株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内の防災DX市場を調査し、市場概況や将来展望、サービス提供事業者の動向などを明らかにした。ここでは、防災情報システム市場規模推移・予測について、公表する。
【図表:国内の防災情報システム市場規模推移・予測】
近年、日本では地震や台風、豪雨などの大規模かつ甚大な災害が相次ぎ、将来的な南海トラフ地震や首都直下地震への警戒も高まっている。自治体職員数の減少や、高齢者や障害者、乳幼児、妊産婦、外国人など災害発生時に特別な配慮や支援を必要とする要配慮者数の増加といった社会変化も加わり、防災体制の高度化、防災DXへの取り組みは急務となっている。
本調査における防災情報システムとは、災害関連データをデジタルで収集・統合・分析し、ユーザに対して適時・適切な情報と行動指針を提供するソフトウェア/アプリケーションを指す。防災情報システムとしては、総合防災システムや災害情報管理システム、安否確認システム、災害情報配信サービス、災害予測ツール、被災者支援システム、防災向けGISなどが該当し、防災DXの中でも防災情報システムは重要な位置を占めている。
2024年の防災情報システム市場※(事業者売上高ベース)を184億円と推計した。従来、防災関連投資の多くはインフラ復旧や食品、日用品の備蓄といったハードなどの整備が中心だったが、近年は洪水や気温上昇など気候変動リスクの顕在化を受けて、平常時からリスクを可視化し異常時に即時通知できる仕組みの整備が進んでいる。こうした取り組みは、情報システムやソフトウェア分野への投資拡大につながっており、2025年の防災情報システム市場は前年比101.6%の186億9,000万円を見込む。防災情報システム市場は今後も微増で推移していく見通しである。
※市場規模は自治体(地方公共団体)及び民間企業による支出を対象とし、国の予算による支出は含まない。
■防災DXでは、フェーズフリーがキーワードに
フェーズフリーは、防災DXの新たな方向性として大きな注目を集めている。
フェーズフリーでは「平常時」と災害対応の「切迫時」「応急時」「復旧・復興時」(非常時)、それぞれのフェーズをシームレスにつなぐため、防災ソリューションを提供する事業者はサービスに平常時でも利用可能な機能を備え、非常時と共通のシステムを継続的に活用できる設計を重視し始めている。背景には、防災ソリューションが災害対応の非常時だけのツールと見なされると投資判断が難しいという課題がある。
また、防災ソリューションは平常時の利用頻度が低く、ROI(Return On Investment、投資対効果)が見えにくいことから、自治体や民間企業における導入決裁が先送りされる傾向がある。そのため、備蓄品管理や、防災訓練の参集管理、インフラ点検、行政における住民サービスとの連携など日常業務と連携することで、防災ソリューションを平常時から活用する事例が増えている。
これにより、自治体職員は日常的に同じUI(User Interface)や操作フローに触れ、非常時でも迷わず活用できる状態を維持できる。「平時でも使える」のではなく「平時から使う」ことが重要であり、この運用形態が継続的な利用と投資拡大の両面につながっている。
防災DXの将来を展望すると、政策動向、技術革新、民間投資拡大の3つの要素が相互に作用しながら発展していく見込みである。
国土強靱化基本計画の改定や防災庁の設立準備といった国の取り組みは、防災体制全体の底上げにつながり、防災ソリューションの需要を押し上げる契機となる。
技術面では、AI・IoT・デジタルツイン・ドローンなどの運用技術高度化や、データ連携基盤を活用した広域かつ精緻な情報処理の実装が進み、複数の災害種別に対応できる包括的なサービスの提供が拡大していく見通しである。
さらに、官民連携や産学官の協働により、防災DXを支えるエコシステムの形成が加速し、新規参入や異業種連携が防災DXの裾野を広げる要因となる。これらの動きは短期的な急拡大にはつながらないが、技術と制度の両輪による安定的、長期的な成長をもたらすと考える。
■株式会社Gaia Vision
■デイリーコラム
●【発刊裏話】2025年版 防災DX市場の実態と展望
●【アナリスト便り】「2025年版 防災DX市場の実態と展望」を発刊
■同カテゴリー
●[ソフトウェア]カテゴリ コンテンツ一覧
オリジナル情報が掲載されたショートレポートをお求めやすい価格でご利用いただけます!
調査対象:防災DX関連事業者等
調査期間:2025年5月~7月
調査方法:当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話・e-mail等によるヒアリング調査、ならびに文献調査併用
※防災DXとは:防災DXとは、災害の予測・準備・対応・復旧にデジタル技術を組み込み、防災・減災対策を高度化しながら被害を抑え、現場業務を迅速化する総合的取り組みである。
※防災情報システム市場とは:本調査における防災情報システムとは、災害関連データをデジタルで収集・統合・分析し、ユーザに対して適時・適切な情報と行動指針を提供するソフトウェア/アプリケーションを指す。
防災情報システム市場は、そうしたソフトウェアやアプリケーションを対象として、事業者売上高ベースで算出した。サーバや端末、防災無線などのハードウェアや、コンサルティングなどの人的サービスは含まない。
また、自治体(地方公共団体)及び民間企業による支出を対象とし、国の予算による支出は含まない。
<市場に含まれる商品・サービス>
防災情報システム(総合防災システム、災害情報管理システム、安否確認システム、災害情報配信サービス、災害予測ツール、被災者支援システム、防災向けGISなど)、災害情報共有プラットフォーム、AIや機械学習による被害予測、IoTセンサ群によるリアルタイム観測、衛星・ドローン画像を解析するリモートセンシング、デジタルツイン、GIS、5G、避難訓練や防災リテラシー向上を目的とした教育・啓発など
YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。
YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。