矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2021.07.14

【アナリストオピニオン】eパレット(e-Palette)は2020年代の『どこでもドア』である①

カーナビか、贅沢品だな

筆者には「ああ、あの時ああすればよかったのに~」「こうすればよかったな~」と思い返して、思わず「ああっ」と口に出してしまいそうな時がある。あるいは「今の自分があの時の自分と入れ替わったのならば、こうしてやれるのに」と思うことがある。
いくつもある「あの時」なのであるが、ここにきてよく思い起こすあの時がある。

「カーナビか、贅沢品だな」と言われて、返す言葉に窮した。何も言い返せなかった。
1990年代中頃の話である。筆者はある自動車関連団体の勉強会に参加しており、自己紹介する機会があった。当時、筆者には走行制御系(エンジン、ブレーキ、ステアリングなど)まで見ていく力が備わっておらず、日常的に触れやすいカーナビ、カーオーディオなどの情報系(インパネ周辺)だけを調査していた。そこで「カーナビ市場を調査しております」と告げたところ、ある参加者から「カーナビか、贅沢品だな」とスパッと切られたのだ。
筆者は言い返せなかった。うつむいてしまった。いや、性格からいってヘラヘラ笑っていただけかもしれない。言い返せなかったのには理由がある。

再度言うが、1990年代中頃の話である。
トヨタは1991年にはGMを抜いて世界トップの座に駆け上っていた。だが、それと同時に日本国内のバブル経済がはじけ飛んでいた。90年、91年でバブル経済が終りを告げて、日本の自動車産業は明らかに減速し始めていた。国内の四輪車生産と販売は、それぞれ1990年の1,349万台と778万台をピークとして、大きく落ち込んでいた。
こうした状況下における勉強会では、いかにクルマのコストを下げるか、いかに世界各地でのビジネスに乗り出していくべきか、つまりはこれからの日本自動車産業全体をどうすればいいのか…等について激論が交わされていたのである。コストを下げるために重要なのは、最低限の「走る・曲がる・止まる」を実行するエンジン、ブレーキ、ステアリングといった制御系システムである。議論は制御系に集中していた。
しかしその中で、筆者は情報系の、それも世界中でほぼ日本でしか市場を築いていない国内だけのガラパゴス製品「カーナビ」だけを調査していたのである。さらにカーナビは当時まだ高級品は30万円もする高額商品だった。自動車市場そのものの普及を語るにはやや浮いた話に思われても無理はない(注:自動車のシステムは大きく「走る・曲がる・止まるを実行する制御系」と「インフォテインメントの情報系」とに2分される)。
これからの自動車産業全体をどうすればいいのかを語るには、自分の知識の幅はあまりにも狭くて語るべきことがないと思った。あるいは勢いに押されてしまった。いくつもの理由から反発する言葉を発することができなかった。「カーナビか、贅沢品だな」という言葉に体のどこかを貫かれた気がした。

カーナビは「未来に続く『どこでもドア』」か

だが、実は1990年代中頃にも、カーナビを語るべき言葉は「情報系」「高額商品」「贅沢品」だけではなかったのである。もう一つの別な視点があった。それは「未来に続く『どこでもドア』」である。実は筆者はそれを当時の取材の際に耳にしていた。

当時、あるカーナビメーカを取材した時、「これからの自動車は情報通信との融合化が大きく進む。その部分をカーナビがつかさどる。自動車が外部の通信とつながるようになると、ユーザから見た自動車のイメージが大きく変わっていく」という声を聞いていた。そして、その未来の自動車のイメージは「必要な時にすぐに現れ、思いのままに移動できる『筋斗雲』」であり、他に「人馬一体」とか「ナイトライダー」とか、さらには「『どこでもドア』のようになる」ということであった。

当時はピンとこなかったが、このイメージは、まるで現在のMaaSであり、自動運転カーを表現する言葉のようだ。
「必要な時にすぐに現れ、思いのままに移動できる」というのは、まさにMaaSそのものではないか。スマホでUberを呼び出せば筋斗雲のようにやってくる、少々時間はかかるけれど。またカーシェアリングの説明文には「必要な時に自由にクルマを使える新しい移動手段である」と書いてあるではないか。
もっともそれができるようになるまでには、2008年以降にスマートフォン(appleの「iPhone」)が世界中で普及し、それでMaaSカーの予約・決済ができるようになるまで待たなくてはならなかったのだが…。

「人馬一体」「ナイトライダー」に至っては、ドライバと車両とが音声認識でやりとりできる最新のHMIそのものの表現であり、また「ナイトライダー」の車両は自動運転カーである。
2021年現在、カーナビは通信機能を持ち外部のインターネットとつながり、多様なアプリを車室内に持ち込むことを可能としている。カーナビを通じて話す音声認識の相手は、まるで人格を持つ友人のように対応してくれる車載AIだ。そして、カメラやレーダでとらえた自動運転のための周辺画像を、カーナビディスプレイで表示してくれる。

ところが「『どこでもドア』のようになる」というのは、現在の自動車のアプリの中に見つけることはできない。しかし、カーナビがこうしたMaaS、音声認識HMI、自動運転という自動車の未来につながる情報系の走りであったことを考えると、「カーナビこそが未来の自動車の姿につながる扉(=どこでもドア)だった」と考えられるのではないか(森健一郎)。

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