2021年、トヨタは新たな『どこでもドア』を開こうとしている。
それは同社がCES 2018で発表した、初の自動運転機能を持つMaaSサービス専用EV「eパレット(e-Palette)」である。
eパレットの特徴は、自動運転機能を持つEVプラットフォームを採用した「動力部分」(シャシーモジュール。制御系システム部分)の上に、サービス用途に応じて最適に設計できる「荷室空間」(サービスモジュール。情報系システム部分)が乗るという2層構造にある。
上半身となるサービスモジュールは、下半身のシャシーモジュールから簡単に取り外すことが可能だ。シャシーモジュールはさまざまなサービスモジュールの動力として活用することができる。用途に応じて、上半身は着せ替え人形のようにさまざまなタイプのボディを、下記のように用意でき、その多様なアプリが大きな利益を生むようになっていく。
などなど
これまでにもトヨタはカーナビという情報系ハードウェアの『どこでもドア』を開き、そこに多様なソフトウェアサービスの世界に自由に出入りできるエコシステムを生み出してきた。だが、それはあくまで「走る・曲がる・止まるの制御系システム」を主役とする自動車の付加価値的なポジションであった。
だが、eパレットにおいては、下半身(走る・曲がる・止まるの制御系システム)は基本性能としてほぼ固定されており、上半身となるサービスモジュール(情報系システム)こそがエコシステムの主役になる。上半身の情報系が主役となってビジネスを創出するのだ。
カーナビという情報系ハードウェアの『どこでもドア』はガラパゴスといわれながらも、2021年になり、eパレットにおいて「情報系サービスモジュールがエコシステムを生み出す」という新たなモビリティの姿につながったのだ。
もしも現在の筆者が1990年代中頃のその勉強会にタイムスリップできたならば、「カーナビか、贅沢品だな」と言われた後に「ちょっと待ってください」と言い返すだろう。そして、さらに一言言ってやる。
「ちょっと待ってください。たしかにカーナビはもしかすると日本国内だけのガラパゴス的商品で終わってしまうかもしれないけれど、そこで培われた技術やイメージこそが、情報系が自動車の主役になる時代を切り開いていくのです」と。
もっともeパレットは2020年のオリパラ会場内で走行させ、2023年くらいから公道で走る予定と聞いていたが、現時点ではオリパラがどうなるのかすら不明である。
またeパレットのような上半身・下半身分離型自動運転機能を持つMaaSサービス専用EVは、ダイムラー「Vision URBANETI」、フォルクスワーゲン「Volkswagen POD」など海外OEMからも発表されており、競合は多いかもしれない。
トヨタは、appleのiPhoneのように全世界の市場において、自動車というハードウェアビジネスの上に多様な独自のソフトウェアサービス・ビジネスを構築できるであろうか。完敗はないが、完勝はできないかもしれない。
それでも、eパレットが自動車産業の先端部分で、あるいはIT産業との業際部分で、未来のモビリティ産業をめぐっての最も激しい戦いに挑める資格を持つツールであることは間違いない。
eパレットは2020年代の『どこでもドア』である(森健一郎)。
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