株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内のインターネット広告市場を調査し、現況、参入企業の動向、および将来展望を明らかにした。
【図表:インターネット広告市場規模推移と予測】
2024年度の国内インターネット広告市場規模(広告主によるインターネット広告出稿額ベース)は順調に拡大し、前年度比110.7%の3兆5,834億円と推計した。
市場成長の背景には、特にSNS(ソーシャルメディア)上の縦型ショート動画やタイムライン(SNSのフィード画面上に表示される)広告への広告予算拡大が寄与している。
また、検索連動(サーチ)型広告も依然としてインターネット広告市場の中心的存在であり、2024年度も前年度比10%以上の成長を維持している。2024年度は好調なマクロ経済環境や企業業績も追い風となり、上場企業の売上高や利益額は堅調に推移し、広告予算を拡大する企業が増加したとみる。
2025年度も引き続きSNS広告と動画(フォーマット)広告の出稿が拡大し、国内インターネット広告市場は堅調推移を見込む。一方で、Googleの外部配信(提携している外部サイトやアプリに表示される)型およびポータル(ポータルサイト上に表示される)型などのディスプレイ(Webページの一部に埋め込まれて表示される)広告への出稿は近年減少傾向にある。
その背景には、インターネットユーザーの行動変化やトラッキング制限によるターゲティング精度の低下などが影響している。広告主のROI(Return on Investment)志向が高まる中で、従来からのディスプレイ広告への投資優先度が低下しており、より成果が可視化されやすい検索連動(サーチ)型やSNS広告、動画広告の領域に広告主の予算が集中している状況になっていると考えられる。
このような背景を踏まえると、2025年度の国内インターネット広告市場規模は前年度から成長率がやや落ち着き、前年度比108.7%の3兆8,955億円になる見込みである。
■AIの進展によるインターネット広告市場の変化
AI技術の進展は、広告業界におけるクリエイティブ制作業務や広告運用(ターゲティング・入札)業務を自動化・効率化し、インターネット広告代理店やメディアレップなどの事業者は新たな付加価値の提供が求められている。
まず、生成AIによる検索体験(SGE:Search Generative Experience、生成AIが要約した回答が検索結果の中に同時に表示される体験)の普及により、インフォメーショナルクエリ(情報収集を目的とした検索クエリ)経由でのWebサイト流入数やSEOアクセス数は減少する可能性が指摘されている。しかし、現状ではインターネット広告と関連性の高いナビゲーショナルクエリ(特定のウェブサイトやサービスにアクセスしたいという意図を持って入力する検索クエリ)やトランザクショナルクエリ(商品購入や資料請求、予約などの具体的な「取引」や「行動」を目的とする検索クエリ)への流入数やアクセス数への影響は限定的とみられる。そのため、現時点ではGoogleが提供するSGEによる広告ビジネスへの直接的な影響は小さいものと考える。
次に、広告クリエイティブ制作領域では、AIにより制作物の大量・高速生成が可能となるが、制作物の品質やブランドの一貫性の担保には人間による監修が必要であり、AIと人間の役割分担が重要である。一方、既存の広告運用(オペレーション)業務はAIに置き換わり、人間は広告戦略立案やAIによる運用設計など高度な役割へシフトする必要があると考えられる。
このような変化により、広告業界はAIによる効率化と新たな機会を享受する一方、Webサイトへの検索流入数の減少や、AIによるクリエイティブ制作物の均質化、大手広告プラットフォームへの依存、制作物の著作権・コンプライアンスリスク、広告戦略立案の複雑化など、複数の課題も顕在している。
今後も広告市場では、既存のマスメディアからインターネット広告へのシフトは継続すると見込みである。加えて、SNS上のタイムラインやYouTube Shorts、TikTok、Instagram Reelsなどの縦型ショート動画プラットフォームへの出稿等、動画広告への広告投資が拡大していくと予測する。
また、AIによる広告運用業務自動化の進展も、インターネット広告市場の成長を後押ししている。Googleの「P-MAX」やMetaの「Advantage+」のように広告運用を自動化・最適化する仕組みが普及しつつあり、広告主は大規模な人員体制や専門知識を要さずとも効率的な広告運用を実現できるようになってきており、中小企業の広告主の市場参入を促進すると考える。
さらに、中長期的にはEC・リテールメディア広告(流通小売企業が自社で運営するECサイトやアプリを広告メディアとして提供する取り組み)の拡大も成長要因と考えられる。ECプラットフォーム内の広告需要は増加傾向にあり、さらに、オンラインと自社のリアル店舗の購買データを連動出来るEC・リテールメディア広告は、今後着実に伸長していく見通しである。
これらの要因を踏まえると、インターネット広告市場は2024年度から2029年度までの年平均成長率(CAGR)が9.6%で拡大し、2029年度の同市場は5兆6,768億円に達すると予測する。
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調査対象:インターネット広告代理店、メディアレップ、デジタル広告プラットフォーム(DSP/SSP)事業者、メディア等
調査期間:2025年7月~9月
調査方法:当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
※インターネット広告市場とは:本調査におけるインターネット広告市場規模は、インターネットの各種媒体に出稿された広告主による広告出稿額を合算し、算出している。
<市場に含まれる商品・サービス>
運用型広告[サーチ(検索連動)型広告、ディスプレイ広告、SNS広告、動画(プラットフォーム)広告、非運用型広告[純広告、記事(タイアップ)広告]、制作費
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