矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

レポートサマリー
2023.12.22

新規事業立ち上げ人材・推進人材の採用・育成に関する実態調査を実施(2023年)

新規事業立ち上げ期における人材の適性や、既存事業との関係性を踏まえた人材育成などの観点から、新規事業推進についての取組みを考察、提言を提示する。

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、新規事業の立ち上げ人材および推進人材の採用や育成に関する実態について調査、研究を行い、全社的に新規事業を推進していくうえでの考察を行い、提言をまとめた。

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【図表:新規事業立ち上げ人材の育成フェーズ】

【図表:新規事業立ち上げ人材の育成フェーズ】
  • 矢野経済研究所作成

 

新規事業立ち上げ人材・推進人材の採用・育成の概況

現下、多くの事業会社においてDX(デジタルトランスフォーメーション) 戦略を打ち出すなか、その一環として既存のビジネスモデルの変革やデジタルを活用した新規事業の創出に向けたプロジェクトが各社で進展している。一方で、これらを担う人材の発掘や育成、活用については課題もある。本調査では新規事業立ち上げ期における中核となる人材の適性や既存事業との関係性を踏まえた人材育成などの観点から、新規事業をどのように推進していくのか、その遂行状況について考察し、提言をまとめた。

本調査結果から、人材育成の観点から全社的に新規事業を推進する際には、3つのフェーズ(段階)を経る必要があると考える。フェーズを明示する上での指標について、縦軸は「全社への浸透度合い」の高さ、横軸は「新規事業推進部隊と既存事業部との関係度合い」の深さで設定した。注目トピック(後述)で言及する3つのフェーズを経ていく中で、全社への浸透と新規事業推進部隊と既存事業部との関係性が深まっていく形となる。

新規事業の推進に際しては、3つの重要な要素がある。既存事業の強化や既存の資産(人材を含む)を活用した新規事業の創出の必要性と併せて、将来に向けて会社をどのように変革させていくのか、全社に対して経営層から明確な戦略や方向性を打ち出す必要がある。

また新規事業推進人材(部隊)が新規事業を推進していくうえでは、予算権限を持った経営層のリーダーシップとともに、社内公約が必要である。新規事業の推進への理解や支援体制を含め、明確な意思決定を社内に周知徹底し、全社が同じ方向に進むことのできる公約が重要となる。

更に、新規事業推進に向けた仕組み(攻め)とセーフティネット(安全網)の整備(守り)が不可欠である。新規事業の立ち上げに向けて、適格な人材を確保する上で、事業アイデアを発掘すべくアイデアコンテストをはじめとしたさまざまな仕組みを整備する必要がある。新規事業は一般的に千三つ(1,000件のうち成功する案件は3つ)とされ、失敗も多い。失敗した際に事業アイデアの提案者向けにセーフティネットを整備することが自主的なチャレンジを生みだすものと考える。こうした仕組みを整えることで新規事業をはじめ、企業変革や既存事業の強化などの全社的な推進体制の構築が可能となる。

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新規事業立ち上げ人材・推進人材の採用・育成の注目トピック

■新規事業立上げ人材・推進人材の育成に係る3つのフェーズ
新規事業を基軸に中核となる人材の育成については、調査結果概要(前述)で提示した指標(図.「新規事業立ち上げ人材の育成フェーズ」参照)をベースに、立ち上げ期、コア人材輩出期、自律分散期といった3つのフェーズ(段階)を通じて全社的な取り組みへと拡充していく必要があるものと考える。

【フェーズ1】立ち上げ期
立ち上げ期は、新規事業を立ち上げた経験のある人材やその一部に携わった経験のある人材を中心に、新規事業を推進する部隊を立ち上げる必要がある。特にアイデアの創出や実証実験など新規事業を生み出す初期段階においては、経験者を当該部隊に招聘し、部隊メンバー(従業員)同士が新規事業推進プロジェクトを通じてスキルアップしていく形となる。
【フェーズ2】コア人材輩出期
新規事業立ち上げ候補となる中核となる人材を輩出すべく育成に力を入れるフェーズとなる。まず対象となる人材の選出に際して、過去の業務経験や知見、専門性などを考慮の上、人材の適性を明確にしておくことが望ましい。一つの施策として社内の全従業員向けにアイデアコンテストを開催する取り組みも見受けられる。
次に選出した人材(部隊メンバー)向けの研修として、実戦型に重きを置いたうえで、事業アイデアの整理から事業計画書の作成、実証実験、ブラッシュアップ、そして提供開始までの各プロセスに応じて、選出した人材に対して新規事業推進部隊が伴走支援を行っていくことが重要となる。
【フェーズ3】自律分散期
自律分散型組織とは、各人が指示・命令などなくても自律的な活動をしていく、いわば生命体のような組織とされる。本フェーズでは新規事業推進部隊が育成した中核となる人材を中心に自部署の資産を活用し、アイデアの事業化やビジネスモデルの変革に向けて取り組んでいく。併せて、新たな立ち上げ候補となる人材(従業員)を見出したうえで自身のノウハウを承継しながら、自律分散的な仕組みが整っていく形となる。
そうした結果、新規事業推進部隊は中核となる人材の育成と併せて、部署ごとに進める新規事業の推進に際しての課題解決の支援や新たな施策を打ち出していく位置づけになる。また、会社として予算権限を持った経営層がトップとなり、適度な緊張感を持った横断型組織を設置、経営層と全ての事業部が全社的に取り組む形に至ることが可能となる。これにより新規事業立上げ人材・推進人材の育成を通じて、全社的に企業変革や既存事業の強化などを推し進めていく体制が構築できるものと考える。

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参考:このレポートに掲載されている主なデータ一覧

  • デジタルビジネスイノベータ―の育成に係るフェーズ
  • 立上げ期の状況
  • コア人材輩出期の状況
  • 自律分散期の状況
  • 各社の戦略
  • 各社の新規事業部隊とその役割
  • 新規事業立上げ推進部隊による支援範囲
  • 各社の研修概要
  • ユニークな制度の例
  • 富士フイルムホールディングスのステージゲートプロセス
  • 各社の新規事業立上げ推進メンバーの採用に関する考え方
  • 新規事業立上げ推進メンバーの資質
  • 旭化成
  • 清水建設
  • 中外製薬
  • 東芝
  • 富士フイルムホールディングス
  • ヤンマーホールディングス

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調査要綱

調査対象:新規事業立上げ人材・推進人材のモデルケースとして当社が抽出した企業
調査期間:2023年9月~11月
調査方法:当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)ならびに文献調査併用

※新規事業立ち上げ人材・推進人材とは:本調査における新規事業立ち上げ人材・推進人材とは、既存事業の強化や新規事業の創出を目的として、アイデアの創出からPoC(Proof of Concept:概念実証)、サービスの開始に至るまでのプロセスに取り組む人材もしくは同プロセスを推進支援する人材と定義している。

山口 泰裕(ヤマグチ ヤスヒロ) 主任研究員
ITを通じてあらゆる業界が連携してきています。こうした中、有望な業界は?競合・協業しうる企業は?参入障壁は?・・・など戦略を策定、実行に移す上でさまざまな課題が出てきます。現場を回り実態を掴み、必要な情報のご提供や戦略策定のご支援をさせて頂きたいと思います。お気軽にお声掛け頂ければと思います。

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