矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

レポートサマリー
2025.09.09

防災DX市場に関する調査を実施(2025年)

防災情報システムの2024年市場規模は184億円と推計。防災DXではフェースフリーが注目されており、情報システムやソフトウェア分野の投資拡大につながっている。

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内の防災DX市場を調査し、市場概況や将来展望、サービス提供事業者の動向などを明らかにした。ここでは、防災情報システム市場規模推移・予測について、公表する。

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【図表:国内の防災情報システム市場規模推移・予測】

【グラフ:国内の防災情報システム市場規模推移・予測】
  • 矢野経済研究所調べ
  • 注:災害関連データをデジタルで収集・統合・分析し、ユーザに対して適時・適切な情報と行動指針を提供するソフトウェア/アプリケーションを対象とし、事業者売上高ベースで算出した。
  • 注:2025年は見込値、2026年以降は予測値

 

防災DX市場の概況

近年、日本では地震や台風、豪雨などの大規模かつ甚大な災害が相次ぎ、将来的な南海トラフ地震や首都直下地震への警戒も高まっている。自治体職員数の減少や、高齢者や障害者、乳幼児、妊産婦、外国人など災害発生時に特別な配慮や支援を必要とする要配慮者数の増加といった社会変化も加わり、防災体制の高度化、防災DXへの取り組みは急務となっている。

本調査における防災情報システムとは、災害関連データをデジタルで収集・統合・分析し、ユーザに対して適時・適切な情報と行動指針を提供するソフトウェア/アプリケーションを指す。防災情報システムとしては、総合防災システムや災害情報管理システム、安否確認システム、災害情報配信サービス、災害予測ツール、被災者支援システム、防災向けGISなどが該当し、防災DXの中でも防災情報システムは重要な位置を占めている。

2024年の防災情報システム市場(事業者売上高ベース)を184億円と推計した。従来、防災関連投資の多くはインフラ復旧や食品、日用品の備蓄といったハードなどの整備が中心だったが、近年は洪水や気温上昇など気候変動リスクの顕在化を受けて、平常時からリスクを可視化し異常時に即時通知できる仕組みの整備が進んでいる。こうした取り組みは、情報システムやソフトウェア分野への投資拡大につながっており、2025年の防災情報システム市場は前年比101.6%の186億9,000万円を見込む。防災情報システム市場は今後も微増で推移していく見通しである。

※市場規模は自治体(地方公共団体)及び民間企業による支出を対象とし、国の予算による支出は含まない。

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防災DX市場の注目トピック

■防災DXでは、フェーズフリーがキーワードに
フェーズフリーは、防災DXの新たな方向性として大きな注目を集めている。
フェーズフリーでは「平常時」と災害対応の「切迫時」「応急時」「復旧・復興時」(非常時)、それぞれのフェーズをシームレスにつなぐため、防災ソリューションを提供する事業者はサービスに平常時でも利用可能な機能を備え、非常時と共通のシステムを継続的に活用できる設計を重視し始めている。背景には、防災ソリューションが災害対応の非常時だけのツールと見なされると投資判断が難しいという課題がある。

また、防災ソリューションは平常時の利用頻度が低く、ROI(Return On Investment、投資対効果)が見えにくいことから、自治体や民間企業における導入決裁が先送りされる傾向がある。そのため、備蓄品管理や、防災訓練の参集管理、インフラ点検、行政における住民サービスとの連携など日常業務と連携することで、防災ソリューションを平常時から活用する事例が増えている。
これにより、自治体職員は日常的に同じUI(User Interface)や操作フローに触れ、非常時でも迷わず活用できる状態を維持できる。「平時でも使える」のではなく「平時から使う」ことが重要であり、この運用形態が継続的な利用と投資拡大の両面につながっている。

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防災DX市場の将来展望

防災DXの将来を展望すると、政策動向、技術革新、民間投資拡大の3つの要素が相互に作用しながら発展していく見込みである。
国土強靱化基本計画の改定や防災庁の設立準備といった国の取り組みは、防災体制全体の底上げにつながり、防災ソリューションの需要を押し上げる契機となる。
技術面では、AI・IoT・デジタルツイン・ドローンなどの運用技術高度化や、データ連携基盤を活用した広域かつ精緻な情報処理の実装が進み、複数の災害種別に対応できる包括的なサービスの提供が拡大していく見通しである。
さらに、官民連携や産学官の協働により、防災DXを支えるエコシステムの形成が加速し、新規参入や異業種連携が防災DXの裾野を広げる要因となる。これらの動きは短期的な急拡大にはつながらないが、技術と制度の両輪による安定的、長期的な成長をもたらすと考える。

