高度化・最適化するだけではない。MIC for Serviceと名付けたが、そのデータを外部に開放し、モビリティからの情報を利用した新たなサービスを生み出す必要がある。
ここで“必要がある”という言葉を使ったが、自動車OEMは、これまでのモノづくりとしての自動車産業という枠組み留まっていては、十分にビジネスを拡張することはできない。成長を維持していくためには、ビジネスの転換が必要となってくる。

社会にとって永続的に必要不可欠な存在になるため、モビリティのデータは自動車の枠を超えて流通することが想像できる。自動車の運転データを使い、自動車保険の保険料を設定する(安全運転するドライバーには安く提供するなど)ことは、テレマティクス保険として実際に行われているのでイメージしやすいと思う。それは「運転データ-保険」という関係であるが、将来は、「運転データ-保険-カーシェア-駐車場」のようにサービス同士の連携も想定できるだろう。優良なドライバーは保険料も下がり、そのドライバーが運転するクルマをカーシェアとして提供する場合は(車の品質が高いので)収益分配が高くなるというような発想だ。
そうしたデータのリンケージは、無限の組み合わせがでてくるだろうが、そうした新しいサービスやビジネスをシミュレーションできる仕組みが「サービス開発基盤」である。OEMが持つ車両・乗員データに加え、サービサーが所有するさまざまなデータベースと連系させ、新しいサービスを設計し、それと連携した「ソフト開発基盤」によってサービスアプリを開発し、それを「Apps」として「ビークルOS」上にOTAを介して配信、ユーザがインストールすることで利用できるような世界観である。

そうした将来像を考えると、これからの自動車産業は、従来からある性能やデザインといったハードウェアの競争に加え、MICを何%完成させたかが競争の中核になると矢野経済研究所では考えている。データ連携、データの連鎖をどうデザインし、どう活用していくのか。自動車ビジネスの中核は、長い時間をかけてそこへ視点を移していくことになるだろう(忌部佳史)。

※全文は以下よりご覧いただけます。

https://www.yanoict.com/opinion/show/id/359

忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
市場環境は大胆に変化しています。その変化にどう対応していくか、何をマーケティングの課題とすべきか、企業により選択は様々です。技術動向、経済情勢など俯瞰した視野と現場の生の声に耳を傾け、未来を示していけるよう挑んでいきます。

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