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参考:このレポートに掲載されている主なデータ一覧

  • 防災DX市場におけるPEST分析
  • 防災情報システム市場規模推移
  • 過去10年の主な地震災害
  • 中央防災会議が対象としている大規模地震
  • 過去10年の主な水害
  • 地方公共団体の職員数の推移(平成6年~令和6年)
  • スマートフォンの世帯保有率の推移
  • 国土強靭化が目指すこと
  • 防災DXサービスマップ掲載サービス
  • DMPの仕組み
  • 防災庁の必要性、防災庁の目的・役割
  • 防災庁の主な取組事項
  • B-PLoの概要
  • データ流通のイメージ図
  • SOBO-WEBの活用例
  • SOBO-WEBの概要図
  • 防災分野のデータ連携基盤のイメージ
  • 2024年度のデータ連携基盤の実証実験について
  • 実証実験で利用した各防災アプリケーションと機能概要
  • アプリ関連携のイメージ
  • 防災DXにおけるマイナンバーカードの想定活用例
  • 令和5年度避難者支援業務実証実験(第1回)でのマイナンバーカード利活用
  • マイナンバーカードの保有状況
  • 防災DXサービスマップ掲載サービス数(再掲)
  • クラウド型被災者支援システムの概要
  • マルチモーダルAIによる土砂災害画像の判読結果
  • 能登半島地震に関連する真偽の不確かな情報に対する確認・訂正行動
  • 被害情報収集システムの運用イメージ
  • 自治体におけるAI導入状況
  • クラウド型自動監視システムの概念図
  • 個人情報・公的情報等を安全に活用可能な被災者支援AIサービス開発基盤
  • クリノポールNEOを活用した事前防災に向けた観測イメージ
  • 延焼シミュレーターのイメージ
  • 海難・水難レスキュードローン「SAKURA」
  • 組織が防災DXを促進する要因
  • 防災DXにおける非顧客の3分類

■株式会社Gaia Vision

  • Gaia Visionの事業
  • 「Climate Vision」の画面イメージと主な特徴
  • 洪水予報ソリューション「Water Vision」の画面イメージ
■株式会社Spectee
  • Spectee Proの特徴
  • 車両滞留を再現したイメージ
■アジア航測株式会社
  • 災害情報システムのイメージと画面イメージ
  • 災害情報システムの主な機能
  • 自動運行ルート作成イメージ
■株式会社アスコエパートナーズ
  • 令和6年能登半島地震 支援情報ナビのイメージ図
■株式会社構造計画研究所
  • RiverCast × 公的情報のイメージ
  • RiverCastにおける高精度な予測モデルの構築
  • RiverCastの運用イメージ
■国際航業株式会社
  • 国際航業による多様な防災ソリューション
  • マルチモーダルAIによる土砂災害画像の判読結果
  • 延焼シミュレーターのイメージ
■株式会社スペースタイムエンジニアリング
  • Scenargie®スマート災対本部やスマート消防本部の基本構成
  • 通信インフラ非依存のシステム環境のイメージ
  • Scenargie®スマート災対本部の主な機能
  • Scenargie®スマート消防本部の主な機能
■株式会社ゼンリン
  • ゼンリンの防災サービス一覧
  • ゼンリン住宅地図LGWAN概要
  • ゼンリン住宅地図LGWANの利用環境イメージ
■株式会社ドーン
■能美防災株式会社
  • TASKisの主な機能
  • N-HOPSの主な機能
■株式会社バカン
  • 多様なチェックイン方法
  • デジタルハザードマップのイメージ
  • 避難所や施設情報の表示イメージ
  • 物資管理機能のイメージ
■白山工業株式会社
  • VissQイメージ
  • IoT地震観測サービスイメージ
  • 地震ザブトンイメージ
  • 「地震ザブトン」で体験できるモード
■ポケットサイン株式会社
  • ポケットサインのミニアプリ
  • ポケットサイン防災の主な機能

 

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関連リンク

■デイリーコラム
【発刊裏話】2025年版 防災DX市場の実態と展望
【アナリスト便り】「2025年版 防災DX市場の実態と展望」を発刊

■同カテゴリー
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調査要綱

調査対象:防災DX関連事業者等
調査期間:2025年5月~7月
調査方法:当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話・e-mail等によるヒアリング調査、ならびに文献調査併用

※防災DXとは:防災DXとは、災害の予測・準備・対応・復旧にデジタル技術を組み込み、防災・減災対策を高度化しながら被害を抑え、現場業務を迅速化する総合的取り組みである。

※防災情報システム市場とは:本調査における防災情報システムとは、災害関連データをデジタルで収集・統合・分析し、ユーザに対して適時・適切な情報と行動指針を提供するソフトウェア/アプリケーションを指す。
防災情報システム市場は、そうしたソフトウェアやアプリケーションを対象として、事業者売上高ベースで算出した。サーバや端末、防災無線などのハードウェアや、コンサルティングなどの人的サービスは含まない。
また、自治体(地方公共団体)及び民間企業による支出を対象とし、国の予算による支出は含まない。

<市場に含まれる商品・サービス>
防災情報システム(総合防災システム、災害情報管理システム、安否確認システム、災害情報配信サービス、災害予測ツール、被災者支援システム、防災向けGISなど)、災害情報共有プラットフォーム、AIや機械学習による被害予測、IoTセンサ群によるリアルタイム観測、衛星・ドローン画像を解析するリモートセンシング、デジタルツイン、GIS、5G、避難訓練や防災リテラシー向上を目的とした教育・啓発など

今野 慧佑(コンノ ケイスケ) 研究員
IT業界の発展はめまぐるしく、常に多くの情報が溢れています。 調査を通して、お客様にとって有益な情報を提供していけるように努めてまいります。

YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。

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